エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第59話 抜け出せぬ迷宮の如く

「これは……まずいな」

 

 ローランドが深刻な表情で漏らした言葉に、ブリッジに集められた他の三人は何も言えなかった。

 視線の先には犯人からの手紙が置かれていた。

 ファフニールを渡せという要求に取引時間と場所が書かれたシンプルなものであるが、それだけに犯人の手掛かりは得られない。

 犯人と直接やり取りをしたであろうレコも、大した情報は持っておらず。

 そもそも現在は気絶して医務室で休んでいる。

 

「しかし中立地で誘拐など、大それた事をするものですね。それほど最新鋭機の情報が欲しいとは」

「いや、目的はそっちじゃねぇな」

 

 ジェイドの発言を否定したバーナードに注目が集まると、彼は苦虫を食い潰したような顔をして意見を述べた。

 

「敵の目的はMTそのものじゃねぇ。むしろ中身だ」

「と言う事はまさか」

「ああ。アイギスが向こうのターゲットだろうと儂は見ている」

 

 その言葉を聞いてローランドとジェイドの顔が更に歪む。

 最新鋭機の情報が盗られるのも問題だが、アイギスの情報は問題度が高まる。

 犯行した者の目的が何であれ、アイギスがこれまで学習した戦闘データが悪用される事になればアーストンに痛手なのは間違いないだろう。

 沈黙が支配するブリッジの中で、艦長であるローランドがようやく口を開く。

 

「とにかく向こうの要求を飲まないのは共通認識だと考えていいな」

 

 ローランドの言葉にジェイドもバーナードも、そして黙ったままのユーリも頷く。

 意見がまとまっているは良い事であるが、依然として事態は良くなっていない。

 問題は山のように立ちふさがっている。

 

「そうなると人質となっている三人をどう助け出すかですが」

「敵の戦力も不明となると作戦の立てようもないな。MTを持ち出してくる可能性もある」

「この際ホウライの戦力を借りるのはどうなんでい」

「それは難しいでしょう。領土内とはいえ中立を叫ぶホウライが協力するとは」

「したとしても我々は関われないかも知れません。そうなれば三人の命も危うい可能性も」

「けどどうする。もう時間もねぇぞ」

 

 三人が人質救出のため話し合っている中、ユーリはただ黙って何かを考え込んでいた。

 

「少尉。何か考え事か?」

「いや。……少し外の空気を吸ってくる」

 

 誰の許可を得る事もなく、ユーリはさっさとブリッジを後にする。

 三人はユーリの行動に疑問を感じながらも、問題可決のために話し合いを続行するのであった。

 

・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ」

 

 話し合いから抜け出したユーリは、ただ一人ホウライのビーチを歩く。

 周りには一般の客で賑わっており、傍から見ればユーリは場の空気から浮いていた。

 だがユーリは気にした様子もなく押しては引いていく波を見ながら考える。

 

(もし向こうがMTを持ち出しても勝つ自信は、ある。だが三人を庇いながらとなると流石にキツい)

 

 武装を解除する事を要求されても、ファフニールのスペックがあれば多少の実力者ならユーリはねじ伏せる自信がある。

 だが人質を盾にされる、もしくは庇いながらとなれば一人でどうにかなる領域を超えていた。

 

(せめて一人。使える手駒が一人いれば話は変わってくるんだが……。無いものねだりしてもな)

 

 思考が沈んでいく中で、知らない間に人気の少ない場所までたどり着いたユーリ。

 いわゆる穴場スポットなのか、人は少ないが景色はかなり良い。

 しかし楽しんでいる余裕も無い為、引き返そうとした時であった。

 あるビーチパラソルの影にいる人物が気になり、近づいていく。

 やがて正体が分かり、驚きつつもある確信を持って接近する。

 向こうもユーリに気付いたようで、驚きの表情を見せながらも待っていた。

 

(上手く行けば何とかなるか)

 

 —―その後、海岸を離れたユーリは確信を持ってカゲロウへと戻っていくのであった。




ようやく暑さも落ち着き始めてきました。
体の弱い自分ですが、体調も落ち着き始めたので安定して書けて嬉しいです。
読んでくださる皆さんの期待に沿える作品を書き続けたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!
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