エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第17話 中立地

 ―新西暦五十六年 六月初旬

 

 アーストンはペギンに対し三度目となる戦端を開く。

 初めは奮闘したペギン軍であったが、アーストンの調略によって疲弊した国力では抵抗も長くは続かなかった。

 物量差によって防衛ラインを引かざるおえなくなったペギンは、次々に基地と街を放棄。

 国力をさらに弱体化させる結果となった。

 そしてユーリたちデュラハン隊一行の姿は、最前線近くにある中立地であるカクランにあった。

 

・・・・・・・・・・・

 

「本当に一面砂漠なのね」

 

 アイシャが真剣に驚いたように辺りを見渡していると、ミーヤが同意するように大きく頷く。

 

「だね! こんな環境で辛くないのかな?」

「生まれ育ったここの人たちからすれば普通なんでしょう。あとカレリン軍曹とウェルズ曹長、あまり視線をウロウロさせないでください」

 

 エルザが疑問に対する答えと二人に注意を同時に行っている横で、ユーリは街並みを見ながら少し呆けている様子だった。

 

「隊長?」

「……ん? どうした?」

「どうかされましたか? 先ほどから少し呆けている様子でしたが」

 

 質問しているのはエルザであったが、他の二人も同意見のようで心配そうにユーリを見ていた。

 

「心配ない。少し昔を思い出してただけだ」

「昔?」

「こっちの話だ、気にするな。……ついでに周りの視線もな」

 

 この言葉を聞いて、三人の空気が少し引き締まる。

 ユーリたちが今いるのは中立地カクラン。

 ペギンでも数少ないオリハルコン採掘現場が近くにある事から、早期に中立地帯となった街である。

 とはいえ住民はペギンの国民も多く、実際のところは非戦闘区間と言える。

 住民の遠巻きに監視するような視線を受けながら、ユーリたちは街の中心部を歩いていた。

 

「嫌な感じよね。敵意が張り付いてくるみたいで」

「ホント。……中立地のハズなのに」

「向こうからすればアーストンは侵略者だから。……石をぶつけられないだけマシと思う」

「そう言う事だ。一々気にしてたら気が持たないぞ」

 

 ユーリはそう言いながら目的地へとさっさと歩いていく。

 アイシャたちも視線を置き去りにするように後を追いかける。

 四人の目的はここカクランを治める領主と会う事であった。

 

・・・・・・・・・・・

 

「やあやあ! よくぞ来てくれましたアーストンの精鋭の皆さま!」

 

 会うなり芝居がかったオーバーリアクションでユーリたちを出迎えた男。

 この男こそがアーストンとペギンの間を行き来しているコウモリと噂の領主、コーリンであった。

 アイシャたち三人は他の場所で待機させいていたが、正解だったとユーリは確信していた。

 コーリンの事を胡散臭いと思いながらも、顔には出さず対応する。

 

「デュラハン隊のユーリ・アカバと申します。コーリン殿」

「いえいえ! どうか私などは呼び捨てで結構でございます!」

 

 自分を卑下するように自ら頭を下げるコーリンであるが、ユーリは彼の目の奥が笑っていない事に気づいていた。

 

「……コーリン殿。わざわざ軍を介して我々を呼び出した理由、お聞かせいただけますでしょうか?」

「おお! これは失礼! お時間を取らす訳にもいかないので手短にお伝えいたしましょう!」

 

 コーリンはそう言うと、端末を差し出してくる。

 ユーリが端末の情報を見てみると、何かしらの被害報告であるようであった。

 

「これは?」

「恥ずかしながらここ最近の盗賊による被害をまとめたものです。戦時中となるとこういった輩が増えるものでして」

「差し出がましいが、こちらにも部隊がいるはずですが?」

「さらにお恥ずかしい話ですが、盗賊の中核は元ペギン軍人でしてな。中々手ごわいのですよ」

 

 コーリンは深くため息を吐きながら嘆いているように見えるが、ユーリには要は手駒を減らしたくないからそっちでやってくれとしか聞こえない。

 

「……分かりました。盗賊退治を引き受けましょう」

「おお! 流石はアーストンの精兵! 何卒お願い致します!」

「では失礼します」

 

 足早に去って行くユーリを見送ったコーリンは、すぐさま何処かへと連絡を取るのであった。

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