エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
その日、人類最後の砦であるテルモ基地には全戦力であるMT五十機ほどが周囲を警戒していた。
どの機体も遠距離兵器を構え何時でも戦闘ができるようにしてる姿から見ても、緊迫感は相当なものである。
【この基地を拠り所とする、全ての人へ】
そこに代表であるイレーナから通信が入る。
通信はMTパイロットだけでなく、基地内にいる非戦闘員含め誰もが静かに耳を傾けている。
【まずは今日という日が無事に迎えられた事に感謝を。……そして謝罪をしなければなりません】
突然の謝罪に多くの者が疑問を浮かべる中、イレーナは話し続けていく。
【ビーストの来襲。予期できる事態では無かったとは言え、国を滅ぼされ多くの人々の命が失われたのは我々にあります】
イレーナの発言に対し、多くの者は何も言う事は出来なかった。
この場にいる殆どの人間は、連邦が滅んでから生まれた命。
だから当時の事について何も言う事は出来ないし、恨むつもりなど無かった。
【そして残された命を薪として、過去へと希望の火を届ける。非道とも取れるような作戦が始まろうとしています。恨みもあるでしょう。後悔もあるでしょう。……このような選択しか掴み取れなかった我々は、きっと愚かなのでしょう】
もはやこれは懺悔であった。
残された人類である二千人に向けたイレーナの懺悔を、それぞれの場所で聞いていた人々は黙って聞き続けている。
【この作戦の成功の是非に関わらず、基地の存続は不可能。生き残ったとしても生活を保障できないでしょう。……ですが希望を届けるために、最後の一人になったとしても戦い抜かねばなりません。これが最後の願いです。基地にいる全員の力を用いて、作戦を成功に導きましょう】
イレーナが黙り込むと、しばらくの間は痛い程の沈黙が支配する。
だが何処から手を叩く音が聞こえたかと思えば、基地内の全員が肯定で埋め尽くされているような万雷の拍手が聞こえてきた。
中にはイレーナの名を連呼する声も聞こえる程であり、この作戦と代表に対する支持の高さが垣間見えた。
「……皆さん。ありがとう」
皆に聞こえないよう小さな声で呟くイレーナ。
その目から一筋の涙が流れていた事を、知る者は少なかった。
だがすぐさま代表としての顔になると、作戦の開始を宣言する。
【これより原初の火作戦を開始! 基地の全てのビースト除けである周波数をカット! ワープホール作成に全エーテルを回しなさい!】
号令と共にそれぞれの役割を果たすべく、基地内が騒がしく動き始める。
戦闘員は元より、本来は守られるべきである子ども達ですら出来る事をこなしていく。
「代表! 基地を囲うようにビーストが! その数……百を超え増え続けています!」
数分も経たない内にオペレーターからもたらされた知らせに、イレーナは動揺する事無くワープホールの進捗を確認する。
「完成までどの程度ですか」
「さ、最低でもあと十分は掛かります!」
「可能な限り縮めてください。MT部隊は各々の判断でビーストを近づけさせないよう奮戦するように」
「り、了解!」
「……届けてみせる。必ず」
徐々に形成されていくワープホールを横目にイレーナは小さく、されど堅牢な覚悟を口にするのであった。
さて九章もクライマックスとなって参りました。
六月中には九章も終わり、続けて十章。
そしてエピローグとなる予定です。
週二の更新なので完結は先の話ですが(笑)
是非最後までご覧ください!