エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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十章 次元決戦
第122話 次元の迷い人


 エデン連邦の首都であるエリン近郊。

 その主要な道から離れた草原を、一台のジープが風を切って走っていた。

 

「へぇ。じゃあ二人は小さな時から一緒なのか」

 

 まだ二十代後半から三十代前半と思われる運転手の男が、後ろの十代の男女に気さくに声を掛ける。

 

「ええ。まあ」

 

 だが曖昧ながらも返事をしたのは男子の方のみで、女子の方は不安そうに目を泳がせ続けていた。

 二人は手を握り合っており、緊張し合っているのが見て取れる。

 運転手も気分を和らげようと話を振っているのだが、あまり意味を成していないのが現状だ。

 何とも言えない空気がジープを包む中、男子が運転手に質問してきた。

 

「あの……此処って本当に異世界なんですか? あんまりそんな雰囲気が無いですけど」

「そっちの話を聞く限り、多分間違いないと思うぞ」

 

 男子の勇気を振り絞った質問は、あまりにも軽く返された。

 そもそも運転手と男女二人の出会いは、二人が道の真ん中でオドオドとしながら立っていた所を拾われたのだ。

 出会った際に運転手から異世界だと説明されれば、信用できないのも無理はないだろう。

 

「で、でも車とかあるし」

「そっちの考えている異世界がどんなのかは知らないけど、自分の常識であまり考えない方がいい」

「端末で調べましたが、お二人の言っていた学校や国は見つかりませんでした。やはり『アリス』で間違いありませんね」

 

 話に割って入るように、今まで喋らなかった金髪の女が二人にとっては絶望的な情報を口にする。

 呆然とする男子の横で、女子がオズオズと小さな声で疑問を口にした。

 

「あの、アリスって何ですか?」

「アリスとは別の次元から来た人間の通称です。由来はとある本の登場人物となっています」

「……そういった人たちって、多いんですか?」

「月日が経つごとに増加傾向にありますね。去年は把握されているだけで二百人近くになっています」

「そんなに」

 

 それだけ多くの人々が同じ境遇である事に、女子は不謹慎ながらも安心した様子を見せた。

 一方でショックから立ち直った男子は、望みを掴みたい一心で運転手と女に質問を投げかける。

 

「それで僕たち帰れるんですか?」

「こっちも専門家じゃないからな。具体的な日数は分からないけど、そっちの世界の座標軸なんかを把握するのに……まあ二年は掛かるだろけど帰れるだろう」

「二年……ですか」

 

 帰れるという希望と、二年という月日を過ごさねばならないという現実に顔を俯かせる男子。

 だが不安を拭うように、恋人でもある女の子が手を強く握り柔らかく微笑む。

 自分と同じ気持ちにも関わらず、勇気づけてくれる彼女の姿を見て男子も力強く頷きを返す。

 

「いい雰囲気のところ悪いんだが、しっかりと何かに掴まっていろ!」

 

 そう言うと運転手はいきなりアクセルを全開にする。

 重力に押されて体をぶつけた男子は文句を言おうとするが、後方から聞こえた轟音に掻き消されてしまう。

 

「……えっ!?」

 

 一拍置いてようやく爆発が起きた事に気付くと、男子は必死に状況を確認しようとする。

 だが運転手の叱り声によって中止させられた。

 

「顔を出すな! 破片にぶつかったら死ぬぞ!」

「な、何が起きてるんですか?」

「恐らく周囲を縄張りとしている盗賊でしょう。……まさか首都近辺で動くほどの蛮勇があるとは予想外でしたが」

 

 そのような事を言いながら何かしら組み立て始めた女をよそに、運転手はバックミラーで何かしら呟く。

 

「サラマンダーが三機。払い下げになったとは言え、盗賊の手足じゃあ名機が泣くな。……牽制を頼む」

「了解」

 

 女はシートベルトを自ら外すと、ジープから身を乗り出す。

 

「あ、危ないですよ!」

 

 思わず叫ぶ男子を無視し、女は抱えていた最新式の折り畳み型である対MT用迎撃砲の引き金を躊躇なくひいた。

 弾頭は最も接近していたサラマンダーのカメラに着弾。

 メインカメラをやられた機体はコントロールを失い、その場に音を立てて倒れ込んだ。

 ポカンとする十代たちをよそに、運転手と女は慣れた様子で会話を続ける。

 

「よくやったな。で、通信は?」

「問題なく繋がりました。もう少しすれば来るはずです」

「あ、あの。二人は何か特別な職業なんですか? 何だか手慣れているような……」

 

 追われている状況でするべき質問ではないと男子も思ったが、あまりの状況に思わず聞いてしまう。

 だが答えを聞く前に、残っていた二機のサラマンダーが動きを見せた。

 一機が回り込んで退路を塞いだのだ。

 急ブレーキで衝突は免れたが、このままでは逃げ道がないのは素人にも分かるだろう。

 先程の迎撃が効いているのかジリジリと距離を詰める二機。

 だが体を震わせる後部座席に対し、運転手と女はどこか余裕を見せている。

 

(こ、この人たちは一体……)

 

 再び男子の脳裏に疑問が浮かんだ時、前に立ちふさがっていたサラマンダーの頭部が閃光によって吹き飛ばされた。

 

「来たな」

 

 運転手の言葉の意味を考える間もなく、上空から来たグレーをメインカラーにしたMT五機がジープと残るサラマンダーを包囲するように陣取る。

 抵抗は無駄だと悟ったのか、盗賊はコックピットを開けて投降。

 三機の灰色のMTが盗賊達の処理に掛かる中、残る二機はジープに近づき話しかけてきた。

 

「特務大佐。ご無事ですか」

「ああ怪我一つない。今回も助かった」

「あとで中尉と艦長から説教を受けるでしょうけどね」

「……それが一番嫌だな」

「あ、あの。この人たちは?」

 

 状況について行けず質問する男子に対し、助手席の女が代わりに答える。

 

「心配せずとも灰色のMT……ロボットは軍のものです。これから二人を保護してもらいますので、お別れですね」

「それで、お二人は一体」

 

 女子の質問に対し、パイロットとの話が終わった運転手はフッと笑うと風になびく黒髪を押さえながら答えるのであった。

 

「俺はユーリ・アカバ。こっちはアイギス。これでも軍人だ」

 

 巨大ロボットを背に堂々とした姿で答えるユーリと名乗った男の姿を、二人は生涯忘れる事は無かったと言う。

 

 ―時代は新西暦七十年

 ユーリ・アカバが未来から帰還して七年の月日が経っていた。




十章の始まりは如何でしたか?
九章から七年が経ち、主人公であるユーリも三十歳になりました。
どのような戦いが待ち受けているのか?
どうぞご期待ください!
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