エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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八章 救世主
第78話 二年という年月


 ―テルモ基地で巻き起こった事件から、二年が経った

 

 アーストン王国とガスア帝国の休戦は未だに続いており、両者間では平和が続いている。

 しかし両国は近隣国を併合しつつ力を蓄えており、いつ戦争になっても良いようにしていた。

 それは二大国以外でも同じ事で、様々な国がそれぞれの思惑の下で軍備を増強していく。

 

 ―新西暦五十九年

 未だに完全な平和は遠いままであった

 

・・・・・・・・・・・

 

 ―アーストン領海

 

 燦々と輝く太陽の光を反射し、青く輝きを放つ海の上を突き進む巨大な影があった。

 影の正体はアーストン所属の小型戦艦カゲロウ。

 そのブリッジでは、艦長であるローランドがコーヒーを飲みながら風景を眺めている。

 

「平和な風景だ。やはり海はいい」

「そうですね。仕事でなければ釣りでも楽しみたい所ですね」

 

 ローランドの言葉に副艦長であるジェイドが頷く。

 他のクルーたちを見ても真面目に動いてはいるが、張り詰めた空気は感じられない。

 というのも今回の任務は主に調査が目的であり、戦闘は起こらないと予想されている。

 目的地では不可解な事例が確認されているが、戦闘続きであった彼らに回ってきたのは息抜きを兼ねての事だった。

 とその時、ブリッジに入ってきた人影を見てローランドはいきなり苦笑を浮かべた。

 

「また逃げてきたのか、中尉」

「そうだよ。ったくアイシャの奴」

 

 愚痴りながら入ってきたのは、少し前に階級が一つ上がって中尉となったユーリ。

 態度は相変わらずであるが、以前より空気が親しみやすくなったと一部で噂となっている。

 

「彼女の強くなりたいという気持ちの表れだろうな。きっと」

「それは理解してるけど、毎日何回と付き合わされるこっちの身にもなって欲しいだけど」

 

 ジェイドの言葉に反論しつつもユーリの顔には笑みが乗っており、本気で嫌がっている訳ではない事が察せられる。

 周りが温かい表情で見ている事にも気づかず、彼は広大な海を見ながら何故か顔に皺を寄せる。

 

「艦長。本当に今回は調査だけ、なんだよな」

「そうだが。……何か気になる事でもあるのか?」

「何か嫌な予感がするんだよな。抜け出せない沼に片足突っこんでいる、そんな感じが」

 

 その言葉を聞いてローランドは考え込む。

 確かに不審な点がある上、何よりユーリの勘は頼りになる事が多い。

 

「メカニックたちに整備は念入りにしておくよう連絡を入れておこう。何が起こってもいいように」

「すまない」

「いいさ。もう二年以上の付き合いだからな」

 

 ユーリはもう一度海を。

 いや、その先に待っているだろう目的地の方角を見つめ続ける。

 

「さて何が待ち受けているかな。『ジャンク島』に」

 

 ひっそりと呟いたユーリの言葉は、誰にも聞こえる事無くブリッジに消えていった。




八章の開幕です!
果たしてどのような物語が展開されるのか、ご期待ください!
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