エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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幕間
幕間 この想いをあなたに捧げる


 幾つもの国が乱立して争っているこの世界において、傭兵というのはかなりの需要がある。

 だがその在り方は様々で、一つの国に留まる者もいれば各国を放浪する者もいる。

 そんな傭兵たちを支援する場所を、人々は『ギルド』と呼んでいた。

 アーストン中心部であるエリンにある小さなバー。

 いつ潰れてもおかしくないようなこの場所も、数あるギルドの一つであった。

 

「お客さん。ご希望の品、揃えたよ」

「あら、随分早かったのね」

 

 少し埃っぽい店内に、バーテンダーが情報端末をとある女性に見せびらかせながら現れる。

 女性は微笑みながら分厚い現金を渡すと、早速バーテンダーは枚数を数えていく。

 

「早くて正確がウチのモットーでね。最近は客足はめっきり減ったもんだけど」

「そう思うなら店の掃除も行き届かせるべきね。酒の味も悪くはないというのに」

「いいのさバーはあくまで趣味なもんでね。っと、ぴったしだな。受け取りな」

 

 指定金額がある事を確認すると、バーテンダーは情報端末を女性に渡す。

 受け取った女性はすぐに中にある端末の電源を入れる。

 

「しかし、噂に名高い『血濡れのカーミラ』が手酷くやられたもんだねぇ。MTの方はかなり時間が掛かりそうだってよ」

「戦場では何が起こるか分からないものよ。どんな人間だって例外ではないわ」

 

 ユーリとの戦闘後、カーミラは無事に戦線を離脱。

 傭兵としての伝手を頼り、エリンにまでやって来たのだった。

 端末の電源が入ると同時に、待ち焦がれていた情報が映し出されていく。

 

「ユーリ・アカバ」

「数年前にあったガスアとの戦争で少年兵ながらに戦果を上げた男だってな。一時期は軍を離れていたのに、急に舞い戻ったと思ったらいきなり少尉。誰かのお気に入りかねぇ」

「……」

 

 バーテンダーの声にも耳を傾けながら、カーミラは細部に至る情報まで目を通していく。

 そして最後まで見終えると、一息つくように酒を口に含む。

 

「次はカクテルでも貰おうかしら。スクリュードライバーでも」

「おいおい良いのか? こっちは儲かるからいいけどよ。ヤケ酒は程ほどにしとけ」

 

 そう言いながらも材料を揃えていくバーテンダーに対し、カーミラはクスクスと笑い出す。

 

「全然違うわ。これは祝い酒よ」

「? 手酷くやられて祝い酒って……あんた被虐体質でも入っているのかい?」

 

 置かれたカクテルを口に含むと、カーミラは酒も入って赤らんだ頬に手を置きながら語り始める。

 

「違う……とは言い切れないかもね。強い相手とは今までも戦ってきたけど。始めてよ、ここまで相手の事が知りたいだなんて」

「はは。運命の相手って奴じゃないのか?」

「そうね。そう言えるかも知れないわね」

「おいおい」

 

 冗談を真面目に受け取られ、思わず呆れた顔をしてしまうバーテンダー。

 と同時に、カーミラに執着させられているユーリに同情してしまう。

 普通なら彼女のような美人に想いを寄せられるなら嫉妬の対象だが、この場合の想いとは恋愛感情とは違う。

 この戦闘狂に殺害対象として狙われるのだから、これは心の中で合掌するしかない。

 

「とは言え、今はとにかく修復を待つしかないかしら。ふふっ、まるで焦らされてるみたい。想い人がいるってこんなに楽しいものなのね。ああ、早く切り合いたい」

「そ、そうかい」

 

 表情は恋する乙女だが、内容的には恐怖でしかない。

 他人事ながら身震いしてしまう程の恐ろしさに、バーテンダーは身を震わせる。

 そんな気持ちなど露も知らず、カーミラは残りのスクリュードライバーを飲み干す。

 

「別のカクテルを貰えるかしら?」

「これで最後にしておけよ。もう十杯目だぞ」

「あら? まだまだこれからなのに。だったら最後は……」

 

 カーミラは少し考え、ニヤッと笑ってカクテルを注文する。

 

「キャロルでお願いするわ」

 

 それを受けてすぐに作り出すバーテンダーであったが、不意にキャロルのカクテル言葉を思い出してまた身震いするのであった。

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