エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第56話 再会、地獄にて

 月明かりが照らす荒野にて、白と赤のMTが爆炎をまき散らしながら上空を舞う。

 アーストンの最新鋭機である白いファフニールを操るユーリ。

 一世代前の機体のカスタマイズ機である赤いサラマンダーを操るレイ。

 二人の実力は拮抗しており、一進一退の攻防が繰り広げられている。

 

「喰らえ!」

「ちっ!」

 

 だがコックピット内の二人の表情は、非常に対照的であった。

 楽しそうに獰猛な笑みを浮かべるレイに対し、ユーリは時折苦しそうな表情を見せたていた。

 

「どうしたユーリ! こんなものじゃないだろ!」

 

 サラマンダーのブースターを吹かせて、真っ直ぐに突撃したレイはアックスを横薙ぎに振るう。

 

【ユーリ】

「分かってる!」

 

 アイギスの言葉に乱暴に返すと、ユーリはレイの攻撃をアクロバティックな動きで回避しながらライフルの銃口を向ける。

 

「まだまだ!」

 

 レイは右肩に装備されたバルカン砲の照準を合わせると、引き金を引いて弾丸をまき散らす。

 ライフルからエーテルが打ち出されも同時であり、実弾と閃光が交差して互いの敵に迫る。

 

「この!」

「ちくしょう!」

 

 結果ユーリはライフルを、レイはバルカン砲を撃ちぬかれ爆散する。

 二人とも巻き込まれないように被弾した武器を離すが、肩に装備していたサラマンダーの方がより近くで爆発に巻き込まれる。

 煤が赤い装甲に纏わりつく中で、レイはサラマンダーを下降させる。

 ユーリも少し距離を取って地面に降り立ち、サーベルを構えながらレイの様子を伺う。

 

(相変わらず隙がねぇな)

 

 レイは心の中で愚痴りながら、次で決着をつける事にした。

 サラマンダーの装甲と武装を可能な限りパージさせ、残るはブースターとアックスのみとなった。

 

「いい時間だ。次で決着をつけようぜ」

「……その前に最後に聞かせろよ。どんなつもりなんだよ、お前」

 

 ユーリの問いかけにレイは沈黙していたが、しばらくしてようやく重い口を開く。

 

「お前は生きる為に戦う。何時もそう言ってたな」

「ああ」

「だが俺は違うんだよ。ギリギリの戦いをしなくちゃ生きている実感が味わえないだ。まああの地獄で生きたからかも知れないが」

「……同情はしないぞ」

「当然だ。これでも幸せなんだぜ俺は」

 

 先ほどとは違い優しい笑みを浮かべるレイであったが、すぐに表情を引き締める。

 

「このまま出会わなければ、戦う事なんてなかったのにな。よっぽど神様は俺たちが嫌いらしい」

「違いない」

 

 今度は二人で笑いあう。

 殺し合いをしているとは思えない程、和やかな空気が流れるがそれもすぐに終わる。

 

「……もういいか」

「ああ。これで心置きなくお前を切れる」

「抜かせ。自信ごとお前を叩き切ってやる」

 

 互いにサーベルとアックスを構え、突撃の構えを取る。

 小細工も何も無い真っ向勝負。

 闇に包まれた荒野に、二人はただ真っ直ぐ突き進む事のみに集中する。

 

「「っ!」」

 

 動き出したのは全くの同時。

 互いにスラスターからエーテルを全力で吹かせて突貫していく。

 そして白と赤が交差した時、全ての決着はついたのであった。

 

「……終わったな」

「……ああ、終わった」

 

 カメラと左腕を切り取られたサラマンダーが荒野に足をつく。

 近づこうとするユーリであったが、レイは鋭い声で止められる。

 

「来るな!」

「レイ」

「頼む。このまま死なせてくれ。もう戦いで生を感受するのは飽きたんだ」

「……言い残す事はあるか?」

【ユーリ】

「言うなアイギス。あいつが決めた事だ」

 

 まるで自分に言い聞かせるように、口にするユーリの表情からは感情が見えなかった。

 しかし全てを物語るように頬を伝う涙が、数滴流れていた。

 

「じゃあ一言だけいいか?」

「何だ」

「じゃあな。また地獄で会おうぜ親友」

「……ああ。またな」

 

 言葉を受け取ると、ユーリは帰艦するために夜の空へと舞い上がる。

 その後ろで爆発音が聞こえても、ユーリは振り向かなかず涙を浮かべるのみであった。

 

・・・・・・・・・・・

 

「皆さん。ここまで護衛、感謝いたします」

 

 レイとの決着の翌日。

 無事に国境を越えアーストンへと戻ってきた一同は、護衛の任を別の艦に引き継ごうとしていた。

 イレーナがブリッジにて一人一人に頭を下げる中、端にいたユーリの前で立ち止まり握手のために右手を差し出す。

 

「アカバ少尉。特にあなたにはお世話になりました。これから先、自分の出来る事を精一杯やってバンデルの大地を踏みたいと思います」

「役に立てたようで何よりです王女」

 

 ユーリも右手を出し握手に応じると、イレーナがそっと耳打ちしてくる。

 

「いつか質問の答えを聞くのを、楽しみにしてますからね」

 

 言い終えたイレーナはスッと離れ、他の艦の者と共にカゲロウから去っていった。

 一方でユーリは王女と何かあったのでないかと、アイシャたちから詰め寄られ対応に追われるのである。




今回のエピソードにて五章は終わりとなります
次回は幕間を挟むか六章に行くかは未定ですが、見続けてもらえると嬉しいです
これからもエーテル・レコードをよろしくお願いします
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