エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第7話 アイギス

「随分と流暢に話すんだな。AIがここまで進化してるとは思わなかった」

「いや、通常のAIはこうはいかない。これは特別製なのだ」

 

 ユーリの心底驚いたようにしていると、謎の人物が急に現れすぐさま説明に入る。

 

「ファフニールに搭載されているAI、私は『ゼロワン』と呼んでいるがね。様々な情報を学習し、成長する事が出来るAIなのだよ」

「……どなたですか?」

「それだけではない。その成長スピードは通常の数倍であり、まさしく新世代のAIと呼べるだろう」

「人の話を聞かないな、何者なんだ?」

「この方はアームストロング博士。我が国におけるAI研究の第一人者だ」

 

 ライアンがこっそりとユーリに耳打ちしようやく正体が判明するが、アームストロングは一切止まる事無く説明をし続ける。

 このまま聞き続けても埒が明かないので、ユーリは苦笑いしているスコットに確認を取る。

 

「で? 何で俺がそんなAIと一緒に仕事しなくちゃいけないんだ?」

「ゼロワンの戦闘データ収集のためだそうだ。その為に凄腕のMT乗りであるお前の機体に搭載して欲しいと言われてな」

「そんなの別に俺じゃなくてもいいだろ。何でわざわざ」

「それは君が感覚的に戦っているからだよ」

 

 先ほどまでゼロワンの説明をし続けていたアームストロングであったが、突然といった様子で二人の会話に加わる。

 

「データを確認させてもらったが、君の戦い方はマニュアル通りの戦い方ではない。実戦を繰り返して身につけた物だ」

「えぇ、まあそうですね」

「無論ゼロワンの学習能力をもってすればデータ通りの戦い方はできる。だがそれでは通常のAIと変わらない。だから必要なのだよ、凄腕のそれも感覚的に戦うMT乗りのデータが」

「……なるほど」

 

 説明に頷くユーリを放っておき、ゼロワンの説明を続けるアームストロング博士。

 止まらないだろうと考え、ユーリは目線を再びスコットに向ける。

 

「そう言う事だ。博士は軍部以外とも強い繋がりをもっているのでな、無下に断る事もできないのだ」

「はん。それでデータを収集し終えた後はパイロットはお役御免ってか? ゾッとする話だなそりゃ」

 

 今まで黙っていたバーナードであったが、嫌悪感を露わにして吐き捨てる。

 

「やはり今でも反対ですか? ボルク氏」

「当たり前だろが。誰も死なない戦争なんざゲームと一緒だ。死なせたい訳じゃねぇが、それでもな」

「ま、俺は無事に戦えればどっちでもいいけどな」

 

 ユーリは心底どっちでもいいと雰囲気で、ファフニールを見る。

 

「で? そっちはどう思っているんだよ、優秀なAIさん?」

【それはどの様な意味の質問でしょうかアカバ少尉】

「学習先が俺でいいのかって事さ。それぐらいの好みはあるんじゃないか?」

【いえ、データを見る限りアカバ少尉の技量には非凡さがあります。それと好みというものはAIには不必要です】

「褒めてもらえるのはありがたいが、人間に近づくか超える気ならそれぐらいは必要だと思うがね」

【誤解があるようですが、当AIの搭載意義はパイロットの生存確率を上げる為です。人間に近づくのはその為の手段に過ぎません。まして越えようとなどと】

「俺だったらそんなAIに命を預けるなんて御免だね」

【これが人間で言う、性格の不一致というものでしょうか?】

「かもな」

 

 ユーリがそう言うと、二人(?)の間には沈黙が支配する。

 AIであるゼロワンはともかく、ユーリの方も表情からは感情が読み取れなかった。

 

「素晴らしい。彼ならばゼロワンに更なる進化をもたらすだろう」

「あの、アームストロング博士。本当にアレでいいのですか?」

 

 ライアンが恐る恐るといった様子でアームストロングに質問するが、例の如く聞いていないようで一人で何かしらを説明し始めていた。

 

「はぁ」

「中佐、こうなっては仕方がない。ボルクもこれからよろしく頼む」

「ふん。まあしょうがねぇ、メカニックとしてやれる事をやってやるさ」

 

 三人がそのような会話をしている近くで、ユーリは再びゼロワンと会話を始めた。

 

「質問するが、ゼロワンって言うのは正式名か?」

【はい。それが何か?】

「百歩譲って搭載するのはいいが、そのままゼロワンと呼ぶのは味気ない。他に呼ばれてる名はないのか?」

【ありません。ですが俗に言う愛称のような名を付けたいというのでしたら、少尉がお決めになってはどうでしょうか】

「俺がか?」

「いいのではないか? 博士もその位は許してくれるだろう」

 

 話を聞いていたらしいスコットが、未だに説明を続けているアームストロングの代わりに許可を出す。

 それを聞いたユーリは悩み始めて、やがて一つの名前を口にする。

 

「アイギス……でどうだ」

【アイギス。神話における盾ですね】

「特に深い意味を考えた訳じゃないがな」

【いえ、良き名だと思います。名に負けぬようこれから補佐させてもらいます、少尉】

「まあ何時までの縁になるかは知らないが、こちらこそよろしくアイギス」

 

 死神と呼ばれた少年と、最新鋭のAI。

 彼らの出会いがどの様な未来を紡ぐのか、それを知る者はまだいない。

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