エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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幕間 エルザ・シュミットは想う

 エルザ・シュミットは元々アーストンでも、最もガスア接近していた地域の出身者であった。

 ガスアとの戦争が激化していく中、家族は故郷を捨てる選択をせず残り続けた。

 

(思えばそれが間違いだったのかも知れない)

 

 何時戦火に晒されるか分からない状況で、彼女の弟であるエリックは故郷を守るべく幼いながらに少年兵になる事を決意した。

 当然家族一同反対をした。

 父親は怒り母親は泣きながら説得をしようとし、エルザ自身も何とか止めさせようとした。

 だがエリックの決意は、揺らぎはしなかった。

 最終的には勘当も同然で、彼は家から飛び出したのである。

 

(……もっと言葉を尽くせば良かった)

 

 エリックは少年兵に志願してからも、家族に手紙を書き続けた。

 それが届く度に家族は安堵した。

 内容は幼いなりに国の役に立てて嬉しいという事や、友人が出来たなど多彩であった。

 だが一番多かったのは、同じ少年兵の中に憧れの人がいるという事。

 名前こそ書いていなかったが、尊敬している事は文からでも伝わってきた。

 

(生きてさえいてくれれば、それで良かったのに)

 

 エリックからの手紙が突然途絶えた時、エルザは覚悟を決めていた。

 両親はまだ生還を期待していたが、国から正式に戦死が伝えられ泣き崩れしまう。

 ガスアとの休戦が締結される、わずか一週間前の事であった。

 

 その後、シュミット家は戦時中ですら動かなかった故郷を離れる事に決めた。

 エリックとの思い出が詰まっていた家に住む事が、耐えられなくなったのだ。

 

(カレリンと出会ったのも、この時だった)

 

 移った先で生活を送れたのは、シュミット家にとって幸運であった。

 ただエリックがいない、ただ一点を除けばであるが。

 彼女の両親はまるでエリックが最初からいなかったように振る舞った。

 そのためミーヤを始めとして、存在を知る者は近所でいない。

 

(その事が……死ぬほど嫌だった)

 

 両親がエリックを思い出す事も辛いのは理解していた。

 だが弟の存在を抹消するかのような人生を送るのは、我慢が出来ない。

 彼女が士官学校に入ると決めたのは、それが一番の要因であった。

 

(初めてお父さんに叩かれたのは、その時だったな)

 

 泣いて止めてくれと縋る母親と、怒り狂いそうな父親をどうにか説得して士官学校に入学したエルザの胸にあったもの。

 それは弟の想いを残したい、その一心であった。

 

(……まさかカレリンまで付いて来るとは思わなかったけど)

 

 幸いと言うべきか、人より才能があったらしいエルザは学校の中でも頭角を現していった。

 友人と呼べるような人物もいて、それなりに充実していたと言えるだろう。

 そんな中でもエルザの心の中を占めていたのは、弟を行かせてしまった罪悪感と自分の無力さである。

 

(そんな私が彼の小隊に召集されたのは、言いたくないけど運命だったのかも知れませんね)

 

 初めてユーリと出会った時、手紙に書かれていた人物である事をエルザは直感した。

 勿論彼に罪があるとは思っていない。

 ただ、彼が生き残って弟が死んだ。

 そこに何とも言えないものを感じていた。

 

(一生それを抱えて生きる。そのつもりだったのに)

 

 何の因果か元少年兵の指揮官であるグッドマンが、初陣の相手。

 運命というものがあるならば、よほど私が嫌いなのだろうとエルザは思った。

 正確に言えばグッドマンの責任ではないのかも知れない。

 それでも、少年兵たちの環境の悪さは学校で聞いていた。

 生み出した彼には責任を取ってもらうべき、そう考えた。

 

(……隊長に当たり散らしたのは、失敗だった)

 

 思わずユーリに通信してエリックの事を聞いてしまったが、知らない事にやっぱりという気持ちと落胆の気持ちが混じった。

 流れでつい叫んでしまったが、あまり後悔がなくお咎めもないのはエルザも安心した。

 

(そして、私たちは勝った)

 

 カゲロウにグッドマンが乗せられる事になったと聞いた時、一生に一度の好機だとエルザは思った。

 銃を忍ばせ、何とか白兵部隊を騙しグッドマンと話した。

 そして怒りに任せたまま銃を撃とうとした腕は、ユーリよって止められた。

 

(けれど、それで良かったのか知れない)

 

 仮に撃ったところでエリックが喜ぶ訳でもない。

 残っていたのは虚しさだけだっただろうと、エルザは後に語る。

 通信でユーリを嫌いだ何だと叫んだエルザであったが、少なくともこの件に関しては感謝した。

 未だユーリに思うところはあるけれど、それでも彼女はこう思うのであった。

 

「ありがとうございます隊長。……少しだけ、前を向けそうです」

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