エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第6話 専用機

  小隊結成から数日後、ユーリはスコットに呼ばれ第三格納庫の前まで来ていた。

 そこではスコットとライアンだけでなく、体格の良い初老の男が話している。

 

「ん、来たな。ボルク、彼がユーリ・アカバだ」

「ふん、聞いてはいたがこんな若造だとはな」

「……ユーリ・アカバ少尉と言います。アナタは?」

「バーナード・ヴァン・ボルク。我がアーストンにおけるメカニックの天才だ」

 

 ライアンが代わりに答えると、バーナードはユーリを品定めするように上から下までジロジロと見回す。

 

「何か?」

「スコットが逸材だと言っていたが、いまいち信用出来ねぇな。この小僧、本当に使えるのかい?」

「お言葉ですがボルク氏、彼の能力に関しては」

「ああ、資料を貰ったな。だからどうしたって言うんだ」

 

 バーナードはライアンを睨みつけると、威厳が籠った声で断言する。

 

「能力があろうが偉かろうが、そんなもん関係ねぇ。儂はこの眼で判断したもんしか信じねぇ。幾ら金を積まれようがそこは譲れねぇな」

「昔から変わらないなボルク」

 

 スコットが諦めたように肩を竦めていると、バーナードはユーリの目を見て問いかける。

 

「お前さん。どんな気持ちで戦って来たんでい? 返答によっちゃあ、この先に進ませる訳にはいかねぇな」

 

 周囲が痛い沈黙に包まれる中、ユーリは頭を掻きながら答え始める。

 

「どんな、と言われても。昔はただ生きたいという気持ちだけだったですよ。今はこんな自分の為に無茶したお偉いさんに気持ちに答えたいっていう理由も少しありますけどね」

「そんだけか? 他には何か無いんか? 国の為やら何やら」

「あいにくそんなに気高くないもので」

「……」

 

 バーナードとユーリはお互いの顔からジッと視線を逸らそうとしない。

 その隣ではライアンがどうしたものかと気を揉んでいるが、スコットは何か確信めいたように微笑んでいる。

 やがて、根負けしたようにバーナードが深くため息を吐く。

 

「まあ及第点、と事にしといてやる。来な、小僧」

 

 そう言って格納庫内に入っていくバーナードについて行くユーリの後ろについていきながら、ライアンは安堵していた。

 

「ふぅ」

「心配すること無いと言っただろう、中佐」

「そうは言いますが少将。もしボルク氏がアレを渡さないと言っていたらどうなっていたか」

「その時はどうにかしていたさ。ともかくアレはユーリぐらいの力量が無ければ扱いきれまい。その位、ボルクは分かっているさ」

「はぁ」

「それに」

 

 未だ納得しきってない様子のライアンに、スコットはその前を歩きながらバーナードを見る。

 

「アイツは口ではどうこう言っても若者を見捨てるような真似はしないさ」

 

 その口調からは、確かな信頼が込められていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「小僧。今のアーストンの主力機は知っているか?」

「第三世代から第四世代になったていうのは聞いた事ありますがね、詳しい事は」

「だらしねぇな。スコット、お前ぇもここに来る前に教えておけよ」

「半端な知識を得るより専門家から聞いた方がいいかと思ってな」

「へ! そうやって仕事を押し付けるのが上手い奴だ。小僧も気をつけろよ?」

「重々知ってますよ」

「はは、仲が良いようで何より」

 

 ライアンが後ろで冷や汗を掻いているのも知らずに、少将であるスコットに悪口とも取れる会話を続ける二人。

 付き合いのある二人が故に許されているのだろうが、ライアンからすればたまったものでは無い。

 

「今の主力はドラグーンタイプと呼ばれる単独飛行が可能なMTだ。細かい事を言い出したらキリがねぇから省くが、特徴とすればそこだな」

「前は飛行ユニットを別に生産していましたからね」

 

 ライアンの言葉にバーナードは頷きながら、暗い格納庫内を慣れた様子で先導して歩いて行く。

 

「だが小僧の実力を考えたスコットの奴から専用機を作って欲しいって打診が来てな、儂も久しぶりにメカニックとしての血が騒いだわい」

「専用機? 俺に?」

 

 ユーリが心底不思議そうに口にすると、スコットは何を今更といった風に答える。

 

「お前の実力を考えれば当然の事だろう」

「ウェルズたちは?」

「彼女たちは量産機だが、特別にチューンしてある」

「ま、それも儂がやった訳だがな」

 

 そのような会話をしていると、一際厳重そうな扉の前に着いた一同。

 バーナードがパスコードを打ち込むと、厳重な扉が少しずつ開かれていく。

 

「こいつが小僧の専用機、『ファフニール』だ」

 

 そして現れたのは白を基調としたMTであった。

 その姿を言い表すならば西洋騎士のようなフォルム。

 気品さえ感じさせるその機体に、ユーリは感嘆の声を出す。

 

「はぁ。これはまた随分と」

「どうだ、初めての専用機を見た気分は」

「気後れするぐらい立派な機体だ。……本当にこれを俺が?」

「見た目はともかくコイツはじゃじゃ馬だぞ小僧。何せ推力は通常機の倍になっとるからな」

「へぇ?」

 

 どうでもよさそうな口調で返事をするユーリであったが、その目線はファフニールから少しも外しはしなかった。

 

「気に入っている……のでしょうか?」

「さあ、どうだろうな。ただ一つ言えるのは、あの機体に命をかける覚悟は決まったらしい」

 

 スコットの言葉を証明するように、ユーリの口元は僅かに緩んでいた。

 

「さてユーリ。これから調整と行きたいところではあるが、その前にある特務任務について伝えよう」

「任務?」

「ああ。……その前に、この機体の秘密について」

【それについては此方から説明させてもらいます。スコット・オーウェン少将】

「? 誰だ?」

 

 突然聞こえた高い声の主を探るユーリであったが、いくら見渡しても見当たらない。

 

「無駄だ小僧。いくら探してもいねぇよ」

「それはどういう」

「少尉。この声は人間の物ではない」

「? つまり?」

【単刀直入に説明致しますユーリ・アカバ少尉。私はこのファフニールに搭載されたAIです。以後よろしくお願い致します】

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