エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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四章 謀略と戦乙女
第30話 望まぬ式典


(場違いだ)

 

 ユーリは心底そう思いながらグラスの水を一気に飲み干す。

 ここはアーストンの首都エリン、その中心部のとある式典会場である。

 周りでは勲章をつけた軍服を着た関係者や豪華な服装に身に纏った男女が談笑をしているが、その腹の内では何を考えているか分かったものではなかった。

 

(さっさと終わらないかな)

 

 内心ため息を吐きながら、ユーリは会場の片隅で式典が終わるのを静かに待っている。

 そもそも何故ユーリが自分でも認めるほど場違いな場所にいるのか?

 一言でまとめるのであれば、スコットのせいであった。

 

・・・・・・・・・・・

 

「……冗談だろ?」

「残念だが嘘でも冗談でもない。今度のペギン戦勝の式典に出て貰う」

 

 スコットの執務室にて、ユーリは部屋の主に対して睨みつける。

 だが当の本人は気にした様子もなく、淡々と概要を伝える。

 

「式は明後日。分かっているとは思うが軍服でな」

「いや待ってくれ。そもそも何で俺が出る事が決まっているんだ。場違いも甚だしいだろ」

「ペギン攻略の際、お前と赤獅子との一騎打ちのお陰で無駄な死傷者が出ずに済んだ。それをある人物が喜んでな。是非顔を見てみたいとの事だ」

「誰だよそんな物好き」

 

 ユーリが悪態をつきながら聞くと、スコットは人差し指をただ上に向けてこう言った。

 

「この国で一番偉い人間。と言えば流石に分かるだろ」

「……マジか?」

「間違いなくな」

 

 それを聞いてユーリは頭を抱えて、今まで以上のため息を吐く。

 スコットの言うこのアーストン王国で一番偉い人間など、子どもでも知っている。

 

「断れなかったのかよ」

「一介の少将にはそんな事は出来んよ。それにいい機会だと思ってな」

「何のだよ」

 

 こなしていた仕事の手を止め、スコットはユーリの顔を真剣に見てこう言った。

 

「お前が様々な世界に目を向ける、な」

 

・・・・・・・・・・・

 

(ったく。余計なお世話だって)

 

 頭の中でスコットに悪態をつきながら、ユーリは遠巻きに会場を見渡す。

 誰も彼もが笑顔を浮かべているが、その裏でどんな駆け引きが行われているかなどユーリに分かるはずもない。

 

「楽しんでいるか、ユーリ」

「……そう見えるなら老眼だよ。医者に見てもらってくれ。もしくは脳の」

「流石にいつもより辛いな」

 

 苦笑いしながら自分に寄ってくるスコットを睨みつけると、持っていたグラスを奪い中身を飲み干すユーリ。

 

「酒だったらどうする気だったんだ」

「未成年でも酔いたくなるさ、こんな式典に無理やり出席させられればな」

「悪かったと思っている。だが事前に言えば断っただろ」

「少将」

 

 会話している二人に割って入ってきたのは、ライアンであった。

 スコットは彼から耳打ちされると、神妙な顔をしてユーリに断りを入れてその場を離れる。

 

「忙しい事で」

「少将だからな。こういった事も必要なのだ」

「だったらわざわざ子守りまで引き受けなくてもいいだろうに」

「……そう愚痴るな。少将も悪意があってやっている訳では」

「悪意がないで済まされるなら争いごとなんて起こらないと思いませんか、中佐殿?」

「む」

 

 ユーリの悪態に言い返す事が出来ないのか、ライアンは何も言わずに固まる。

 そんなライアンから意識をそらし、ユーリは先ほどから視界にいる見慣れた人物について話し始める。

 

「それにしても。アイシャがお嬢様とはな」

 

 アイシャはこの様な式典にも慣れた様子で、周りと談笑をしている。

 普段の彼女とは違った雰囲気に、ユーリはただ感嘆していた。

 

「彼女も本来は出席を断っていたが、君が出ると聞いて気が変わったらしい」

「やれやれ。上にも下にも心配されるなんて」

「すまない。私も少し離れる」

 

 ライアンはそう言うと、どこかへと去っていった。

 さっきから式典の中心が騒がしいのと何か関係があるのかも知れないが、関わるべきではないと考えたユーリは気にしない事にする。

 

「はぁ。早く戻りたい」

 

 思わず思った事を口にしてしまうユーリ。

 誰も聞いていないハズと高を括っていると、その声に反応する人物がただ一人近づいていた。

 

「気持ちが分からないでもないが、許してくれ。もう少し時間を貰えるかねユーリ・アカバ少尉」

「っ!?」

 

 その人物を見て、ユーリは思わず体が強張る。

 何故ならその人物とは、彼がこの場に来る事となった理由でもあったからだ。

 その名はユリウス・ヴァン・アーストン三世。

 この国のトップである。

 

「是非君と話をしてみたかった」

 

 とても王とは思えない優しい眼差しに、ユーリはただ頷くしかなかったのであった。

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