エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
―その光景を言い表すのであれば、地獄と例えるのが相応しい
天も地も、何処が上か下かも分からないような幾何学模様に包まれた空間。
漂流している岩が時折流れている程度で、他には何も見当たらない無の次元。
―そんな空間の中で、ビーストは群れをなして生きていた
奴らに目的など無い。
そもそも知性と呼べるものをマザー級から与えられていないからだ。
ただ飢えを満たすために次元を渡って狩りをする、生物として単純な欲求に従っているに過ぎない。
故に、本来であればこの次元にあるはずの無い黒い鉄の塊が幾つも浮遊していても気に留める者はいない。
その塊がビーストが身に纏う防御膜を無効化した上で爆発するよう開発された新型兵器である事に気付いたのは、エデン時刻においてキッカリ新西暦七十一年の一月一日を迎えた時であった。
轟音で空間を揺れ眩い光が次元を照らし、ビーストたちは光源へと一斉に視線を向ける。
ビーストたちに知覚できたのは、光に包まれた同類が消え去った事のみ。
異変に気付いたマザー級によって指示を受け、上位個体が調べに空白となった地帯を調べに動きかけるが、ほぼ同時に次の異変を感じ取った。
重力場の変動。
しかしビーストたちにとって珍しい事でも無く、狩りに出ていた同類が戻って来たのだと判断した上位個体。
知性に乏しく、常に狩る側であった奴らにはその程度にしか考えられない。
故に光源の中心に一隻の巨大軍艦が現れても、新たな餌だという認識しか持てず我先にと名の如く向かっていく。
だが巨大艦の周りに一隻また一隻と爆発エリアを覆いつくすように艦が現れれば、知能が低くとも異常だと気づいた。
しかし気付くにしても遅すぎた。
巨大艦を中心に円球のように布陣した艦たちは、一斉に砲撃を開始。
最新の周波数発生装置により、射程距離に入る全てのビーストの防御膜は無効化。
そのため近づいてきた奴らはハリネズミの如く、隙間が見当たらない艦砲射撃によって塵となっていく。
ビーストたちは砲撃から逃げようと距離を取る。
だがその隙を逃さず艦からは何体もの人型機動兵器を射出し、次々に群れに突撃していった。
ここまで来てようやくマザー級は理解する。
奴らは決して餌などではなく、己を殺す為に降り立った狩人なのだと。
だと理解していても、マザー級が下す命令は変わらない。
己が生み出した下位存在に、ただ一つの短いオーダーを下す。
『殺せ』
マザー級から命令を受けたビーストたちは、現れた軍艦たちに突撃していく。
その光景を見ながらも、生み出した大本は何も感じない。
剥がれた皮膚や爪がどれだけ消耗しようと、気にするだけの感情は持っていなかったからだ。
だが少なくとも理解している事があった。
―これはどちらかが力尽きるまで行われる、生存競争だと
ついに始まったオペレーション・ノヴァ。
果たしてユーリたちは生き残る事が出来るのか?
次回もお楽しみに!