エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
月日は瞬く間に過ぎ、十二月も中旬を迎えた。
本来であれば年越しの準備などで忙しくなる時期であるが、今年は違う様相を見せていた。
既にオペレーション・ノヴァは市民にも知られる段階となっており、総力を挙げての作戦に向けた調整を行っている。
特に戦場に向かう艦のクルーやパイロットがいる家族や恋人は、悔いが残らないよう一緒の時を過ごしていく。
「……」
だがA段階とC段階の中核を為し、勝利の女神と祝福を合わせた造語『ヴィクトレス』という部隊名が付けられた独立艦隊。
その指揮官という立場である特務大佐、ユーリ・アカバの姿はかつて激戦が行われたテルモ基地にあった。
廃棄されてから久しい基地の外部を、只々見つめる彼の顔からは夜という事もあり表情が読み取れない。
「ユーリ」
「マスター」
その後ろには護衛の意味も込め軍服姿のアイギスと、相変わらずのメイド服を身に纏うメシアが付いて来ていた。
普段は反発し合い、つい先ほども服装の事で揉めていた二人であるが、今は空気を読んで控えている。
基地についてから一言も発さないユーリを心配し、二人で声をかけても返事はない。
そもそも何の前触れもなく来たいと彼が言い出した事も謎であり、高性能AIを持ってしても読み切れないでいた。
「ユ」
「あれから七年以上も経ったんだな」
再びアイギスの呼びかけるのと同じタイミングで、ようやくユーリの口が動く。
一瞬何を言われているか分からないでいたアイギスとメシアであったが、未来から帰還してからの年月の事を言っているのだと理解する。
「ここに来たのは追悼する為ですかユーリ?」
アイギスの問いかけにユーリは軽く鼻で笑うと、ようやく二人の顔を見ながら話し始めた。
「残念だが的外れだ。ここに来ただけで供養になるとは思ってないよ」
「では何をしに? 悔しいですがマスターの心情が読み切れません」
メシアの素直な疑問に対して軽く笑い、彼は天上で輝く星を見上げながらゆっくりと口にしていく。
「戻って来たから七年。自分なりに頑張ったつもりだ」
「ええ。ユーリの頑張りは全て記憶しています。ご覧になりますか?」
「遠慮しておくよ」
本気で言っているだろうアイギスに笑みを返しつつ、ユーリは続きを話す。
「まあ単純に言えば。俺の姿を見て満足してくれるかと考えてな。……俺をこの世界に戻すために散った、二千人の命たちは」
言葉を選ぶようにゆっくりと話すユーリ。
彼が言い終わると同時に、メシアは一気に距離を詰めると抱きしめる。
「メシア?」
「……きっと」
「?」
「きっと認めてくれていますよ。マスターを選んだ判断は間違っていなかったと」
この三人の中で、最もあの未来に思い出があるのは言うまでもなくメシアである。
恐らく他にもユーリに伝えたい言葉はあるだろうが、あえてシンプルな言葉だけを口にして勇気づけようとする気持ちが込められていた。
「……ありがとうな」
「過分な言葉ですよ。本来であれば土に返るだけのポンコツAIですから」
「そう思っているならば、少し隙間を空けてください。入れません」
とそこに割って入ったのは、言うまでもなくアイギスである。
正面が占領されているのを見て、ユーリの背中に抱き着くもう一人の高性能AIも思いの程を口にしていく。
「確かに未来で散った方々を語るにはデータが足りませんが、ユーリに関しては負けてないつもりです。ユーリ。あなたは我々が支えるに相応しい人です。どうか、それだけは忘れないで」
「ええ。これだけの力が揃っているんです。相手がビーストであろと神であろうと、敵う者はいません」
「……技術の結晶であるAIが神を語るのはどうなんだよ」
そのツッコミに対し、アイギスとメシアは自然と笑みがこぼれていく。
ユーリも思わず笑顔になり、寒い夜だというのに非常に温かい空間となっていた。
今度来る時は勝利の報告と抱えきれない花束を持ってくる事を誓って、三人の姿は暗闇に溶けていく。
―それから十数日後、ついに決戦開始の日を人類は迎えた
次回からはようやくビーストとの決戦が始まります。
人類の総力を挙げた戦いに勝つ事が出来るのか?
次回もご期待ください!