エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
「よし! 全隊このまま突撃! デカい的だ、確実に仕留めるぞ!」
エデン軍の脇腹を突いた奇襲を指揮した部隊長である男は、部下や己を鼓舞するように声を張り上げる。
歴戦の強者を思わせる視線の先で捉えている目標は、旗艦であるユキカゼただ一隻。
(敵の主力は引き離してある! いける!)
不安材料であった兵力差も前線の奮戦によって誘導が成功し、エデン側の大きな隙となっていた。
実際エリカは戦力を前方へと集中させており、残っているMTは僅か。
部隊長は作戦の成功を確信するが、同時に感じる不安を誤魔化す事が出来ずにいた。
(何だ、この悪寒は。まるで踏み込んではいけない場所へ首を突っ込んでいるような……)
必死に頭から追い出そうとする男であったが、ユキカゼに近づく程に強くなる悪寒は不安を掻き立てていく。
―そして己の感覚が正しかった事を男はすぐに知る事となった
自身の後ろを付いてきていた部下のハウンドドッグが突如爆散。
赤い爆炎が海面に照らされる中、部隊長である男は状況が分からないままでも指示を飛ばす。
「敵だ! 周囲を警戒しろ!」
奇襲を返されながらも部隊長の命令を受け迎撃を整えた彼らは、ロゴスの中でも統率された部隊であったろう。
だが一機また一機とエーテルによる閃光が瞬き、ハウンドドッグが大空に爆炎と共に散っていく。
(くっ! レーダーには何も映ってない! 幽霊だとでも言うのか!?)
不可解な状況を混乱する頭で必死に理解しようとしていた男の視線の隅に、僅かに動く物体が見え反射レベルのスピードで引き金をひく。
乱雑な狙いで放たれた実弾であったが、弾は直撃コースで空間を引き裂いていく。
すると物体は動きを止め、エーテルによって作られたシールドを展開し弾丸を防ぐ。
だが姿が丸見えとなったソレの正体を、男は資料で知っていた。
「あれは連邦の四枚羽が使用する誘導兵器……! 気をつけろ! 近くに死神がいるぞ!」
四つの特徴的な大型スラスターから、ロゴスでは四枚羽と呼ばれるプロメテウス。
その誘導兵器が稼働しているという事は、間違いなく近くにいる証拠である。
伝説的な逸話が生きながらにして伝わり、かつて死神として恐れられた英雄であるユーリ・アカバが。
シールドを展開していた誘導兵器であるレーヴァテインが動きを再開すると、同時にレーダーには八つの反応が示されていた。
おそらくステルス機能も搭載されていたのだろうと男は判断しつつ、対処するべき新たに指示を出す。
「一対一で当たるな! 動きを止めている内に仕留めろ!」
この指示に間違いはない。
如何に高機動で動き回られても、集団で掛かればそこまでの脅威にはならない。
だが彼らは知らない。
レーヴァテインを動かしているのは、この世界で並ぶ者は無い程の処理速度を持った超高性能AIである事を。
「くっ! 当たる気すらせん!」
まるで針に糸を通すような精密にて複雑な軌道をレーヴァテインは描いてロゴス側を翻弄する。
加えて先程までの遠距離一辺倒ではなく、エーテル刃を展開しての接近戦。
さらに単にコックピットや頭部を狙わず、腕やフライトユニットといった箇所も積極的に攻撃しレーヴァテイン同士の連携も見せる。
(まずい。このままでは誘導兵器一つに部隊が壊滅する)
ここは捨て身でも動きを止めなければと、隙を見せるのも構わず男はライフルを構える。
エーテル刃を展開してハウンドドッグに突撃しようとしているレーヴァテインを見つけると、神経を集中させ狙いを定めていく。
「!!」
それは歴戦のパイロットであった男の勘。
この場に留まれば死、という感覚を覚え本能的に回避行動を取る。
すると部隊長のハウンドドッグの装甲を削るようにして、死神の鎌を予感させる何かが横切った。
動揺を必死に抑えながら男が正体を確認すると、腕部に内蔵された爪のような兵装を展開し四つのメインカメラを自身に向けている白いMT。
「死神……!」
本来はもう少し短くなる予定でしたが、長めになりそうなので分割しました。
ようやくレーヴァテインを使用している所を書けて少しホッとしました。
次回も頑張って執筆しますので、応援お願いします!