エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
―男は元々アーストンの軍人であった。
目立つ戦績こそ無いが部下をよくまとめ上げ堅実に戦う事に関しては、上からも評価されていた程である。
メシアリベリオンにおいても第三陣にて味方を支えた、歴戦の勇士。
そんな彼が何故ロゴスに身を寄せているかと問われれば、流れに身を任せた結果と言う他に無い。
妻が上流階層出身であった事。
本家が連邦への統合の際、様々な罪が露呈し財産没収の憂き目にあった事。
恨みに思った一部がロゴスの中核に潜り込み、彼も妻と子と共に来るよう強要された事。
全てが男の意思ではなく、周りの都合が重なって出来上がった結果であった。
(落ち着け……落ち着け……)
そして今、彼はロゴス側の部隊長としてプロメテウスと対峙していた。
かつては味方として安心すら感じていた白い装甲が、敵として向き合ってこんなにも恐ろしさを感じるものだとは思いもしなかった。
加えて機体性能は彼のMTであるハウンドドッグよりも遥かに上。
勝てる見込みなど、万に一つも見いだせない。
(だが倒さなくていい。何とか時間稼ぎをすればいい)
数で勝っている事を頼りに、味方がエデン側の旗艦であるユキカゼを仕留める。
それが唯一の勝ち筋だと信じ、プロメテウスから一定の距離を取って攻めるタイミングを図っていく。
現在部下たちは誘導兵器であるレーヴァテインに翻弄されているが、落ち着きを取り戻す為にも速くプロメテウスを止める事を決意する。
(よし。そろそろ)
警戒してるのか動かないでいるプロメテウスを見て、アックスを両手に男は愛機のスラスターを全開にして突っ込んでいく。
海面に影を残さない程のスピードをもって肉薄したハウンドドッグが、アックスを大きく振るう。
一撃で仕留められるとは考えてないが、それでも防御も間に合わない間合いとスピード。
最低でも片腕は持っていく勝算はあった。
「なん、だと」
だからこそ、プロメテウスが渾身の一撃を腕に内蔵された爪だけで受け止めた事実は受け入れがたい。
男は本来であればもう一撃、いや失敗した時点で距離を離すべきであろう。
だが呆然としている頭ではそこまで考えるに至らず、更には逆の腕の爪が迫っている事に気付いた時は、既に完全な回避は不可能な距離まで迫っていた。
「くっ!」
必死に操縦桿を操作し直撃を避けれたのは、男の力量あってのもの。
だが未来で精製された超高度の爪は、ハウンドドッグの厚い装甲を容易く引き裂き左の肩と腕を奪う。
(まずい。話にならん……!)
機体性能もだが、使いこなすパイロットの力量も自分とは圧倒的な差がある。
ともかく片腕のみの接近戦で勝てる訳もない相手。
男はとにかく距離を取り、遠距離での牽制に専念するべきだと判断。
だが行動に移すよりも速く、プロメテウスは右膝を突き出してきた。
行動の意味を図りかねる男であったが、答えはすぐに自身の身に降りかかった。
「がっ!?」
右膝から衝撃波のような物が放たれ、男にコックピット越しに凄まじい衝撃が襲い掛かる。
ハウンドドッグ自体も大きく弾き飛ばされ、無防備な姿を敵に晒してしまう。
「しまっ!?」
男は今がどれだけ危険な状況であるかを悟るが、気づいた時には手遅れ。
腕にプロメテウスの爪が愛機の装甲を突き刺さる。
さらにトドメと言わんばかりに、爪の間に内蔵されていたマシンガンからエーテルを撃ち尽くす。
撃ち終わるとプロメテウスは興味を無くしたかのようにハウンドドッグを引き剝がし、何事も無かったようにその場を去って行った。
「……何を間違えたんだろうか」
機体が爆発するまでの僅かな間で、男は今まで燻っていた問いを天に向かって口にする。
だが答える者などいるハズもなく、ただ間の悪かった男は爆散するまで考え続けるのであった。
連日の猛暑・酷暑で執筆も中々大変になってまいりました。
皆さんも熱中症などには十二分にお気を付けを。
次回は新MT・新キャラ登場……するかも。