エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
アルテミスによって次元を超えたオリオンの一撃。
射程範囲にいたビーストは跡形もなく消え去った。
未だ圧倒的な総数を誇る敵であるが、それでも千単位で壊滅させた事には間違いない。
逆に勢いに乗った味方は、次々に安全圏を確保。
別次元で待機している艦隊を呼び込む下地を作っていく。
「吹き飛べ!」
そんな中、未だ前線で奮戦し続けるユーリ。
オリハルコンを直接搭載しており半永久的に動けるとは言え、人間が操縦している以上は限界が来る。
しかしユーリに疲労の気配はなく、精密な動きに陰りは見当たらない。
今も近づいてきた中型を膝から発生させる衝撃波で吹き飛ばすと、強化された大型ライフルから撃ちだされるエーテル光で巻き込まれた小型ごと貫いた。
「ユーリ。戦闘開始から一時間経過しています。長期戦になる以上、ユキカゼに帰艦した方が」
「同意しますマスター。少し張り切りすぎです」
だがここで高性能AIが揃って戻る事を進める。
基本的に息の合わないアイギスとメシアであるが、ユーリの安全を確保する事に関しては九割の確率で意見が揃うのであった。
「そうは言うが。これだけビーストが湧いて出たら、引くに引けないだろ」
以前モニターに映る無量大数とも思えるビーストたち。
ある程度まで駆逐しなければ捜索する段階まで入れないため、ユーリに気合が入るのも無理はない。
「それとこれとは話が別です。マザー級と戦う前に力尽きる気ですか?」
「多少とは言え装甲も傷ついています。整備のためにも戻るべきです」
「……そうだな」
二人同時の説得に折れたユーリ。
前方のデルタ級の一群に残っていたミサイルを全弾撃ちこみ、帰艦しようとした瞬間にユキカゼのエリカから通信が入る。
「随分と好調のようですね。特務」
「まあボチボチな。……要件は?」
「間もなくB段階へと移行します。ユキカゼ所属のMTはC段階まで休息しますので帰艦してください」
「随分と早いな。予定では最低でもあと一時間は戦闘を維持するじゃないのか?」
「どうやらビーストにも警戒心はあるようで、動きが鈍くなってきています。これなら捜索に入っても問題ないと判断しました」
エリカと話している間、近づいて来る敵はアイギスがプロメテウスの回避運動をしメシアが火器制御を担当し迎撃していく。
最新鋭の慣性制御により殆ど揺れのないコックピット内で、ユーリは会話に集中する。
「分かった。丁度一度戻るつもりだったしな」
「油断して帰る途中で墜とされたりしないでください。無事帰艦してこそ士気が上がるのですから」
「分かってるさ。じゃあ切るぞ」
「ええ。では」
了承を得てから通信を切ると、ユーリは操縦桿を操りビーストたちに対峙する。
「どうしましたかマスター?」
「最後に一つ試しておきたい事がある」
「ユーリ。無理に使う必要もないと思いますが?」
「余裕のある今だからだ。使用感も分からないで、緊急の時に使用できる訳がないだろ」
「……一理ありますが」
ユーリの理屈に不承不承そうな声で同意するアイギス。
対してメシアは既に準備を開始していた。
「ジュネレーターとの連結を確認。エーテル充填を開始します」
「すまんなメシア」
「いえ。しっかりとした理屈がある以上、反対する事もありません。AIアイギスはどうか知りませんけど」
「喧嘩を売ってますか? AIメシア」
「悪いが後にしてくれ。撃ったら直ちに離脱する。アイギスも用意を頼む」
「……了解」
ユーリがアイギスを説得している間にも、メシアによって準備は着々を進められていた。
胸部装甲が開き、新たに設計された発射口が顔を覗かせる。
邪魔しようとする敵はレーヴァテインによって迎撃、及び防がれ近づく事すら出来ない。
徐々に青く発光するエーテルが集まっていき、今か今かと放たれるのを待っていた。
「充填率八十パーセントを突破。動力直結式エーテル砲、いつでも撃てます」
「よし! 喰らえ獣ども!」
発射のトリガーを躊躇なく引くユーリ。
同時に並みのMTならば動けなくなる程のエーテルが拡散し、数多の光がビーストたちを薙ぎ払っていく。
その後の観測によれば、この攻撃によって撃滅されたビーストは百以上。
塵となった敵を見届けると、プロメテウスは白い機影を残しユキカゼへと向かうのであった。
こうして奇襲は成功し、マザー級を捜索するB段階へと移行したユーリたち。
しかし三か月という時が過ぎても、目標を見つけるには至らないでいた。
ビースト殲滅戦、第一段階完了です!
果たしてユーリたちはマザー級を見つけ出す事が出来るのか?
次回にもご期待ください!