エーテル・レコード ーかつての少年兵が英雄と呼ばれるまでー   作:蒼色ノ狐

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第84話 ヘブンズフォール

 ―ニューブルックリンでの敗北から三日

 

 アーストン王都エリンではアヴァロンへの対策を練るべく、上層部による日夜会議が行われていた。

 だが集められた者たちの間に最早会話はなく、多くがただ頭を抱え悩ませるのみ。

 無論彼らとて最初は対応を模索していた。

 だがかなりの戦力を増援に送ったニューブルックリンでさえ、半日も持たずに崩壊。

 かの国の人々がどうなったさえ、彼らには知る由もない。

 それでもまだ抗戦の意思を見せる主張の者が多かったが、次の一言で全員が黙り込んでしまう。

 

「勝ち筋はあるのか?」

 

 抗戦を主張していた者も、そうでない者も誰も何も言い返せない。

 敵MTの数は一万を超えていたとの報告もあり、ニューブルックリンの戦力も吸収したとすればさらに数は増えるだろう。

 加えて自己修復までされてしまっては、勝ち筋が見えないのも仕方なかった。

 このまま答えが出ないまま時間だけが過ぎていくのではないか?

 そんな考えが場を支配する中、一人会議の間に入ってくる者がいた。

 

「失礼します」

「誰だ! 今は会議中だぞ!」

「私が呼んだ」

 

 そう静かに言葉を発したのは、スコットであった。

 入ってきた人物はスコットの傍まで寄ると、頭を深く下げる。

 

「少将。遅くなり申し訳ありません」

「いやいい。待っていたエリカ・ブレイン大尉」

 

 バレッタで纏めた白髪が目立つ少女の名を聞き、何人かが納得した声を上げた。

 

「ブレイン……あぁ戦乙女の二つ名を持つ」

「しかしオーウェン少将。この場は将軍が話し合う場だぞ」

「ならば今のままで打開策が浮かぶのですかな?」

 

 疑問視していた者もスコットの一言で押し黙る。

 場が静まったのを確認すると、エリカは凛とした声を張り上げ説明を開始し始めた。

 

「エリカ・ブレイン大尉と言います。格不足なのは重々承知ですが、今は国家存亡の危機。お許しください」

 

 エリカはそう切り出すと、端末を操作し皆の前にデータを送る。

 

「これは?」

「ある部隊が回収した敵のMT。便宜上名前を付けさせてもらい、『リビングデッド』とします。その詳細なデータです」

 

 誰からともなく感嘆の声が漏れる。

 エリカはその声に反応する事なく、分かった事を伝えていく。

 

「リビングデッドの大半はスクラップとなったMTの寄せ集め。スペックだけで言えば現在量産されているヴルムに敵う機体ではありません」

「そんな事はいい。自己修復するカラクリは分かっているのか」

 

 ある一人が焦れたのか話を急かす。

 それを受けてエリカは詳細を飛ばして、本題へと移る。

 

「リビングデッドには一種のナノマシンが仕組まれており、損傷した場合に周りの金属を使い装甲を修復する指令を出している模様です」

「打開策はあるのか?」

「はい」

 

 短くも力強く答えたエリカ。

 その姿を見て、周りからは驚きの声が聞こえ始めた。

 

「メシアからの指令を受け取っている以上、リビングデッドには受信装置が備わっています。機体の回収によってそれが頭部にある事が判明しました」

「それはつまり、頭を潰せば奴らは動けなくなる。そういう事だな」

「その通りです」

 

 場の空気が一変した。

 見えた希望の光に一様に明るくなる中、それを裂くようにエリカが発言する。

 

「ですが。我が方が劣勢なのは変わりありません」

 

 エリカの一言に、会議の間は再び沈黙が支配する。

 実際リビングデッドの弱点が分かったとしても、未だ一万を超えるという数の暴力は健在なのだ。

 皆が頭を悩ませる中、エリカは再び声を張り上げた。

 

「もし宜しければ、作戦立案させてください」

 

 場にいた者は顔を見合わせ様子を伺うが、誰も積極的に反対する者はいない。

 誰も作戦まで考えが及ばない中で、彼女は救いの女神に見えた者もいただろう。

 

「言いたまえ。大尉」

 

 最終的にスコットが促し、エリカは作戦を語り始める。

 

「まず全領土内から最低限の戦力を残しエリン近郊に集結させ防衛線戦を張ります」

「ち、ちょっと待て! 全領土内だと! その間に攻められたらどうなる!」

「……間違いなく壊滅的な被害を受ける事でしょう」

「っ! そんな作戦、認められる訳が!」

「ならば質問しますが、我々がいま守るべき物はなんでしょうか?」

「何?」

「領土ですか? 財産ですか? 地位ですか? いえ。この戦いに掛かっているのは、人類の未来です」

「……」

 

 エリカの言葉に否定して者も黙りこむ。

 他も何も言い返さないのを見て、エリカは静かに言葉を紡ぐ。

 

「もし戦いに負ければ、人は人として生きられなくなる。そんな未来で満足なのですか?」

「それは余にとっても困る」

「王!?」

 

 突然あらわれたユリウス王に場が混乱する中、王は礼を取るエリカの前まで行く。

 

「続きを話してくれ」

「承知しました」

 

 エリカは短く答えると、再び作戦の説明を開始する。

 

「防衛線でリビングデッドの進行を抑えた後、精鋭を選抜しアヴァロンへ突貫。メインシステムとメシアを破壊します」

「だ、だが突貫と言っても簡単じゃないだろう。どう迎撃を潜り抜けるつもりだ?」

「廃棄された前時代の長距離弾道ミサイルを使いMTごと打ち上げます。だからこそ選抜するのです」

「無茶ではないか?」

「多少の無茶は押し通ってもらいます。それが出来なければ、アーストンも他の国も終わりです」

 

 断言するエリカの迫力に、誰もが何も言い返せない。

 そんな中で唯一ユリウス王は天井を見上げ、何かに浸るように言葉を発した。

 

「例えこの先で国が亡ぼうとも、メシアは止めなければならない。そういう事だな」

「……はい」

「……分かった。今の作戦を元に各自動いてくれ。作戦責任者はオーウェン少将、頼まれてくれるか?」

「承りました」

 

 次々に決まっていき一部はついていけない中、ユリウス王は皆の前で言い放つ。

 

「これは人類を守る戦いである。言いたい事は様々あるだろうが、今は勝つ事だけを考えて欲しい」

 

 命令と言うにはあまりに頼りなく、しかし願いとしてはとても力強い。

 そんなユリウス王の言葉に、不満があった者も降伏を口にした者も。

 この場にいた全員が席から立ち上がり礼を取る。

 

 『ヘブンズフォール』と名づけられた作戦は、ユリウス王の名のもとスコット・オーウェン少将が進める事となった。

 作戦開始はアヴァロンがエリンに到着すると思われる七月七日。

 

 ―人類の未来を決める戦いまで、あと一か月を切っていた

 




久しぶりに二千文字越えのとなりました。
物語は決戦に向け準備を整えていく事になるしょう。
果たしてどのような戦いになるのか?
ご期待ください。
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