エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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幕間 とある十二月の一コマ

 十二月の下旬

 

 年の終わりであると同時に始まりが近づいていると言う事でもあり、人々が忙しなく動き回る時期。

 そんな中、エリンのとある人気カフェのテラス席にて一人の少女がホットコーヒーを飲んでいた。

 少女の名はアイシャ・ウェルズ。

 今更説明する必要もなく、デュラハン隊の一人。

 

「……」

 

 彼女は時折腕時計を見ては何度もため息を吐くという行為を繰り返している。

 ここでアイシャの容姿を思い出してみよう。

 流れるような長い黒髪に褐色肌の美人であり、軍人よりもモデルの方が適職ではないかと思える程のスタイル。

 そんな彼女がカフェで物思いにふけっていれば、声をかけてくる輩は少ないのは想像に難しくない。

 現に先ほどもしつこいナンパを追い払った所であり、ため息を吐いていた主な原因の一つである。

 

「……まだ来ない、かな」

 

 では何故アイシャがナンパされてもカフェから動かずにいるのか?

 理由としては単純で、人と待ち合わせをしてるからに他ならない。

 だがその人物が遅刻してるかと問われれば違う。

 待ち合わせの時間は三時。

 しかしアイシャはその一時間半前、つまり一時半にカフェに着いてしまっていた。

 彼女自身まるで楽しみにしてたみたいで、到着した時は頭を抱えたぐらいである。

 

「……」

 

 そしてこの状況を理解したなら当然の疑問が湧いてくる。

 

 ―待ち合わせ相手は誰なのか?

 

「早く来てくれないかな。隊長」

 

 アイシャが隊長と呼ぶ人物は一人しかおらず、勘のいい者なら気づいていただろう。

 ユーリ・アカバ

 何故アイシャが彼と待ち合わせをしているのか?

 これも理由としては単純であった。

 

 数日前にユーリはスコットのホームパーティーに呼ばれたのだが、流石に手ぶらで行くのは気が引ける。

 となれば何かプレゼントを選ぶ必要があるが、幼少の頃からMTでの戦闘に時間を割いてきた彼にとっては難題である。

 そこで目をつけたのがアイシャ。

 上流階級出身でありセンスもありそうな彼女と共に選ぶために待ち合わせする場所がこのカフェである。

 

「……いや、別にいいんだけどね」

 

 カゲロウにて暇を持て余していた彼女にとっても渡りに船であり、二つ返事で承諾した。

 ちなみに実家に帰っても待っているのは退屈極まりない会食やパーティーであると読んだ彼女は、忙しいという理由で帰るのも止めている。

 そこまでなら良かったが、故郷に顔を出すため支度をしていたミーヤに事情を話した際に言われた言葉。

 原因を辿れば早く来すぎた大きな理由であり、アイシャが緊張を落ち着かせるために五杯目のコーヒーを飲んでいる訳でもある。

 

 ―その言葉とは

 

「え!? それってデートって事!?」

 

 であった。

 当然アイシャは否定した。

 これはあくまでただの買い物であり、二人ともそんな気は無いと。

 だがミーヤはデートであると力説し、さらには同席していたエルザでさえ。

 

「いい機会だから手ぐらい繋いだら? このままだと何も進展しないわよ?」

 

 と言う始末であった。

 その場は顔を真っ赤にして立ち去ったアイシャであったが、二人がクスクスとした笑い声は未だに耳に残っている。

 デートという単語は彼女の脳中で響き続け、張り切り過ぎてますますデートにしか見えない服装を着てしまい、焦って時間を間違えてしまったのだ。

 

「そもそも何で私が隊長の事を好きな前提なの? ……まあ嫌いじゃないけど」

 

 ついにブツブツと呟き始めるアイシャは、誰にも聞こえない反論を口にし続ける。

 傍から見れば完全に不審者であるが、美貌補正もあってただ憂鬱気に見えるのは本人にとって幸運であった。

 

 三時まであと十五分

 ようやく時間が近づいて来た事に安堵したアイシャは、一つ大きく深呼吸。

 既に彼女の目的は、意識してる事を気づかれず今日をやり過ごす事となっていた。

 軍務を終わらせてから来るというユーリからは、既に遅れるかも知れないという話は聞いてるため、苦くなった口の為に甘い物で糖分を入れようとメニューを確認する。

 

(あ……)

 

 目の端で奥からユーリがカフェに向かって来ているのを見つけたのは、その時だった。

 早めに終わらせてくれたのかも知れないと、思わず胸が高鳴り

 

(って! 違う違う違う! これはデートじゃないから! 断じて!)

 

 自分を 責するように太ももを抓るアイシャ。

 とりあえずいま来たかのような雰囲気で待つ事にするが、自分がにやけている事には気づかないのであった。

 

 アイシャが抱いているのが恋心なのか?

 それとも別の何かなのか?

 彼女が答えを出すには、まだまだ時間を要する。

 だがそれはまた別のお話にて。

 

 ―ちなみに請求書を見て長時間待っていた事がユーリにバレ、顔を赤くして恥ずかしい思いをするのはこれから十数分後の話である。




という訳でアイシャが主役の幕間でしたが如何でしたか?
次回からは第八章
強大な敵がユーリたちの前に立ちふさがります
是非ご確認ください!
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