エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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一章 始動
第3話 三人の部下


  ―新西暦五十六年 四月初旬

 

 アーストンの少将であるスコットと、軍に戻る事を決めた元少年兵ユーリ。

 ドルデインにて開会した二人は諸々の手続きをするため最も首都に近い基地、テルモに身を置いていた。

 

「全く、軍服ってやつはどうしてこうも堅苦しいんだ?」

「今の内に慣れておけ、これから嫌でも着なければならないのだから」

 

 基地内の通路を連れ立って歩く二人は、他愛のない会話をしながらとある場所に向かっていた。

 事情を知らない者が見れば歳の離れた親子のように見える親しさであり、真実を知ればユーリが注意を受ける事は間違いない。

 だが二人にとってはこの距離感が自然であるため、されたところで意味はないだろうが。

 

「どうだ? 初めて部下を持つ気分は?」

「実感が湧かないな。資料は見たけど、三人とも優秀な成績な事で。引け目を感じるよ」

 

 おどけるように言うユーリに、スコットは慈しむような目線を向ける。

 

「安心しろ。お前ならやれる」

「随分な期待だな。まあ一度引き受けたんだ、やれるだけやってみるさ」

 

 軽い口調で言うユーリではあるが、その眼には強い決意が感じられた。

 隣にいてそれを感じ取ったスコットは、これ以上何も言う事はなく歩み続ける。

 しばらく無言で基地内を歩く二人であったが、やがて一人の男性軍人が立つ部屋の近くまで来た。

 

「バドル中佐」

「オーウェン少将。お待ちしておりました」

 

 スコットが声をかけると、男はビシッと敬礼をして返事をする。

 如何にも軍人らしい態度に、ユーリは少し及び腰になりつつその場に踏みとどまる。

 

「ユーリ。彼はライアン・バドル中佐だ」

「……ユーリ・アカバ。少尉で、あります」

「よろしく。少将から経緯は聞いている、無理に敬語を使う必要はない」

「いえ、一応軍人な訳ですから」

 

 敬礼しながら拙い敬語で会話するユーリを見て、スコットは頭を乱暴に撫で始める。

 

「中佐、こういう変に真面目な奴だ。不安もあるかも知れんが、長い目で見てやってくれ」

「……了解しました」

 

 ユーリはここで初めてライアンの目を合わせる。

 

(信用されてないな。……まあ無理もないか)

 

 少年兵時代の経験から、目線でライアンの心情を察したユーリ。

 ライアンからすれば自分はどこぞの馬の骨と変わらないであろうと結論づけると、ユーリはサッと目線をそらす。

 別に必要以上に期待されようとは思ってはおらず、適度な対応をすればいいと結論づけた結果であった。

 

「……」

 

 そんなユーリの姿を、ライアンはジッと見ていた。

 互いに言葉を発さず無言の空間がしばらく続いていたが、ここでスコットが口を開く。

 

「今はこの位の距離感でいいだろう。だがこれから嫌でも顔を合わせるのだ、慣れてもらわないと困るぞ」

「善処します」

「了解」

 

 ライアンとユーリが承諾すると、スコットは部屋を見ながら確認する。

 

「それで中佐、彼女たちは?」

「全員中にいます」

「うむ。ではユーリ、部下との初対面だ」

「……ああ」

 

 返事を聞くと、まずライアンが中に入る。

 次にスコット、最後にユーリといった順番で入っていく。

 中にはそれぞれ違った容姿をした少女たち三人が座っていたが、上官に当たるライアンが入ってきた時点で直立し敬礼する。

 

「三人とも楽にしてくれていい」

 

 スコットの言葉によって敬礼は解かれたが、三人の顔には未だ緊張が残っているようである。

 一方で彼女たちの隊長になるユーリは、緊張しつつも何とか顔には出さずにいた。

 

「知って通り、君たちはこの度発足される特殊部隊のメンバーに選ばれた。今回はその顔合わせであり、君たちの隊長を紹介するために集まってもらった」

 

 そこまでスコットが言うと、ユーリは一歩前に出る。

 三人の様々な感情を乗せた視線が、ユーリに突き刺さっていく。

 だが、ここまで来たらやるしか無いと腹を決める。

 

「ユーリ・アカバ少尉だ。見ての通り年齢はそれほど変わらないが、任命された以上は隊長の任を全うするつもりだ」

「よろしくお願いします隊長!」

 

 ユーリが言い終わると同時に、元気よく返事をする一人の少女がいた。

 明るい表情はまるで太陽のようであり、サイドテールにまとめたオレンジ色の髪もよく似合っている。

 童顔に似つかわしくないスタイルの良さを発揮しながら、少女は元気よく自己紹介するのであった。

 

「自分はミーヤ・カレリンって言います! 階級は軍曹! 明るさが取り柄なので、よろしくお願いします!」

「あ、ああ。カレリン軍曹、よろしく頼む」

 

 ミーヤの元気さに押されつつも、何とか返事を返すユーリ。

 それに続くように、小柄な少女が敬礼しながら挨拶する。

 

「同じく軍曹、エルザ・シュミットと言います。今後ともよろしくお願いします」

 

 ミーヤと打って変わって、落ち着いた様子で自分を紹介するエルザ。

 ウェーブが入った銀のショートカットと、眼鏡によって知的さが表されていた。

 

「シュミット軍曹、これからよろしく頼む」

「……はい」

(値踏みされてるな)

 

 穏やかに挨拶をしながらも、エルザの態度からそう察するユーリ。

 気は抜けないと思いつつ、残る最後の少女へ目線を向ける。

 

「……」

 

 褐色な肌と長い黒髪、全体的にスラッとはしてるが女性らしさはある少女は黙ったままユーリを見ていた。

 気が強そうが現れている眼からは、警戒が強く表れていた。

 それにも関わらず、ユーリは少女に手を差し出す。

 

「いきなり得体の知れない奴の部下になって、警戒するのは分かる。だが相手に挨拶もしないのは、少し問題だと思うが?」

「……アイシャ・ウェルズ。階級は曹長です」

 

 名乗ったアイシャであったが、ユーリの手を取る気は無さそうであった。

 

「よろしく。とはいかなそうだな、その様子じゃ」

「……質問をしてもよろしいでしょうか」

「勿論」

「聞けば少将によって特別に少尉になったと聞きましたが、本当ですか?」

「ああ本当だ」

 

 その返答に、ただでさえ緊迫していた空気がさらに張り詰める。

 アイシャはユーリを見つめながら、ハッキリと断言する。

 

「ハッキリ言って、少尉を現時点で信用できません」

「なら辞退するか?」

「……いいえ。ただ実力があると証明して欲しいだけです」

「ならどうする気だ?」

 

 ユーリの問いかけに対し、アイシャは目を見つめながらある提案をしてくる。

 

「私と模擬戦をしてください」

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