エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
「どう言う事だ」
「……」
事実を伝えられたユーリは、すぐさま来た道を戻りイレーナに詰め寄った。
アイギスはその様子を不安そうに見つめ、追いかけてきたメシアは離れた位置で状況を見守っている。
「落ち着いてください中佐」
「落ち着けるか! 何故そんな大事な事を黙っていた」
「伝える必要が無いと判断しましたので」
「っ!」
「ユーリ。落ち着いてください」
苛立ちを募らせるユーリを、アイギスがなだめる。
まだ拙い動きをする相棒の姿を見て、一度深呼吸をしたユーリは静かに口を動かした。
「……とにかく説明してもらうぞ」
「こうなった以上、仕方ありませんね」
ユーリが睨みつけながら出した提案に、イレーナは頷くと真っ直ぐ見つめながら説明し始めた。
「まず我々が滅ぶ理由ですが、これは言うまでもありません。過去と未来を繋ぐワープホールを造り出すのには、相当のエーテルが使用されます。この基地に残された資材では、ワープホールと同時に周波数を出す事は不可能。そしてビーストはその隙を逃すほど知能は低くない」
「それ位は何となくでも分かる。だが過去を改変すれば未来は変わるんじゃないのか?」
疑問を口にしたユーリに対しイレーナはゆっくりと首を横に振り、逆に質問をしてきた。
「マルチバース理論は知っていますか?」
「……確か並行世界って事だったか?」
「まあ似たような理論です。違いはアイギスかメシアから聞くべきでしょう」
よく理解していないので、とイレーナは柔らかな笑みを浮かべる。
ユーリも難しい事柄を追及する気はなく、ここはスルーする事に決めた。
「ともかく我々は理論を元にワープホールを造り出しました。ですがどれだけ似ていようと、正確には別の世界。中佐を元の世界に戻せても、この世界には影響がないのです」
「……」
自分たちが滅ぶ話だと言うのに、イレーナはまるで当然のように話し終え黙り込む。
その表情があまりに穏やかだったので、ユーリは何も言えなくなる。
代わりに質問したのは、聞いていたアイギスであった。
「ではなぜユーリを呼び出したのですか? あまりに労力と釣り合ってないような」
「ああ単純ですよアイギス。これは我々のビーストに対する嫌がらせです」
「嫌がらせ……」
アイギスが納得してないように繰り返すと、イレーナは頷きメシアに質問する。
「メシア。もし彼らを呼ばず、最低限の暮らしを保証するとして。あと何年この世界を持続できますか?」
「……現情報では農作などを希望的な観測にした場合。十年程かと」
「「!!」」
「という訳です。何をしなくても、十年もすれば我々は死に絶えるのです」
驚愕するユーリとアイギスをよそに、イレーナは言葉を続ける。
その姿は年老いたとしても、元王女の肩書きに相応しい力強さを持っていた。
「こちらの不甲斐なさで、勝手に重荷を背負わせた事。それは唯一の後悔です。ですが来てもらった以上、責任と希望をもって中佐を元の世界に送り出します。……その結果、我々がどうなろうとも」
イレーナの。
いやこの世界の決意に対し、ユーリは何も言い返せず立ちすんだ。
気圧の変化で体調が悪いですが、何とか書くことが出来ました
皆さんもお気をつけて