エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第15話 帰艦

 解放戦線司令部の完全制圧は、アーストン軍の勝利を意味するものである。

 指示を出す者からの通信が途絶えた事により、解放戦線のメンバーは次々に投降していった。

 一部抵抗や逃走を図る者たちもいたが、余さず捉えられその数は非戦闘員を含めると三百を越える程であった。

 

【少尉。大丈夫ですか?】

「どうした急に」

 

 やるべき事を終え、皆でカゲロウへの帰艦中にアイギスがユーリを心配する言葉をかける。

 

【あれだけのスピードでの急停止。いくら最新式の慣性低減システムが付いてるとは言え、相当なGがかかったハズです】

「ああその事か。心配するな、少年兵時代にはもっとヤバい事もしてきた」

【そう言う問題ではないと思われますが】

「……まあ実際結構な衝撃だったが、医務室に行くほどでもないさ」

 

 軽く言ってのけるユーリに黙って、アイギスは心拍等を計測。

 確かに通常時とそうは変わらず、怪我をかばっている様子も見られなかった。

 

【少尉がそれで良いのであれば、これ以上は言いません】

「前から思ってたんだが。その階級呼びは何とかならないのか?」

【適切かと思われますが……変更した方がよろしいですか?】

「できれば頼む」

【ではユーリ】

「中間ってものが無いのか? アイギス」

【間違っていたでしょうか? 距離を縮めるには名前の呼び捨てが良いと結果が出たのですが】

「いや、まあ。いいよそれで」

 

 呆れたように言うユーリであったが、アイギスには何故そんな言い方なのかは分からないでいた。

 しばらくして、ユーリにカゲロウから通信が入る。

 

「何かあったか? デコ」

「レ・コ・で・す! ってそんな場合じゃないんですアカバ少尉」

 

 妙に真剣な表情をするレコを見て、ユーリも真面目に聞き始める。

 だが何故か言いにくそうにするレコであったが、ようやく話し始めた。

 

「どうやら他の艦に解放戦線のメンバーを入れるスペースが無いらしく、カゲロウにも何人か運んで欲しいと言われまして」

「? それの何が問題だ?」

「……そのメンバーの中に、解放戦線の首魁であるジェイソン・グッドマンがいるんです」

 

 それを聞いたユーリの表情は、何とも言えないものであったとレコは後に話している。

 

・・・・・・・・・・・

 

「放せ! 日和見主義者の犬どもが!」

「あれが解放戦線の首謀者ねぇ。見るからに小者って感じ」

 

 白兵部隊に連行されながらも、無駄に抵抗し叫び続けるグッドマンを見たアイシャの発言にさすがのミーヤも苦笑しか返せなかった。

 そしてエルザとユーリは、グッドマンの様子をただジッとして見ているだけであった。

 

「おのれ! こんな事で正義は死なん! いつか必ずお前らに報いを受けさせてやる!」

「あの人、この状況でまだあんなこと言ってるよ」

「どう考えても待っているのは死刑だと思うけどね。あそこまで行くといっそ哀れさすら感じるわよ」

 

 ミーヤとアイシャが話している中、エルザは何も言わずグッドマンに近づいていく。

 

「エルザ!?」

「ちょっ!? 何で近づいてるのよ!?」

 

 すぐさま止めようとする二人であったが、その肩にそっとユーリの手が乗せられる。

 

「隊長?」

「見逃してやれ。あいつにも心の整理が必要だろうからな」

「……もしもの事があったらどうする気なのよ、ったく」

「分かってるって。バカな真似をしようとしたら取り押さえるぞ」

 

 エルザの後ろをそっと追いかける三人にも気づかず、エルザは白兵部隊と何かを話して一旦止まってもらっていた。

 

「何だお前は」

「ジェイソン・グッドマン。あなたと話がある」

「こっちに話など無い! パイロット風情が私に話しかけようなど!」

 

 噛みつかんばかりに吠えるグッドマンであったが、意に介した様子もなくエルザは話し続ける。

 

「あなたは数年前、少年兵部隊を率いていたと聞いた」

「それがどうした!」

「……罪の無い子どもたちを戦場に立たせて、あなたは何も思わなかったの?」

「ふん! 何を聞くかと思えば」

 

 エルザの問いを鼻で笑うと、無駄にデカい声で答え始める。

 

「ガスアの打破はアーストンにとって必要な事! その為に必要なら子どもだろうと何だろうと屍になってでも働かせるべきだろう!」

「けどあなた達は自分たちは動かなかった。それは何故?」

「正規の軍人を温存させるためだ! どうせ身寄りもない奴らだ! それを有効活用してやったんだ! 死んだガキ共も感謝しているだろうさ!」

「……そう」

 

 エルザは言うと、そっと拳銃を

 

「っと。これ以上は流石に見逃せないぞシュミット」

「!? 隊長」

 

 後ろから腕を掴まれ動揺するエルザに対し、ユーリは白兵部隊に視線を送る。

 白兵部隊は頷くと、グッドマンを連れて監房へと向かっていった。

 

「……どうして止めたんですか」

 

 後ろ姿を見送っていたユーリに、エルザが悔しさを滲ませた声で話しかける。

 

「エリックの仇さえ取れれば、どうだって良かったのに。あなただってアイツに」

「憎いかと言われればそうだと答えるさ。だがもう奴は終わりだ。お前がわざわざ手を汚す必要もないし、それほどの相手でもない」

「……」

 

 涙なのか怒りなのか。

 とにかく堪えている様子のエルザを、ミーヤとアイシャが落ち着かせるように側に寄りそう。

 それを見てユーリは、隊長としてこの場を締める。

 

「三人とも、初陣お疲れ様」

 

・・・・・・・・・・・

 

「報告が上がってきました。無事に終わった模様です」

「そうか。やはり心配は無用だったな」

 

 己の執務室にてライアンからの報告を受けたスコットは、口ではそう言いながらも安堵する。

 

「いま捕らえた者たちを連れて北部から帰投していますが。何かお伝えにありますか」

「ふっ。そこまで過保護ではない。それに彼らにはすぐに別に任務を与えなければならないからな」

 

 スコットは一枚の書類を取り出すと、ライアンに手渡す。

 書類の内容に目を通したライアンの表情は、驚きで満ちていた。

 

「少将。これは……」

「ああ。ついにあの『騎士の国』を陥落させる時が来た」

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