エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
ロゴスとの戦いに勝利したエデン連邦は戦後処理を素早く終わらせると、ビースト殲滅の戦いに向け本格的な準備を開始。
そして戦争から三か月が経ったこの日、軍の関係者を集めた会議が行われた。
エデンに所属している者のみならず、異世界での同盟に参加している重要人物も招集されている事から見ても、この会議が如何に重要かが伺えるだろう。
誰もが緊張の面持ちで待つ中、開始時刻と共に二人のエデン軍人が前に出た。
「わたしはエデン連邦の総司令官のエーヘンバッハだ。早速ではあるがビースト殲滅を目的とした作戦の説明に入る。では作戦指揮官となるブレイン特務大佐」
エーヘンバッハと交代し要人の視線に晒されるエリカであったが、その目に一切の躊躇は見えない。
エリカは軽く頭を下げると、不躾なほど素早く本題に入った。
「まず戦場となるビーストの生息場所について説明させてもらいます。知っての通りビーストは次元をワープして現れる生態を持ちます。そして二年前、ついに無人機による次元の特定に至りました」
ざわつく会場の空気を置き去りにし、エリカは用意されていたモニターに映像を流し始める。
「これは」
誰が漏らしたかも分からない言葉ではあったが、それは初めて映像を見る者の心の内を現していた。
空も陸も海も無い。
所々に岩が浮かんでいるだけの、幾何学模様の宇宙をイメージされる空間。
だが彼らが驚いたのはそこではない。
無人機によるカメラ一面に写り込むビーストの数。
軽く見ただけでも千や万を超えている事は明白であり、見る者の戦意を削ぐには十分に思えた。
「……勝てるのか? 本当に」
顔面蒼白となりつつある若い将校の言葉に誰もが黙り込む中、唯一エリカは力強く答える。
「現状判明している情報では、六割の勝算と言わざるを得ません」
「ろ、六割」
低いとは言えないが、それでも賭けに出るには二の足を踏んでしまうような数字。
だが場が静まり返る中で、高いエリカの声はよく響いた。
「ええ僅か六割。ですが勝ち目がゼロであった七年前から、我々は五分以上に持ち込む事に成功したのです」
彼女の言葉は少しずつではあるが聞いていた者の心に火を灯していく。
「我々には責任があります。未来からの希望を託された責任。他の世界を巻き込んだ責任。ならば勝てる算段のある我々が、いま力を振るわずに誰が戦えるでしょうか」
何時しか俯いていた多くの者が正面を見ていた、その事を感じ取ったエリカは自分の胸に手を当て微笑みを浮かべる。
「戦いましょう。数多の世界で今も生まれてくる子ども達に、ビーストという驚異が無い世界を」
誰も言葉を返さない。
だが団結している事は、皆が一斉に頷いている事からエリカは感じとっていた。
「では説明を再開します。以前からビーストには母体となる存在がいると予想されましたが、今回の映像には微かではありますが母体と考えられるモノが映り込んでいました」
エリカは停止していた映像をもう一度再生。
そこには自らの居場所を犯す異物に対し、攻撃を仕掛けるビーストの姿が流れていた。
無人機がプログラム通りにひたすら回避行動を取った影響か、最初とは違い大きくブレる映像。
しばらく誰もが静かに見守っている中、突如としてエリカは映像を止めた。
「ここに写っているのがビーストの母体と思われます。便宜上ここからはマザー級と呼ばせてもらいます」
「デブリ。いや、岩とかでは無いのか?」
ある将校が疑問を持つのも当然であり、カメラにはゴマ粒程度の大きさの何かが映っている程度。
だがエリカは自信を持って断言する。
「いえマザー級に間違いありません。この倍率では不明瞭ですが、ビーストを生み出している最中です。……ただ」
今まで明瞭に話していたエリカが黙り込み、会場が不安がる。
だが彼女が次に口にした情報には、誰もが驚きで声を失うモノであった。
「機体からの距離やカメラの倍率。そして他のビーストとの比較から、マザー級の大きさは旧オーストラリア大陸と同等程度と判明しました」
会場が一斉に静まり返り、痛い程の沈黙が覆う。
エリカ自身もしばらく黙り込んでいたが、ある質問によって場の空気が一変する。
「先程の勝算。あれはマザー級の存在を含めてのものなのか?」
「……はい。この規模は流石に想定していませんでしたが、対巨大ビースト用の兵器は開発済みです」
力強い言葉に再び会場に希望が灯る。
そのチャンスを逃さず、エリカは説明の続きを口にし始める。
「我々が勝利するにはマザー級を駆逐しなければなりません。故に作戦は三段階。まずビーストが住処としている次元に大艦隊を送り込める程の領域を形成するA段階。次に襲い掛かる敵を排除しつつマザー級を探索するB段階。そして見つけたマザー級を仕留める最終段階の構成となります」
真剣にエリカの言葉を頭に入れていく軍人たち。
ここでエーヘンバッハが再び前に出ると、強く主張し始める。
「聞いての通り我々が勝つ望みはある。だが作戦の長期化は免れない上に、戦死者も多く出るだろう。だが断言しよう! この作戦、『オペレーション・ノヴァ』にはそれだけの価値があると!」
気迫が籠ったエーヘンバッハの声が、何時しか会場にいた者を全員立ち上がらせていた。
「共に切り拓こう! 超新星の如く、眩い未来を!」
天に掲げられた拳は、やがて大きな賛同の声と共に幾つも突き上げられるのであった。
こうして正式にオペレーション・ノヴァが発動。
作戦開始は来年の始まりと同時と決まったのである。
ついにビースト戦、オペレーション・ノヴァが始動!
来たるべき向け動き出す中、ユーリはどうなるのか?
是非次回もお楽しみに!