エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
初日から快進撃で飾ったオペレーション・ノヴァであったが、B段階であるマザー級の捜索は遅々として進展しなかった。
範囲が広大である事も要因の一つであるが、それだけでは大陸級の巨体は隠しきれない。
他の小型や中型の妨害もあり、パイロットやクルーの間では焦燥感が募っていく一方となる。
そんな中でC段階に向け後方待機しているユキカゼのバーにて、艦長であるエリカ主催による懇親会が行われていた。
「はぁ」
「随分お疲れね。隊長」
会場となっているバーの壁に背を預けつつ溜め息を吐くユーリ。
誰もが気を使って声を掛けるのを躊躇う中、アイシャが二人分のグラスを持って近づいて来た。
手渡されるドリンクを受け取り一口飲んだユーリは、当然の如く隣に陣取る部下に呆れながら会話を始める。
「疲れているのが見て取れないか?」
「全部見てたから分かるわよ。ここに居る全員から話しかけられたかもね」
大規模とは言えユキカゼのクルー全員が懇親会に来ている訳では当然ない。
だが巨大艦であるエンタープライズ級だけあり、千を超える面子が集まっている。
その殆どに声を掛けられれば、疲れた顔をするのも当然と言えた。
「分かっているなら放っておいてくれないか? しばらくは口を動かしたくない」
「まあそれは置いておいて」
「置くな。直視しろ」
「真面目な話。艦長は構想を練ってるの? 彼女ブリッジと艦長室の往復だけで、碌に私室にも戻ってない気がするけど」
軍人としての顔で問いかけてくるアイシャに釣られ、表情を引き締めるユーリ。
場に似つかわしくない会話であるが、大勢が話し込んでいるため気づく者は少ない。
気づいたとしてもユキカゼの中でもトップクラスに有名な二人の会話に割り込む者などいる筈もなく、堂々とした密談が出来てしまっていた。
「……アイギスやメシアも交えて議論しているようだが、まだ具体的な案は出てきて無いらしい」
「そう。まあ確かに大陸クラスの大物が見つからないなんて、想定外だしね」
「ああ。何かしらのトリックがあるんだろうが、タネも仕掛けも見当たらないのが現状だ」
決して明るくは無い話題ではあるが、二人の表情からは諦めは見て取れない。
これからどう動く動くべきか?
むしろ両人とも、顔はそのような事を考えているように見えた。
「嘆いても仕方ない。俺たちが考えるべきは見つかった後だ」
「不本意だけど決戦に向けて休養出来てる状況だから、体力という意味では回復できてるし補給も完璧。アレも何時でも撃てるって」
「だったら後は総力を使ってマザー級を墜とすのみだな」
来るべき戦いに向けて気力を充実している様子のユーリ。
そんな彼の様子を見ながら、アイシャは微笑みを向ける。
「? 何だ?」
「別に? ただこれからも一緒に居たいなって」
「……居てもいいが、その顔は止めろ。ムカつく」
「どうしようかな~?」
「お前そんな性格だったか?」
ユーリの言葉に軽く笑い、魅力的な笑みを浮かべるアイシャ。
だがこの空気を引き裂くように、緊急を知らせるアラートが鳴り響く。
「「!!」」
盛り上がっていた場が一気に引き締まり、緊張感に包まれる。
鳴り止むと同時に全員の耳に飛び込んできたのは、今までになく切羽詰まった様子のエリカの声であった。
「全クルーは直ちに配置につけ! これよりマザー級との決戦に入る! 繰り返す! これより決戦に入る!」
絹を裂くようなこの声が、始まりのゴングである事をクルーたちは理解した。
閑話休題的なエピソードでしたが、皆さま如何でしたか?
次回は経緯についてのお話、そしてついにマザー級との決戦が待ち受けます!
是非次回の更新をお楽しみに!