エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
プロメテウスの量産型であるデュカリオンの開発に成功した連邦は、エース級が扱うに足るカスタマイズ機の増産に着手した。
この方針によってデュカリオンを元にした様々な発展形が生まれ、実戦に投入される事となる。
次世代艦であるエンタープライズ級を建造しつつもここまで増産できたのは、大国であるが故の資本力と技術部の優秀さに他ならない。
現在アイシャが搭乗しているドゥルガーも、ゴッテス・プランと呼ばれる開発系統によって生まれた一機。
インド神話の女神と同じ名を持つこのMTの特徴は、パイロットであるアイシャに合わせて接近戦に特化している事だろう。
「邪魔!」
敵MTの懐に飛び込んだアイシャは、ドゥルガーの最大の武器である実体兵器タイプである大剣を横薙ぎに振るう構えを取る。
狙われたハウンドドッグは避けるべきか、それとも反撃すべきか一瞬の迷いが生じた。
その隙を逃す事無く、深紅の女神はMTとほぼ同サイズの大剣を軽々と振るい目の前の敵を両断してみせる。
「!!」
へし折られた味方機が青い海中に沈むのを横目に、左右から他のハウンドドッグが挟み撃ちを画策。
巨大な振るった後ならば反撃できないと考えた上での作戦だったのであろう。
考え方としては正しく、万が一の事を考え挟み込んだのも概ね間違っていなかった。
「甘いって!」
だが元々対ビースト。
それも一対多を想定して開発されたドゥルガーは、その程度では止まらない。
挟まれると気づいたアイシャは大剣に仕込まれていたスラスターを展開。
急激な加速により本来ならありえないスピードと軌道にて、迫りくる二機を薙ぎ払ってみせた。
「次!」
すぐさま次の敵機に迫るアイシャであったが、ロゴス側は遠方からの射撃をするのみで近づこうとしない。
ドゥルガーが接近戦特化だと分かり、射撃で足止めする腹積もりだろう。
……だがロゴス側とすれば残念な事に
「だから」
こういった状況になる事は、当然シュミレーション済みである。
「甘いって!」
アイシャの叫びに呼応するように、ドゥルガーの両肩が突如パージされる。
するとそのパーツからエーテル刃が飛び出したかと思うと、回転しながら敵機に向かって突撃していく。
デュカリオンのカスタム機の多くには簡易AIを使用した、オールレンジ兵器が搭載されている。
本家であるプロメテウスのレーヴァテインには遠く及ばない代物であるが、対処に慣れてないロゴス陣営が混乱するには十分であった。
「この間合い、取った!」
すかさずアイシャは敵陣に飛び込むと、得物である大剣と背中に装備されているサーベル付きのサブアームを使い大空を舞うかの如く敵機を切り裂く。
元々機体スペックでは勝てないハウンドドッグは、次々に海の藻屑となっていくのであった。
「よし! このまま何かする前に押し込む!」
そう意気込んで切り込んでいくアイシャに続くように、他の隊のMTも次々に前線を押し上げていく。
もはや勝ち目が無いように見えるロゴス側であったが、この場面で起死回生の一手を打ってきた。
「隊長! 後方から敵艦隊が接近中です!」
「何か企んでいるとは思ったけど」
既にほとんどのMTは前線に食い込んでおり、戻ろうにも時間が掛かるだろう。
その事が分かっている為か心配そうなジョンを気にした様子もなく、アイシャは淡々と命令を下す。
「このまま前進。押し込んで敵艦隊を壊滅させる」
「戻らなくていいんですか」
ジョンの一言に対し、アイシャは深々とため息を吐きながらユキカゼの方を確認する。
「あのねぇ。この状況であの人が居ない訳、分からないほど馬鹿じゃないでしょ?」
「……ああ」
アイシャはようやく納得した様子のジョンに軽く笑いながら、最後にユキカゼを見て誰にも聞こえないように言葉を漏らす。
「期待してますね。隊長」
その視線の先では、全身が白でカラーリングされたMTがユキカゼから飛び立ったであった。
アイシャ&ドゥルガー大奮戦の回でした
次回はようやくユーリ出陣!
プロメテウスの強さが表れるエピソードを書いていきたいと思います