エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第35話 蒼天を穿つ赤

【ユーリ。偵察ポイントGを通過しました】

「了解。これよりポイントLの偵察に入る」

 

 眼下に広がる白い雲を突っ切りながら、その隙間から見える緑豊かな草原を確認する。

 ユーリたちに与えられた偵察任務は順調に進んでいた。

 接敵も考えられていたが、バルアが迎撃してくる様子もなく不気味なほど平和に時間が過ぎていた。

 

「……で? そこのレディーは何時まで着いてくる気なんだ?」

 

 と言いながら通信越しにユーリが問いかけると、相手は悪びれた様子もなく答える。

 

「別に大した意味は無いですよ。ただ向かう先に隊長がいるだけですから」

「ハァ。反発もそこそこにしておけよアイシャ」

「考慮しま~す」

 

 心がこもってない返事をした後、アイシャは黙り込んでしまう。

 本来であればデュラハン隊の四機でくまなく偵察する予定であったが、エルザとミーヤがそれぞれ別のポイントに向かってもアイシャだけはユーリと離れようとはしなかった。

 軍人として褒められた行為ではないためユーリも気を揉むが、意外なところから肯定意見が出てくる。

 

【ですが、曹長の疑うのも分かります。ブレイン少佐の行動には不審点が多すぎます】

「……てっきりアイギスはルールは絶対と言う側だと思ったんだがな」

【成長した。と言う事にしてください。それに疑わしいのは確かです】

「まあな」

 

 実際ユーリも何かを仕掛けるためにエリカが出向いた事は感づいているし、その事を彼女に確かめもした。

 

「だが疑わしくても上からの命令なら我慢するしかないだろ」

「それは……そうかも知れないですけど」

 

 ユーリの言葉に、アイシャは反論しようにも出来なかった。

 直属の上官であるスコットからの直々の命令である以上、確かな証拠が出ない事にはどうしようもない。

 

「それに」

【それに?】

「何を企んでいようと、生き残ればいいだけの話だ。その事に関しては誰にも負けない自信があるしな」

「……はぁ。豪胆というか何と言うか。身構えている私がバカみたいじゃないですか」

【同意見です曹長】

 

 アイギスとアイシャから呆れた、それでいて安心したような言葉を受け苦笑いをするユーリ。

 ひとしきり話し終えたると、アイシャは話題を偵察内容へと移す。

 

「それにしても。一面草原で何も無いわね」

「確かにな。情報通り基地近くには監視塔があったが、内側には何もないな」

【ポイントLにも特出するものはありません。そろそろカゲロウがポイントAに入る時刻です】

「これで何も動きが無かったらお手上げね」

「まあ仕方ない。もう少し進んでみて……っ!」

 

 その時、ユーリの背中に電撃が走ったような感覚が襲う。

 初めての感覚ではない。

 少年兵時代には常に感じていた、身近なものである。

 

 —―すなわち、死の気配が。

 

「くっ!」

【ユーリ?】

 

 感覚に従うまま、ユーリはMTを急降下させる。

 

「隊長!?」

 

 視界が雲を突っ切るなかで白くなると同時にアイシャの声が響く。

 そしてユーリは脳内で全体の位置関係を考える。

 敵要塞から見てエルザは右側、ミーヤは左に位置している。

 中央にはユーリ自身とアイシャ、そしてカゲロウ。

 そして何故敵機が襲ってこなかったのかという理由を合わせて考えれば、賢くないと自負しているユーリでも敵の新兵器に予想はついた。

 

「カゲロウ! 今すぐ下降しろ!」

 

 カゲロウに通信をすると同時に、アイシャのヴルムにワイヤーを巻きつかせて振り降ろす。

 

「きゃぁ!?」

 

 当然の行動に文句を言う暇もなく、アイシャは愛機と共に急降下させられる。

 

 ――一筋と言うには余りにも巨大な、青空を切り裂く赤いエーテル光が迫って来たのはその数十秒後の事であった。

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