エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
「……」
真実を伝えられた翌日。
ユーリは何をする訳でもなく基地内を一人で歩いていた。
体を手に入れたばかりのアイギスは動きの最終確認の為におらず、メシアは他に用があると言って傍を離れたである。
(……はぁ)
内心でため息をつくユーリの心中は、昨日から沈んだままであった。
勝手に期待されている事には慣れてはいたが、大きな責任を背負う事には不慣れ。
それも二千人もの命と未来が両肩に重くのしかかっているのだから、ため息も吐きたくなるだろう。
(希望を背負えるような、そんな立派な人間じゃないのにな)
たまたまMT操縦にちょっとした才能があった、只の浮浪児。
様々な因果で英雄とまで呼ばれるようになったが、二つ名に相応しくない事はユーリ自身が強く感じていた。
(逃げる訳にもいかないが。……荷が重いな)
そんな事を考えながら歩いていたからか、基地の中心部から離れた場所まで来ていた。
引き返そうと踵を返した時に、やけに賑やかな声に気付く。
興味が引かれたユーリは、声がする方に近づいてみる。
「こっちこっち!」
「待ってよ~!」
すると見えたのは保育園のような場所で、幼少の子ども達が集まって遊んでいる姿が見えた。
しばらく微笑ましく見ていたユーリであったが、邪魔するのも悪いと思い退散しようとする。
「え? アカバ中佐……?」
「あっ。確かイザベラ……だったか」
聞いた事のある声に振り返ってみれば、この世界で出迎えてくれたイザベラが驚いた表情でユーリを見ていた。
「な、なな名前を憶えて頂いて恐縮です!」
顔を真っ赤にしながら敬礼をするイザベラに嘆息しながらも、ユーリは落ち着かせるために優しく声をかける。
「そう緊張しないで。どう言われていようと、俺は一介のパイロットに過ぎないんだから」
「は、はい!」
未だにガチガチに緊張しているイザベラ。
どうすべきか頭を悩ませるユーリであったが、一人の男の子が近づいて来て声をかける。
「兄ちゃんが英雄ユーリ・アカバ?」
「……確かにユーリだけど。俺は」
英雄である事を否定しようとするユーリであったが、それよりも早く少年は他の子ども達に声を張り上げた。
「おーい皆! 英雄が来てくれたぞ!」
呼び声に反応し集まったのは五十人程度の少年少女。
まさに怒涛のようにユーリを囲うと、質問攻めにする。
「本当に英雄さんなの!?」
「勲章みせてー!」
「愛人何人いるの!」
「ちょっ! 待って!」
力任せに引き剥がす訳にもいかず、只々戸惑うユーリ。
どうすべきか考えていると、固まっていたイザベラが行動を起こした。
「皆! 一度に聞いても困るでしょう? 質問は一人ずつ、ね」
「はーい。イザベラ姉ちゃん」
イザベラの一声で子ども達は行儀よくなると、質問をするために一列に並び始めた。
その様子を見ながら、ユーリは感心したようにイザベラに声を掛ける。
「随分と素直に聞くんだな」
「こ、ここには先生なんて居ないのです。だ、だから私が時折顔を出している内に代表みたいになって」
「姉ちゃんまだー?」
「……すみませんけど」
「分かってるよ。よし! どんな質問だ?」
・・・・・
それからしばらく、ユーリは子ども達の質問に答えていった。
途中マセている質問にはデコピンで答えたが、他には真面目に返した。
「ふぅ」
「お、お疲れ様です」
「ああ。ありがとう」
最後の質問を終え一息つくユーリに、イザベラが水を差しだす。
再び遊びに興じる子どもらを見つめながら喉を潤すが、思わずイザベラに話しかける。
「俺が過去に戻ったら、あの子たちは……」
「一人たちとも、残らないでしょうね」
「知っているんだな」
「もう一年前から知らされてましたから。子ども達も知ってますよ」
「……なのにあんなに明るく遊べるのか」
誰一人として悲壮感を浮かべる事もなく遊ぶ少年少女。
その様子に驚きを滲ませるユーリに、イザベラは空を見上げながら答える。
「あの子らが産まれた時には、世界は奴らのものでした。それを当然とする世界より、一矢報いた世界の方がいい。そんな事を言う子もいました」
「イザベラ。お前は?」
「正直に言えば納得し難い所もあります。けれど、子ども達が受け入れているのに、迷う事なんて出来ませんから」
「……そうか」
苦笑するイザベラに、短く返事を返すユーリ。
すると一人離れて遊んでいた少女が、二人の元に近づいて来た。
「英雄のお兄ちゃん! これ!」
「ん?」
手渡された物を見てみると、それは紐で作られたブレスレットであった。
手作りなのか拙い部分はあるが、とにかく丈夫そうに見える。
「これは?」
「お守り! だってお兄ちゃん。私たちの代わりに奴らと戦うんでしょ?」
「……ああ」
「だからお守り! どんなに辛くても、帰れるように!」
「嬉しいよ。ありがとう」
ユーリの返事を聞き、少女は満足した顔を見せて遊びの輪に加わる。
お守りを見つめるユーリの横で、イザベラは少女に視線を向けながら独り言のように口を開く。
「あの子の親はパイロットで、二人とも奴らに殺されたんです」
「えっ」
「だから中佐と会って渡すんだって、何度も納得いくまで作り直してたんですよ」
「……」
「中佐。そのお守り……大切にしてくださいね」
「……ああ」
イザベラの言葉に、ユーリは力強く答える。
自らの心に刻み込むように。
もうすぐ六月
梅雨の季節が迫ってます
今年は豪雨の被害が無い事を祈ります
(小説と関係ない話でスミマセン!!)