エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第19話 獅子との出会い

 まだ戦闘跡が色濃く残る砂漠。

 その中心で、ユーリたちは現れたペギン軍と邂逅していた。

 

「……」

「……」

 

 両者の間に会話はなく、特にペギンの軍人たちはこちらを睨みつけている。

 緊迫した状況に慣れていないのか、ミーヤは落ち着かない様子が見え見えであった。

 そんな空気を切り裂くように、ペギン軍人たちの奥から何者かがやって来た。

 

「こちらの呼びかけに応じてくれて感謝する。アーストンの軍人たちよ」

 

 やって来たのは非常に体格のいい中年男性と思われる軍人であった。

 黒髪の中に白髪が混じっておりシワが目立った顔ではあるが、それを感じさせないほどの風格を身に纏っている。

 実際アイシャたちはその風格に押されて言葉が出ないといった様子だ。

 

「いえ。こちらこそ盗賊の討伐に協力してくださり感謝します」

 

 だがユーリは少なくとも見かけはいつもの通りに中年ペギン軍人に返事をする。

 その様子を見て中年軍人は、何故か頷くと敵であるユーリたちに笑いかける。

 

「なに。中立地を守っただけの事。借りにするほどでもない」

「そうですか。……申し遅れました、自分の名は」

「ユーリ・アカバ。階級は少尉。知っている」

 

 彼が自分の名を知っていた事に警戒感を露わにするユーリであるが、中年軍人はそれを受けてもなお笑みを浮かべたままであった。

 

「驚いたか? 君は知っているかしらんが、私と君は過去に出会っていてね。少し調べさせてもらった」

「?」

「そう言えばこちらも名乗ってはいなかったな。私の名はバレット・クルーガー。ペギンの赤獅子とも呼ばれたりもしている」

「!? ……そうですか。あなたが」

 

 目に見えて動揺するユーリを見て、アイシャたちは驚きを隠せないでいた。

 出会って数カ月の関係ではあるが、少なくも彼女たちが知っている限り常に余裕があるように見えたからだ。

 バレットはユーリの動揺を落ち着かせるように、非常に優しく話し始める。

 

「心配しなくてもいい。ここは中立地であり、我々の任務は盗賊団を壊滅させる事。アーストン軍と此処で事を構える気はない」

「……」

「まあ信用できないのも無理はないがな」

 

 話を聞いても警戒感を解かないユーリにそう言うと、バレットは無防備に背中を向けて歩き始める。

 

「今日は君と出会えて良かった。……だが次に戦場で出会えば、我々は敵同士だ」

「ええ。そうなりますね」

「その時には決着をつけようではないか。アーストンの幼い死神よ」

 

 バレットはそう言い終えると、周りの部下たちを連れて去っていく。

 その様子を見守っていたユーリであったが、彼らが完全に視界から消えると深く深呼吸した。

 

「あれがペギンの赤獅子か。偶然にしては出来過ぎだな」

「隊長! 大丈夫ですか!?」

 

 ミーヤが心配そうに急いでユーリの元に駆け寄るのに対し、アイシャとエルザは周りに気を付けながら近づく。

 

「随分な大物に助けられたもんね」

「ええ。ペギンの赤獅子と言えば、侵攻時に何度もアーストン軍を返り討ちにしたペギン軍の中心人物。そんな彼がこんな地にまで足を運ぶとは」

「でも隊長。そんな人と知り合いだったんですか?」

「カレリンあんた。聞きづらい事をズバッと聞くわね」

 

 アイシャが呆れたようにミーヤを見るが、答え自体は気になるのかそれ以降は黙ったままであった。

 エルザも特に咎めるような事はせず、ユーリの反応を見守っている。

 

「まあ別に隠すような事でもないから言うが、過去に一度戦闘した事があるってだけだ。それ以上でも以下でもないよ」

「そうだったんですか」

 

 納得したようにエルザはここで話を打ち切ろうとするが、ミーヤがある質問をする。

 

「それでその時はどっちが勝ったんですか?」

 

 この質問に対して、ユーリはフッと笑うと実にあっさりとした様子で答えるのであった。

 

「完全に俺の負けだったよ」

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