エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー 作:蒼色ノ狐
第43話 新たなる任務
—―新西暦五十六年 十月中旬
ドリトドン要塞を陥落させたアーストン王国はバルア公国を降伏させ、さらなる領土を獲得した。
しかし同時にガスア帝国も、難攻不落とされたバンデル王国を陥落させる。
互いに領土を広げていく中で、両国の緊張感も増していく。
そんな中ユーリたちデュラハン隊は、アーストンとガスアに挟まれた中立国モストーンへと向かうのであった。
・・・・・・・・・・・
「で? モストーンなんて中立国に飛ばして、次は何をやらせる気なんだ?」
カゲロウの通信室にて、ユーリはモニターにスコットに悪態を吐く。
「相変わらずだなユーリ。変わっていないようで何よりだ」
スコットは苦笑しながらそう言うと、表情を引き締めて作戦について話し始める。
「今回モストーンまで行ってもらうのは他でもない。ある人物をエリンまで護衛してもらいたい」
「……全部聞かなくても厄介事な気配がするんだが。それならもっと適任な部隊がいるんじゃないのか?」
そう問いかけられると、スコットは残念そうに首を横に振る。
「この作戦は軍部でも知っているのは僅かな極秘作戦だ。この通信も特殊な回線を使っている」
「間違いなく厄介事だな」
「ああ。しかも戦闘も予想されるため、信用できる部隊にしか任せられない」
「信用されてると喜ぶべきかここは?」
「ふっ、好きにするといい。だが護衛対象には丁寧にな」
「努力はする。それよりもいい加減にある人物とやらを教えて貰いたいんだが?」
「おっと。そうだったな」
ユーリにそう言われると、スコットはとある写真をモニターに写す。
何かのパレードの様子なのか、車両の中から手を振っている一人の金髪碧眼な少女が写っていた。
「写っているのはバンデル王国の第二王女であるイレーナ。彼女が護衛の対象だ」
「バンデルの第二王女……ねぇ。わざわざ戦争の火種になるような人物を懐に入れなくてもいいだろうに」
バンデルはつい先日、ガスアに滅ぼされたばかりである。
その残党狩りを名目に、攻め込まれる可能性もあるのはユーリでも理解出来た。
「確かにな。だが彼女に関してはその可能性は低いと思われている」
「その根拠は?」
「一つに彼女は王族と言っても政治や軍事に関わりを持ってない。故にガスア側も影響力は低いと考えるだろう」
「……他には?」
「もう一つはガスアは電撃作戦を持ってバンデルの首都を陥落させたが、まだまだ残存戦力を吸収しきれていないのが現状だ」
「そんな中でバンデルの王女を始末しようとして、そいつらを刺激したくない。って事か?」
「そういう事だな」
スコットは頷くと、疲労を堪えられないようにため息を吐く。
「大丈夫か?」
「ん? ああ、済まない。最近はどうもごたごたが多くてな。碌に寝れもしない」
「大変そうだな」
「まあお前のような若い者が頑張っているんだ。後方にいる老人はそれに報いなければな」
「……任務の件は了解した。ただしお姫様の機嫌を損ねても俺は知らん」
「そこは期待してはないから安心するといい。幸運を祈る」
その言葉を最後に、スコットの映像はかき消された。
ユーリは今の通信が記録に残っていないのを確認すると、背伸びをしながら気合を入れるのであった。
「さて、騎士役を頑張るとしますか。似合わないにも程があるけどな」
その顔は、苦笑に彩られていた。