エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第1話 再会

  ―新西暦五十六年 三月末

 

 比較的暖かい気候であるアーストンとは言え、まだ肌寒さが残る季節。

 首都であるエリンとは離れた位置にある町、ドルデインでは平和な日々が繰り広げられていた。

 

「おらぁ! テメェらサボるんじゃねぇぞ!」

 

 そんなドルデインの一角にて、野太い男のイラついた怒鳴り声が叫び渡る。

 普通に考えて迷惑ではあるが、通行人は何時もの事なのか気にした様子もない。

 町にある小規模の工場。

 男がいるそこに近づかなければ、自分に害が及ぶ事はない事を知っているからでもあるが。

 

 その工場の中では、まだ二十にも満たない年若い少年たちが作業していた。

 これはアーストンだけでなく全世界に言える事であるが、珍しい事ではない。

 比較的平和とは言え、今は数多くの国が覇を競い合う時代。

 戦う道を選ばなかった者たちは、例え幼かろうと働かないと食べるのにも困る。

 そういった世の中なのである。

 

「働けるだけありがたいんだからな! 手を抜いたりしたら承知しねぇぞ!」

 

 睨みを聞かせる男であったが、ここで働いてる人間なら本当は殴る事も出来ない小心者である事を理解している。

 だが誰もがそれを理解しながらも、指摘する気配は全くない。

 余計な事をして怒りを買うより、真面目に働いた方が給料にもプラスになるからだ。

 

「ふむ。まだ年若い子どもにその言い方。あまり褒められたものではないな」

「あぁ? 誰だ俺の仕事にケチをつけんのは?」

 

 だがそこに男を咎める者が現れた。

 そうなると当然、男は不機嫌そうにしながら声の方に顔を向ける。

 すると不機嫌を形にしたような男の顔が、みるみる内に青くなっていく。

 

「作業中すまないね。君がここの責任者かな?」

「え、ええ。ここの工場長をしてる者ですが……。あの、何の御用で?」

 

 いきなり媚びる態度で、声をかけて来た人に接し始めてた工場長。

 だがそれも無理もないだろう。

 声の主の両隣には、如何にもガタイがいいスーツ姿の大男が二人陣取っている。

 それだけでも恐怖であるが、それより問題なのは声の主である男の恰好である。

 

「はは。そう怯えなくても大丈夫だ。少し聞きたい事があるだけだ」

 

 笑顔で工場長と接する声の主だが、身に纏っているのは軍服。

 それも装飾品から見て、かなりの階級だと思われた。

 そもそもこの工場は軍の下請けの下請けであり、下手な事をして機嫌を損ねればどうなるかなど目に見えている。

 

「な、何を答えれば?」

「ある十八ほどの少年を探しているのだが、すまないが従業員を確認させてもらえないか?」

「へ、へい! すぐに集めやす! おいお前ら! 作業を中断してこっちに来い!」

 

 工場長が叫ぶと、すぐに全員が集合する。

 軍服の男は一人一人の顔を丁寧に確認していくが、やがて一人の従業員の少年の前で足を止める。

 

「……」

 

 作業用の帽子を深く被り顔の判別はしずらかったが、軍服の男は作業員の帽子をその手で外す。

 すると、長い黒髪を一纏めにした少年の顔がハッキリと確認できた。

 男はその顔を見て優しく微笑みながら、声をかける。

 

「……随分と、背が伸びたな。一瞬分からなかったよ」

「……あれから五年ですから。そう言うあなたは随分と老けましたね准将」

「ハハハ! その率直さは変わってないようで安心した」

 

 明らかに目上の相手に対し無礼な物言いをする少年であったが、男の方は気にした様子もなく逆に笑い飛ばす。

 状況が分からず顔を見合わせる周りを気にした様子もなく、二人は会話を膨らましていく。

 

「だがもう准将ではない。昇格して少将だ」

「それはおめでとうございます。その割にはこんな所にまで来てお暇なようですね」

「かも知れんな。だが暇でなくとも時間を作るさ。……お前と会うためならな」

「……世間話をするだけなら帰ってくれませんか? 仕事があるんですスコット・オーウェン少将」

 

 そう言って少年は背を向けかけるが、スコットと呼ばれた男に肩を掴まれる。

 その手にはかなりの力が込められており、逃がさない気持ちが十二分に伝わって来た。

 

「では単刀直入に言おう。力を貸してくれ」

「……今更俺の力なんて要らないでしょう? ただの工場の作業員ですよ?」

「要るかどうかは私が決める事だ。……かつて死神とまで呼ばれた力をもう一度貸してくれ、ユーリ」

「……」

 

 懇願するスコットの腕を、ユーリと呼ばれた少年は振りほどけないのであった。

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