エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第29話 赤獅子との決着

「か、勝った?」

「そうみたいね」

 

 カゲロウ内の格納庫。

 ミーヤとエルザは一騎打ちの様子を映したモニターを見て、ユーリの勝利に安堵していた。

 

「やっぱり心配するだけ損ね。隊長がそう簡単にやられる訳がないし」

 

 アイシャがため息交じりに言葉をこぼす。

 だがミーヤとエルザがやけに自分を見る事に気づく。

 

「何よ」

「どう見たってアイシャが一番心配してそうだったけど?」

「一番騒がしかった」

「そ、そんな訳ないじゃない!」

 

 顔を真っ赤にして否定する自分を見ながら微笑む二人に腹を立てるアイシャではあったが、心を静めて先ほどの戦闘を振り返る。

 

「それにしても流石と言うべきね。追い詰められているように見せながらシラヌイにワイヤーが届く位置まで誘導するなんて」

「調整はアイギスがしたかも知れないけど。それを実行に移せる行動力は桁違い」

「サーベルで斬りかかったのもその為の伏線だったんだろうね!」

「まあ何にせよこれで決闘は勝利……え?」

 

 アイシャがモニターを見ながら驚きの表情を浮かべるのに釣られ、二人も見てみると。

 そこには戦闘を続けているランスロットⅢとファフニールが映っていた。

 

・・・・・・・・・・・

 

「っ!」

 

 ユーリは動揺していた。

 勝利を確信していたところに、残った左腕でロングソードを振るうランスロットⅢに襲われたのだから無理もない。

 

【ユーリ、通信を繋げました】

「バレット・クルーガー! 勝敗はついた! これ以上は」

「無駄ではない! 確かにこの勝負は君の勝ちだ。だが! 儂が生きている以上、決闘は終わらない!」

「っ! どうしてそこまで!」

 

 次々に振るわれる獅子の牙を捌きながら、ユーリは困惑した表情で叫ぶ。

 

「もし儂が負けた上に生きていれば、必ずペギン再興の旗頭として表に立たされる! だからこそ死なねばならんのだ!」

【ですが、あなたが死んでも悲劇の英雄として祭り上げられます。ここで死ぬ理由にはなりません】

「……誰かは知らんが、痛い所を突く」

 

 バレットはアイギスの言葉に顔をしかめながら、それでもロングソードを振るう手は止めずに口を開く。

 

「確かにな。これは儂の逃げかも知れん。これからのペギンを背負う事に対してのな」

「だったら!」

「だが! そうだとしても儂の死は国の未来につながる!」

「その未来を見たいとは思わないのか!」

「それには歳を取り過ぎた! 命と引き換えに何かを繋げるのなら本望だ!」

「っ! 意味が分かんねぇよ!」

 

 ユーリは振るわれる剣戟を受け止め、鍔迫り合いの状態となる。

 金属が擦れ合い、赤い火花が砂漠に散る中でバレットは信じられないほど優しい口調でユーリに言葉を掛ける。

 

「……結局のところ、君は正しいのかも知れない。生きる為に戦う、皆行きつくところは一緒なのだろう」

「何を」

「だが、いつか戦う理由に悩む時が来るのかも知れない。その時は思い出せ。生きる為に戦うのは決して悪ではない」

 

 まるで子どもに言い聞かせるような言葉を止めると、バレットはランスロットⅢを一度引かせる。

 ユーリに突きつけるロングソードは既に破損していて、今にも崩れそうであった。

 

「さぁ死神よ! 生きたければこの老骨にトドメをさせ!」

 

 バレットは残り少ないエーテルをスラスターから吹き出し、砂塵を巻き上げ最後の突撃を行う。

 

「……このぉ! 大馬鹿!」

 

 ユーリはバレットの突きに合わせてシラヌイでコックピットを狙う。

 死神の刃は装甲を貫き、ランスロットⅢはその全ての動きを止める。

 同時に、長らくアーストンに抵抗していたペギンの陥落が決まったのであった。

 

「……」

【ユーリ】

 

 だがこの勝利の立役者であるユーリの心中には、言葉に出来ない何かが渦巻いていた。

 その数週間後、ユーリはそれを胸に秘めたままペギンを後にするのであった。

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