エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
―それはユーリたちに一報が届けられる数分前の事
かつて獅子の異名を取ったバレット・クルーガーの息子であるロラン。
彼が率いる一小隊は、邪魔をするビーストの群れを駆逐しつつマザー級の捜索を行っていた。
「消えろ!」
バレットの愛機であったランスロットの流れを汲み、デュカリオンの技術を落とし込んだアロンダイト。
その黒く塗装された機体が突き出した巨大なランス。
ドリルのように回転する槍によって、中型のビーストであるシャチ型のシータ級を粉砕。
もはや原型を留めないレベルとなったシータ級を蹴り飛ばし、パイロットであるロランは探索を再開させる。
「しっかしマザー級なんて本当にいるんすかね? 大尉」
「作戦中だぞ。私語は慎め」
緩み切った態度を注意するロランであったが、部下は私語を止める様子はない。
「けれど三か月も探してるんすよ? 聞いてる通りのサイズなら、とっくに見つかってるしょ」
ロランはしばらく考え、緊張をほぐす程度であれば問題ないと判断。
無論警戒は怠らないのは当然であったが。
「……上層部が情報を元に判断している。俺たちは疑う前に手足を動かすのが仕事だ」
「そりゃそうっすけど」
「これだけ探しても痕跡一つ見当たらない。確かに愚痴の一つも言いたくなるわね」
別の部下も会話に加わり、内容もネガティブになるつつあった。
近づくアルファ級を撃退しながらであるが、ロランが想定していたよりも悪い流れである。
「愚痴を漏らす前に手を動かせ。こうしている間にも仲間が死んでいくんだぞ」
「り、了解」
そのためロランは語気を強めて私語を切り上げさせる事に。
最初に口を開いた部下も流石に反省したのか、慌てて通信を切った。
「はぁ」
軽く溜め息を吐くと、砲塔を向けるデルタ級を発見。
距離を一気に詰めてランスで上から叩き潰す。
すると私語に参加しなかった最後の部下が、突如通信してきた。
「大尉。そろそろ交代の時間では?」
「もうそんな時間か。こんな世界だと感覚も狂うな」
朝も夜も関係ない世界において、時間の厳守は徹底して求められる。
すぐさま帰艦の命令を下そうとするロランであったが、目に入った何かに違和感を覚える。
「……ん?」
「どうしましたか? 大尉」
「いや。一瞬何か違和感が」
部下たちが釣られて同じ方向を確認するが、そこには小型が何体かいるのみであった。
「小型がいるっすね」
「けれど大型や中型は見当たりませんし、後続の隊に任せても問題ないじゃ?」
「……おかしいですね」
「だな」
部下の一人とロランは何かを確認し合うと、機体を小型の方へ向けてスラスターを吹かせる。
「ど、どうしたんですか!?」
「分からないか? 多少の戦闘があったとは言え、何故私語が出来るほどに抵抗が無かったのか」
「あっ!」
よくよく考えてみれば、別方面に比べてこの一帯は小型が殆ど。
中型ですら一回の探索で数える程しか遭遇しない。
大型と戦って戦死など、他ではよく聞く話だと言うのに。
「もしマザー級に知性があるなら、身を隠す事ぐらいするだろう!」
油断を誘う為か、もしくは消耗を狙ってか。
ロランのは判断つかなかったが、少なくともこのエリアには何かが隠されていると直感していた。
そして裏付けするように、突如中型や大型が何も無い空間から湧いて出て来た。
「くそったれ! やっぱりな!」
悪態をつきながら戦闘に入るロランたち。
先陣を駆け抜けていくアロンダイトに続くように、部下たちのデュカリオンが援護していく。
だが多勢に無勢。
奮戦してはいるが、徐々に被弾箇所が多くなっていく。
(落ち着け。このエリアが臭うのは間違いない。撤退して、いや先に通信を。……!?)
突如ロランを襲う寒気。
まるで死神の鎌が首に迫っているような、濃厚な気配に襲われる。
「っ! 避けろ!!」
感覚に従うまま、部下たちに回避行動を促すロラン。
同時に、何も無かった空間から何本もの巨大な閃光が打ち出されるのであった。
そして断末魔を上げる間もなく、部下二人の命は掻き消された。
「っ! 無事か!?」
「な、何とか」
ロランは守ってやれなかった罪悪感に打ちひしがれる間もなく、生き残りの部下に声を掛ける。
MTは見るからに損傷しているが、通信で見る限りは命に別状は無さそうであった。
「今の砲撃。やはり……」
「間違いないだろう。ついに見つけた」
あれだけ広範囲の攻撃が可能なビーストは、今まで確認されていない。
どう考えてもマザー級による攻撃であると考えた方が、大群体が隠れているよりも説得力があるように思えた。
「通信……くそ! 妨害されている!」
すぐさま本隊に状況を伝えようとするロランであったが、何かしらのジャミングがされていた。
部下との通信が可能である事を踏まえると、遠距離の通信のみを弾くと思われるが、そう考えると厄介な事となる。
(この数。……二機で突破できるか?)
どこに隠れていたのか、小型や中型。
さらには大型まで次々に自分たちを囲い始めている。
戦力が低下した今では、通信可能域まで突破できるかは怪しい。
「行ってください、大尉。ここは一人で足止めします」
「なっ、何を!」
突然の言葉に動揺を隠せないロラン。
確かに一人が犠牲になれば、突破できる可能性は多少高くなる。
加えて推進力ならばアロンダイトの方が間違いなく上であった。
「早く行ってください! こうしている間にも包囲が!」
部下の言葉に間違いはなく、こうしている間にも突破できる箇所は減っていく。
一瞬の迷いを見せるロランであったが、軍人として覚悟を見せる。
「……任せた」
「こっちこそ。世界を頼みます」
「っ!」
その言葉を最後に、ロランは敵陣に突っ込んでいく。
後ろで響く戦闘音を聞きながら、アロンダイトは黒い弾丸のようにビーストの壁を貫き続けた。
結果として、ロランは無事に通信可能域まで撤退。
部下三人の命と引き換えに、彼は人類が勝利するための情報をもたらしたのであった。
何故か書いていると決戦への前振りが長くなってしまっています。
マザー級との決戦はもう少々お待ちください。
※年末ぐらいには完結すると思います。