エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第119話 星の如く、花の如く

 ワープホール作成開始から十分の時間が経とうとしていた。

 大群と例える事すら烏滸がましい数で迫るビースト。

 迎え撃つは旧式を廃物利用して造り上げられたMTである『ラプター』五十機ほど。

 ラプターには小型の周波数発生装置が備えられており、狭い範囲ながらビーストのシールドを無効化できる。

 

 ―だが状況は皆が危惧していた通りの結果であった

 

 暴風雨の如く撃ち続けられるビーストの砲撃を辛うじて躱し一匹を切り裂いても、奴らは群れとなってMTの装甲を容易く噛み千切るのである。

 そしてパイロットが断末魔を上げる間も無くコックピットごとラプターを食べ尽くし、更なる食事を求めて基地へと近づいていく。

 この時間は人にとっては決戦であるが、ビーストにとって戦闘でなければ狩りであすらない。

 例えるならば祭り

 ご馳走が自らやって来たような、早い者勝ちの乱痴気騒ぎであった。

 

 ―それでもパイロットたちの希望は潰えてなどいない

 

 僅か数分で半分以下になったとしても、互いにフォローし合い一秒でも長く踏み止まろうと足掻き続ける。

 ライフルが弾切れしたならサーベルで、サーベルが使えなくなったならマニピュレーターで、彼あるいは彼女らは戦う。

 ワープホールが完成するまであと数分。

 数分間さえ守り抜けば、生死に関わらず勝ちなのだから。

 

 ―全ては、生み出した希望を送り届ける為に

 

 パイロット達は星の如く輝きながら、花の如く命を散らしていく。

 

・・・・・

 

「……」

 

 過去のテルモ基地には存在しない、シェルターを兼ねた特殊格納庫。

 この格納庫に存在している機体は、今も昔もプロメテウス一機。

 メカニックすらいない静寂な空間で、息をしている存在はパイロットであるユーリ・アカバのみ。

 慣れないコックピットシートに背中を預けている彼は、出陣の時を只待ち続けていた。

 傍に寄る事すら躊躇するような空気を出し続けるユーリであったが、突如長らく閉ざされていた口を開く。

 

「……アイギス」

【ユーリ。何か?】

 

 呼びかけに対し、聞きなれたアイギスの機械音声が返答する。

 新しく手に入れたアイギスの体はユーリの後方にある複座にあるが、プロメテウスと繋がっている間は動きが一切出来ないため音声も機器を通してであった。

 

「ワープホール完成まで、あとどれだけ掛かる」

【事前の情報では、まだ十分は掛かるかと】

「……そうか」

 

 短く返事をしたユーリは、再び黙り込む。

 例えビーストの姿が見えなくとも、迫って来ている事はヒシヒシと感じているのだろう。

 何せ始めは微かに聞こえていた戦闘音が、今は激しい振動と共に襲い掛かっているのだから。

 

【マスター。彼女から連絡が入りました】

「内容は?」

 

 そこに話しかけるのは、もう一人のAIであるメシア。

 アイギスよりも高い機械音声が耳に入ると、ユーリは送り主を確かめる事もなく聞き返す。

 

【「門が開くまで二分。出立の準備をされたし。幸運を祈る」……と】

 

 聞き終えたユーリは一度左手首を見つめ何かを確かめると、意思の籠った声でプロメテウスと一体となったAI二人の名を呼ぶ。

 

「アイギス。メシア。何時でも行けるな」

【運動制御システムは全てオールグリーン。問題ありませんユーリ】

【火器制御も問題なし。記憶できるだけの技術データも異常はないよマスター】

「よし」

 

 ユーリは短く返事をしたかと思うと、深く息を吐き気持ちを整えていく。

 クリアになっていく視界の中で、この世界で出会った人々の顔が浮かんでは消えていった。

 だが最早その目に迷いは無く、想いを託した者たちの為に戦って生き抜くという意思を宿している。

 

 ―そして、時は来た

 

【マスター!】

「プロメテウス! ユーリ・アカバ! 出る!」

 

 メシアが言い切るよりも速く、格納庫の扉が開き切るよりも速くユーリは操縦桿を前に倒す。

 

 二千人しか居ない世界の覚悟と希望を背負い、神の名を持ったMTがついに動く




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個人的には前半は今までの中でも良い出来だったのではと考えています。
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