エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第120話 世界は終わり、希望は紡がれる

 四つの大型スラスターが生み出す推力によって、格納庫の扉を突き破り外へと出たプロメテウス。

 だがモニター越しにユーリの目に飛び込んで来たのは、想定を超えた惨状であった。

 

「っ!」

 

 基地のあらゆる箇所が抉られたようにビーストに食い荒らされており、雷鳴が止まない空も相まって世界の終わりを想像させるには十分である。

 そんな状況の中、既に十機程にまで減ったラプターたちが必死にワープホールに敵を近づけさせまいと奮戦する姿が確認できた。

 

【マスター。今は】

 

 決死の覚悟をもって守っている彼らを助ける事は出来ない。

 メシアが念を押そうとすると、ユーリは言葉を遮った。

 

「言わなくてもいい。……ワープホールに突入する」

【ユーリ。できるだけ比較的ビーストが密集していないルートを】

「いや、最短で行く!」

【言うと思いました】

 

 アイギスの呆れたような発言を無視し、ユーリは再びスラスターにエーテルを回していく。

 オリハルコンを直接搭載しているだけあって、噴き出される量も半端ではない。

 瞬く間にジークフリートの最大スピードを超えると、ワープホールに肉薄する。

 高速で近づくプロメテウスに気付いたのか、鳥型のビーストが二匹ほど迫まる。

 

「邪魔だ!」

 

 すぐさまユーリは腕部に収納されていたエーテルサーベル二本を取り出しエネルギー刃を展開。

 スピードを緩める事無くビーストと交差すると、二匹を両断してみせる。

 そのまま前進するユーリだが、後ろから更に鳥型ビーストがプロメテウスに接近していた。

 

【甘い】

 

 だがメシアは踵に内蔵していたブレードを展開。

 そのままユーリが後ろ蹴りを行うと、頭部を切り裂かれたビーストは地に墜ちていった。

 いとも簡単にビースト三匹を返り討ちにしたユーリは、再び最短でワープホールへと急ぐ。

 しかし生物としての本能か、この時点でビーストの攻撃がプロメテウスに集中し始める。

 飛べるビーストは道を塞ごうと集結し、それ以外は地上から砲撃で狙う。

 

「っ! アイギス! 機体制御は任せる!」

【了解。期待に応えてみせます】

 

 任されたアイギスは、砲撃の軌道などを予測しつつ僅かな回避運動を行いワープホールに近づいていく。

 一方でユーリは集結しつつある目の前のビーストを駆除するため、背中のウェポンラックから専用の大型ライフルを取り出す。

 

「メシア」

【照準の誤差修正ですね。AIアイギスより優秀である事を証明しましょう】

 

 メシアの発言に苦笑しつつ、ユーリはライフルでビーストに向けて構える。

 アイギスに回避運動を一任しているため狙いがブレるが、長年の技量とメシアのサポートで補い引き金をひく。

 以前使用していたモノより断然高出力な赤いエーテルが、ビーストの胴体を引き裂いた。

 そのまま二発三発と放つ度に、ビーストたちは撃たれた箇所を蒸発させていく。

 

「ちっ! やっぱり数が多い!」

 

 だがどれだけ正確に狙い撃とうと、一向にビーストの数が減る気配はない。

 むしろ時間を掛ける程に立ちふさがるビーストが増え、砲撃も苛烈さを増していく。

 アイギスの正確な回避により損傷は受けてないが、このままでは辿り着くにも時間がかかるのは明白であった。

 

「……メシア。レーヴァテインは?」

【使用可能です。この状況を覆せるかは、五分ですが】

「……」

 

 ワープホールまでは最短距離ならば僅か。

 躊躇して作戦が失敗するよりも、切り札を使った方がマシ。

 ユーリがレーヴァテイン使用をメシアに指示しようとした、その時であった。

 残っていたラプターたちが一点突破し、プロメテウスの為に道を切り開いたのである。

 

「行ってくださいよ英雄殿。その為に自分たちは戦っているんですから」

「ダストンか!?」

「運が良いのか悪いのか生き残りましてね」

 

 通信してきたダストンの声に驚くユーリ。

 どれが彼の機体かは判別できないが、どの機体も損傷だらけであった。

 中にはコックピットが半分喰われているラプターもあり、どれだけの激戦をして来たかなど聞くまでもない。

 

「アカバ中佐! 最後にご一緒出来て光栄でした!」

「イザベラ」

「……あの子たちの分まで、頑張ってください」

 

 その言葉を最後に、イザベラとの通信は途絶えた。

 切ったのか、それとも……。

 

「行くぞ。アイギス、メシア」

【【了解】】

 

 覚悟を改めて決めたユーリは、切り拓かれた過去への道を全速で突き進む。

 例えラプターが食われかけていたとしても、ビーストの口に腕部を突っ込んで道連れにしようとしても、振り返らずに。

 

 ―そして

 

「勝った!」

 

 プロメテウスがワープホールに吸い込まれたと同時に、彼らは勝利を確信した。

 残っていたパイロットたちは追撃されないようワープホールを破壊すると、ラプターの自爆装置を起動。

 誰もが達成感に満たされながら、残っていた六機全てが暗雲立ち込める空の中で爆炎に散った。

 その十数秒後

 残されていた生存者によって基地の自爆装置が押され、ビーストを巻き添えにして地上から姿を消す。

 

 ―こうして希望を託す為に戦い続けた一つの世界は、確かな勝利と共に終わりを迎えたのである




次回ついに九章が完結(予定)!
SF色が強くなった章でしたが、楽しんでもらえたでしょうか?
続く十章にもご期待ください!
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