エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第115話 滅びへの決意

「どう言う事だ」

「……」

 

 事実を伝えられたユーリは、すぐさま来た道を戻りイレーナに詰め寄った。

 アイギスはその様子を不安そうに見つめ、追いかけてきたメシアは離れた位置で状況を見守っている。

 

「落ち着いてください中佐」

「落ち着けるか! 何故そんな大事な事を黙っていた」

「伝える必要が無いと判断しましたので」

「っ!」

「ユーリ。落ち着いてください」

 

 苛立ちを募らせるユーリを、アイギスがなだめる。

 まだ拙い動きをする相棒の姿を見て、一度深呼吸をしたユーリは静かに口を動かした。

 

「……とにかく説明してもらうぞ」

「こうなった以上、仕方ありませんね」

 

 ユーリが睨みつけながら出した提案に、イレーナは頷くと真っ直ぐ見つめながら説明し始めた。

 

「まず我々が滅ぶ理由ですが、これは言うまでもありません。過去と未来を繋ぐワープホールを造り出すのには、相当のエーテルが使用されます。この基地に残された資材では、ワープホールと同時に周波数を出す事は不可能。そしてビーストはその隙を逃すほど知能は低くない」

「それ位は何となくでも分かる。だが過去を改変すれば未来は変わるんじゃないのか?」

 

 疑問を口にしたユーリに対しイレーナはゆっくりと首を横に振り、逆に質問をしてきた。

 

「マルチバース理論は知っていますか?」

「……確か並行世界って事だったか?」

「まあ似たような理論です。違いはアイギスかメシアから聞くべきでしょう」

 

 よく理解していないので、とイレーナは柔らかな笑みを浮かべる。

 ユーリも難しい事柄を追及する気はなく、ここはスルーする事に決めた。

 

「ともかく我々は理論を元にワープホールを造り出しました。ですがどれだけ似ていようと、正確には別の世界。中佐を元の世界に戻せても、この世界には影響がないのです」

「……」

 

 自分たちが滅ぶ話だと言うのに、イレーナはまるで当然のように話し終え黙り込む。

 その表情があまりに穏やかだったので、ユーリは何も言えなくなる。

 代わりに質問したのは、聞いていたアイギスであった。

 

「ではなぜユーリを呼び出したのですか? あまりに労力と釣り合ってないような」

「ああ単純ですよアイギス。これは我々のビーストに対する嫌がらせです」

「嫌がらせ……」

 

 アイギスが納得してないように繰り返すと、イレーナは頷きメシアに質問する。

 

「メシア。もし彼らを呼ばず、最低限の暮らしを保証するとして。あと何年この世界を持続できますか?」

「……現情報では農作などを希望的な観測にした場合。十年程かと」

「「!!」」

「という訳です。何をしなくても、十年もすれば我々は死に絶えるのです」

 

 驚愕するユーリとアイギスをよそに、イレーナは言葉を続ける。

 その姿は年老いたとしても、元王女の肩書きに相応しい力強さを持っていた。

 

「こちらの不甲斐なさで、勝手に重荷を背負わせた事。それは唯一の後悔です。ですが来てもらった以上、責任と希望をもって中佐を元の世界に送り出します。……その結果、我々がどうなろうとも」

 

 イレーナの。

 いやこの世界の決意に対し、ユーリは何も言い返せず立ちすんだ。




気圧の変化で体調が悪いですが、何とか書くことが出来ました
皆さんもお気をつけて
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