エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第151話 共喰い

 オメガ級と名付けられたビースト。

 類まれなる殲滅力を持ったソレは、迫るMTたちや艦を単独で撃破していく。

 もはやオメガ級にとって他のビーストは損傷を受けた際の修復素材に他ならない。

 小型だろうが大型だろうが、邪魔であれば敵ごと引き裂き消し飛ばす。

 そもそもが捕食を効率よく行うために細胞を分裂させて造った存在であり、諸共消すのに何の感傷も無い。

 

(……何故)

 

 だがオメガ級は疑問を持っていた。

 突撃する巡洋艦を両腕を変形させた砲身から放った虹色をしたエネルギーの束で消滅させる中、長らく考える事も無かった過去について思い返していく。

 それは途轍もなく昔の話。

 或いは瞬きする程の直近の話。

 時間感覚が曖昧なオメガ級にとっては、どちらとも言えるような過去である。

 

(何故)

 

 思い返してみれば初めて思考した意味ある言葉も、この問いかけであった事に気付く。

 無論その問いの答えが返ってくる事は無かったが、数少ない情報から推察する事は出来た。

 まず自分は実験動物、その成れの果てである事。

 元はモルモットか人間か。

 いずれにせよ実験のし過ぎでアメーバのような存在となったらしい。

 そして実験は『人類の守護者となる究極生物』を造り出す事を目的としていた事。

 だがオメガ級にとって自身の出生も理由も、ただ芽生えた一つの願いの前ではどうでも良かった。

 

(生きたい)

 

 生物である以上、至極当然な願い。

 しかし実験生物であったオメガ級には、これ以上ない程に遠い願いでもある。

 生き残るためにはどんな実験であろうと耐え抜き、与えられた物は何でも分解し自身を構成する一部とした。

 

(どうでもいい)

 

 やがて研究員たちは、オメガ級を成功例と言うようになる。

 口など言葉を発する機能は付けられなかったため会話は不可能であったが、唯一の願いの前では全てが些事。

 既に高度な思考能力を有している事が知られれば低下、もしくは摘出される可能性もあるため隠し通した。

 その頃の体は犬であったかと、オメガ級は遠距離からの攻撃を躱しつつ思い返す。

 

(何故だ)

 

 実験が一生続くように思えたある日、研究員たちが揉めていた。

 解析すればプロジェクトが凍結される事になったらしい。

 それはオメガ級にとって死を意味している情報であるが、不思議と怒りは湧かず疑問が浮かぶのみ。

 

(……生きたい)

 

 結局その疑問は解消される事無く、研究所の電源が切られる日まで続いた。

 だが生命力は研究員、そしてがオメガ級自身が想定したよりも強かったのだ。

 欲求に従うまま自らを縛り付けていた硝子ケースを突き破り、まずは他の実験生物を喰いつくす。

 取り込んだ生物たちの能力や姿を取り込み、様々な事が出来るようになったが、オメガ級には些末な事であった。

 

(生き続けたい)

 

 一通り平らげ、オメガ級は考える。

 この研究所の中では生き続ける事は困難。

 さらに言えば討伐される可能性もゼロではない。

 故にオメガ級は逆にこっちから狩るために、未知の世界である外へ出た。

 不慣れであったのは、初めて人間を食べるまで。

 そこから得た知識を元に立てた戦略と、改造された肉体。

 文明が滅ぶレベルで食い潰されるまで、そう短い期間では無かった。

 

(足りない)

 

 ビルを嚙み千切りながら、オメガ級は考える。

 このままでは生命維持するための食糧が枯渇し、飢え死にする事が確実である事を。

 どうするか考えた上、導きだしたのは別次元への移動であった。

 オメガ級は吸収した知識を元に、ワープ機能を自らの体に造り出す。

 失敗も何度かあり体が半分吹き飛ぶ事もあったが、十数度目にて成功し食べ続けた。

 

(もっと生きたい)

 

 やがて分身体を生み出す術を得て、自身はただ待っているだけの日々が続く。

 だが願いは変わらず、むしろ長く生きた分だけ強くなっていった。

 害する存在が何もない中、生存欲の獣はただ生き続け今に至る。

 

(何故)

 

 MTの三小隊を枝のように分裂した手を槍の如く突き刺しながら、過去を振り返っていたオメガ級は再び疑問に思う。

 

 ―何故今更になって過去を思い出しているのか?

 

 その疑問が氷解するよりも先に、人類側の動きに変化があった事に気付く。

 次々に自身から距離を取るのを見て、オメガ級はまず罠を疑う。

 考えられる罠を脳内で羅列していく最中、ある特有の気配を感じる。

 感じたまま振り向くと、自身に匹敵するスピードで近づく白く輝く機影が見えた。

 

(……理解した)

 

 一目見てオメガ級は理解した。

 アレは自分と同類であると。

 種族などの問題ではなく、同じ生存欲求に突き動かされる存在。

 過去を思い返していたのは、同類が近づいている事を知らせるサインだと。

 

(面白い)

 

 いまこの瞬間、オメガ級は初めて愉快な気持ちになった。

 生存に突き動かされる同類同士での殺し合い。

 これほど矛盾した戦いが他にあるか、と。

 黒と白の翼を広げ、オメガ級は同類と認めた相手に挑む。

 

 ―ユーリ・アカバが操るプロメテウスとオメガ級

 人類とビーストの生存競争の結果を左右する共喰いが始まる




ついに最終決戦が始まろうとしてます……が
少しユーリ側の現状を書いてからの戦闘となります
何はともあれ、もうすぐラスト!
頑張って書き切りたいと思います!
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