200:元引きこもり転生者
>>1
フレッド! 作戦成功したぞ!
201:名無しの原住民
こっちでも分かったよ!兵士たちも攻撃をやめた!
202:名無しの転生者
お前ら生きとったんか
203:名無しの原住民
あと、ついさっき通知みたいなのが来たんだけど、あれ何?それでここに来たんだけど
204:元引きこもり転生者
スレ見てない時に安価(>>1)がつくと、通知が飛ぶ。それでフレッドに連絡できた!
205:名無しの原住民
そんな機能まであるんだ。じゃあ、これなら離れててもいつでも連絡取れるね
206:元引きこもり転生者
たしかに、めっちゃ便利!
207:名無しの転生者
SNSみたいな使い方始めてて草
208:名無しの転生者
世界を超越した謎掲示板の用途がローカルな友達との連絡かよ
209:元引きこもり転生者
あ、ちょっと待って
210:名無しの原住民
どうしたの?
211:名無しの転生者
ん?
212:元引きこもり転生者
なんか来た
213:名無しの転生者
何が
214:元引きこもり転生者
天井ぶち抜いて、ハゲたおっさんが降ってきた
215:名無しの転生者
は?
216:名無しの転生者
マジで意味わからん
217:名無しの原住民
誰なの?
218:元引きこもり転生者
あ、こいつ本物の国王じゃん! カツラ被ってないから気づかなかったわ!
219:名無しの原住民
国王!?
220:名無しの転生者
ラスボス登場!
221:元引きこもり転生者
しかもスーパーヒーロー着地で落ちてきた。かっけー
222:名無しの転生者
どっちかつうと国王はヴィラン側じゃないの?
223:名無しの転生者
それで言ったらエインもヴィラン側だからなぁ
224:元引きこもり転生者
つーか、なんかめちゃくちゃ怒ってる
225:元引きこもり転生者
いや、これ普通にヤバそう
226:元引きこもり転生者
フレッド、今すぐ地下来て! 俺の開けた穴辿ればすぐだから! あと母さんは先に逃がしといて!
227:名無しの原住民
わかった! ヴォルフさんとすぐ行く!
228:名無しの転生者
グループチャットみたいな雰囲気してるな
229:名無しの転生者
こんなリアル丸出しの掲示板そうそうないぞ
◆
「恐れ入った」
国王の視線がエインから、駆けつけたフレッドとヴォルフへ移った。
「本当に恐れ入ったよ、お前たちには。さすがだと褒めてやりたいところだ」
答える者はいない。国王もまた、それ以上を求めてはいないようだった。
「……結局、最後に頼れるのは己の身ということか」
その言葉と同時に、国王を中心として異様な密度の魔力が集まり始めた。石床に亀裂が走り、風もないのに辺りの空気そのものが震えて肌を押してくる。
「魔力が高まる……溢れるぅ……!!」
姿形は変わらない。衣服も顔立ちも、さっきまでの国王のままだ。ただ、まとっている気配だけが明らかに一線を越えている。
エインが半歩だけ下がった。
「……いや、もういいだろ。なんでまだ戦う気なんだよ」
国王がエインへ顔を向ける。
「お前は負けたんだぞ。【啓導の光輪】の支配権だって俺が取ったんだから……もう諦めろよ」
「諦めろ、だと……?」
国王の頬が引きつる。
「どこまでも……どこまでも我が邪魔をしおって……!」
「いや、だから――」
「まだ終わってなどいない!」
怒声が地下に響いた。
「お前さえ殺せばいい! 奪われた【啓導の光輪】の支配権を取り戻せば、まだすべてやり直せる!」
「えぇ……」
エインの顔が露骨に嫌そうに歪む。
「エイン……まずはお前から血祭りにあげてやる……!」
足元の床を砕き、国王が一気に間合いを詰めた。
「させるか!」
真正面からヴォルフが割り込み、大剣を体ごと叩きつける。
その脇をすり抜けるようにイレーネが懐へ入り、ほとんど無駄のない動きで刃を突き入れた。
二つの攻撃は確かに国王を捉えたが、どちらも浅い。
ヴォルフの大剣は肉へ食い込んだところで止まり、イレーネの刃も致命傷には程遠かった。
しかも、傷口から流れた血はすぐに止まり、裂けた皮膚まで目に見える速さで塞がっていく。
それでも二人は止まらない。正面からヴォルフが押し込み、その死角をイレーネが埋める。数合を交わしても攻撃自体は届いているが、決定打にはならなかった。
「エイン、強化を剥がせ!」
大剣を押し込みながら、ヴォルフが叫ぶ。
「フレッドはそのまま洗脳しろ! いくら強かろうが、それで終いだ!」
「分かった!」
エインが国王へ手を向ける。
「
間髪入れず、フレッドも手をかざす。
「
国王の身体がぴたりと止まった。振り上げていた腕まで、そのまま空中で静止する。
ヴォルフは大剣を構えたまま距離を取り、イレーネも刃を下ろさなかった。
「……効いた?」
フレッドが、確かめるように呟く。
誰も動かないまま、地下に一瞬の静寂が落ちた。
次の瞬間、止まっていたはずの国王が消えた。
「え――」
遅れて、床が爆ぜる音がした。
フレッドがその姿を捉えた時には、国王はもうエインの目前にいた。
ヴォルフとイレーネもほぼ同時に反応していた。
ヴォルフは大剣を構えるより先に、体ごとエインとの間へねじ込む。
「ぐっ……!」
イレーネも国王の側面へ滑り込んだ。
声を掛け合うまでもなく、ヴォルフが拳を受け止めた隙へ、その刃が走る。
だが、国王の腕がそれより速かった。
鈍い衝撃音とともに、イレーネが横へ弾き飛ばされる。
「イレーネ!」
セレナが叫んだ。
続けざまに、大剣を押さえていた国王が一歩踏み込む。
「っ――!」
今度はヴォルフが吹き飛ばされた。
二人は別々の方向へ飛び、壁と床へ激しく叩きつけられる。
「ヴォルフさん!」
フレッドが叫ぶ。
「私が治療します!」
セレナはすぐに二人のもとへ駆け出した。
だが、国王は倒れた二人を見もしなかった。進路を塞ぐ障害物を退けた程度とでもいうように、すでにエインへ向き直っている。
フレッドが両手を突き出した。
「
半透明の防壁が立ち上がり、直後に国王の拳が直撃する。
轟音とともに亀裂が一気に広がり、そのまま光の破片となって砕け散った。
「っ……!」
フレッドは間髪入れず、次の一枚を重ねる。
さらに一枚。展開するたびに国王の拳が食い込み、防壁が次々と光の破片へ変わっていく。
「エイン君、これ……!」
「分かってる!」
また一枚が砕け、光の破片の向こうから次の拳が迫る。
「作戦ターイム!」
◆
280:元引きこもり転生者
おーい、フレッド!いるかー?
281:名無しの原住民
いやいるけども!
なんでまた時間を止めちゃうのさ!
282:名無しの転生者
えぇ……
283:名無しの転生者
懲りないなこいつも
284:元引きこもり転生者
しょうがないじゃん、あのままだと俺達死ぬところだったんだからさぁ
285:名無しの原住民
それはそうだけども!これじゃまたここから出られないじゃないか!
286:元引きこもり転生者
大丈夫だって。前回も親切な誰かが観測してくれたんだから、今回もその親切な誰かが観測してくれるって
287:名無しの原住民
今回も絶対に観測してくれるってわけじゃないでしょ!
288:名無しの転生者
この期に及んで他人だよりなの草
289:名無しの転生者
ブラウザバックされたらお前らの人生終わりだよ
290:元引きこもり転生者
わかったわかった、これからはこの方法では時は止めないから。
それより国王ぶっ飛ばすための作戦会議するぞ!
291:名無しの転生者
現実逃避すんな
292:名無しの転生者
つーかなんで国王相手に死にかけてんの?
相手はただのハゲたおっさんやろ?
293:元引きこもり転生者
いやそれがバフ系の魔法使ってるらしくてフィジカルクッソ強いし自動回復もしてくる。
しかもなぜか【双剋解呪】でバフ解除しても強いままで、【精神支配】も効かなかった。
294:名無しの転生者
魔法無効系か?
295:元引きこもり転生者
でも、魔法無効にしては変なんだよな、魔法そのものは通った感触はしたからバフは解除されたはずや
296:名無しの原住民
僕も、失敗した感じはしなかった。
297:名無しの転生者
じゃあ単にバフかけ直しただけやろ。バフは維持するもんやからな
298:元引きこもり転生者
あ、なるほど。打ち消し対策に常時詠唱でずっとかけっぱなしにしてるんやな。
299:名無しの原住民
じゃあ僕の命令が通らなかったのも、常に自分に精神魔法をかけ続けていたから?
でもそんなことしてたらすぐに魔力切れになっちゃわない?
300:元引きこもり転生者
いや、多分あいつは【啓導の光輪】の魔力奪取の呪いと、魔力転送の機能を使って自分に魔力を転送してる。
ワイは時間なくて支配の呪いの制御しか奪えなかったからな。
301:名無しの転生者
なんかようわからんがMPが実質無限ってことけ?
302:元引きこもり転生者
せやなぁ
303:名無しの転生者
つまり国王は
・デバフ無効
・物理ステカンスト
・高速リジェネ持ち
・MP無限で魔法使い放題
ってコト!?
304:名無しの転生者
うーんこのクソボス
305:名無しの転生者
完全に負けイベントで草
306:名無しの転生者
あるいはギミックボス
307:名無しの原住民
そうだ!【啓導の光輪】の魔力転送の機能もエイン君が奪えばいいんじゃないかな!
308:名無しの転生者
かしこい
309:元引きこもり転生者
でもあれコードが汚いから解析にクッソ時間かかるぞ
やってる間に撲殺されるわ
310:名無しの転生者
ほなら物理的に壊せばええんちゃう?
311:元引きこもり転生者
いや、あれかなり頑丈にできてるから並大抵の破壊力の魔法じゃ壊せへんで
312:名無しの転生者
詰んだなぁ
313:名無しの原住民
いや壊せるじゃん
314:元引きこもり転生者
え?
315:名無しの原住民
だから僕たち使えるでしょ?並大抵じゃない破壊力の魔法が
316:元引きこもり転生者
そんな魔法使えたっけ?
317:名無しの原住民
318:名無しの転生者
ファッ!?
319:名無しの転生者
まーた爆破で解決かいな
320:名無しの転生者
爆発落ちなんてサイテー!
321:元引きこもり転生者
でもそれじゃ国家反逆罪に加えて建造物損壊罪も犯すことになるだろ!
今までクリーンなイメージでやってきたのに犯罪者のイメージが付いちゃう!
322:名無しの転生者
そんなイメージ元からないから安心しろ
323:名無しの転生者
国家反逆罪犯してる時点でどんな犯罪重ねてたところで誤差の範囲やろ
324:元引きこもり転生者
あっ、よく考えたら俺このあと新しい王様になる予定だったわ。そしたらなんの犯罪犯しても問題ないじゃん!
新しい住居が壊れるのはもったいないけど我慢してやるか
325:名無しの転生者
統治者にあるまじき思想
326:名無しの転生者
自分で城を壊すくせに図々しすぎる。
327:名無しの転生者
そもそも王城を爆破したら城内にいる人間が全滅するんですがそれは大丈夫なんですかね
328:名無しの原住民
それはエイン君が城内の人間に避難するように命令してもらえば大丈夫。
大丈夫だよね?
329:元引きこもり転生者
モチのロンや!
330:名無しの転生者
でも避難してる間国王はどうやって足止めするんや?
フレッド君たちも避難せなあかんやろ
331:元引きこもり転生者
それを解決する魔法はもう思いついとるで。
ただ、魔力量的にワイじゃ使えんから、フレッドが代わりに使ってくれ。
332:名無しの原住民
それはいいんだけど、僕が使える魔法なの?
新しく教えてもらう時間はないよ?
333:元引きこもり転生者
いや、こないだ開発したばかりの魔法やからフレッドはまだ使えない。
だけどワイが【精神接続】で直接知識をぶち込むから、すぐに使えるようになるはず!
334:名無しの転生者
は?
335:名無しの原住民
直接知識をぶち込むって何?
ちょっと怖いんだけど……
336:元引きこもり転生者
もし失敗したら廃人になるけど大丈夫!
俺を信じろ!
337:名無しの転生者
どこが大丈夫なんですかね
338:名無しの転生者
信じられるわけねーだろ
339:名無しの原住民
わかった、信じるよ
340:名無しの転生者
ファッ!?
341:名無しの転生者
嘘やろフレッドくん!?
342:名無しの原住民
エイン君の魔法の腕前だけは信用しているからね
343:名無しの転生者
覚悟決まりすぎやろ
344:名無しの転生者
こりゃ将来大物になるわ……
345:元引きこもり転生者
よーしじゃあ意識が現実に戻ったら作戦開始や!
それじゃ早速、親切な誰かさん!また観測オナシャス!
346:名無しの転生者
最初から最後まで他力本願で草
◆
国王の拳が、エインの眼前まで迫っていた。
「
フレッドが反射的に両手を突き出す。
空間そのものが歪んだ。拳がそこへ叩きつけられた瞬間、肌を震わせるほどの衝撃が伝わってきたが、国王の拳はエインのわずか手前で完全に押しとどめられている。
視界の端では、セレナに手当てを受けていたヴォルフとイレーネが、ほぼ同時に身を起こしていた。服のあちこちが裂け、腕や脚には血の跡が残っている。それでも二人は迷いなく武器を構え直し、こちらへ戻ってくる。
国王が再びエインへ拳を振るった。
「エイン君!」
「分かってる!」
【次元防壁】が大きく軋む。
その間に、エインが声を張り上げた。
「城の中にいる奴は全員、今すぐ外へ避難しろ! 動けない奴がいたら、近くにいる奴が連れてけ!」
近くにいた暗部たちは命令を受けるなり、一斉にエインたちへ背を向けた。
負傷者に肩を貸す者、動けない者を担ぎ上げる者もいる。そのまま次々と通路の奥へ消えていった。
人影が途切れたのを見届けてから、エインはしゃがみ込み、床へ手をついた。指先から伸びた魔力が、離れた場所へいくつも走っていく。
国王はその魔力を目で追い、エインへ顔を戻した。
「……貴様。まさか、王城ごと――」
「ヴォルフさん! イレーネさん!」
フレッドが【次元防壁】を維持したまま叫んだ。
「一瞬だけでいいです! 隙を作ってください!」
ヴォルフとイレーネはちらりと視線を交わし、それだけで同時に踏み込んだ。ヴォルフが正面から大剣を押し込み、その死角へイレーネが滑り込む。
国王が二人を押し返そうと力を込めた瞬間、示し合わせたように二人が力を抜いた。
「なっ」
支えを失った国王の体が前のめりに大きく崩れる。二人はすかさず追撃を重ね、そのまま床へ叩きつけた。
「離れて!」
フレッドの声に、二人が跳ぶように距離を取る。
「
国王が倒れ込んだ、その真下。
床の一角が四角く歪み、周囲とは異なる色を帯びた空間が、一枚の窓のように口を開いた。床へつくはずだった国王の身体が、そのまま中へ落ちて消える。
直後、頭上にも同じ窓が開いた。
「ぐおっ!?」
真上の窓から落ちてきた国王は、再び真下の窓へ。
二度。
三度。
「おのれ……!
国王の周囲で風が爆ぜた。
落下していた身体が宙で止まり、そのまま風をまとって前方へ飛び出す。
だが、進行方向にも同じ窓が開いていた。
飛び込んだ次の瞬間、背後から姿を現す。
「何……!?」
左へ跳べば右から戻る。右へ逃げれば左から戻る。上へ抜ければ下から戻る。
前後も左右も上下もない。どこへ進んでも、国王は同じ場所へ引き戻される。
「おのれ……! おのれぇぇぇ……!」
転移するたび、国王の絶叫があちこちから響いた。
フレッドの額を汗が伝う。
「エイン君! これめちゃくちゃ魔力使う! 長くは持たないよ!」
「大丈夫! 準備はちょうど終わった! 今から逃げるぞ!」
「わかった! みんなも来て!」
二人は即座に踵を返す。セレナたちも続いた。
「待て!」
背後から国王の怒鳴り声が追ってくる。
「逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!!!」
エインが肩越しに振り返る。
「バーカ!」
「なっ……!」
「誰がお前なんかと真面目に戦うか! もう勝負はついてるだろうが!!」
「貴様ァァァァァッ!!」
その絶叫を背に、一行は地下通路の奥へ走った。
◆
「お母様!」
途中、セレナが母のいる牢へ駆け込んだ。
セレスは、先ほどと変わらぬ姿で眠っている。
「イレーネ、お母様をお願いします!」
「承知しました」
イレーネはすぐにセレスを背負った。
長く血を抜かれ続けていた身体は、驚くほど軽い。
セレナはその隣につく。
「急げ!」
通常の通路を辿っている時間はなかった。ヴォルフが先頭に立ち、大剣を薙いで壁ごと打ち抜きながら、最短の脱出路を無理やり切り開いていく。崩れる石材と土煙の中を、一行はひたすら進んだ。
最後の壁が吹き飛び、外の光が差し込む。
◆
外へ出ると、避難してきた人々の群れが、遠巻きに王城を見つめていた。
その中から、一人の女性がまっすぐこちらへ駆けてくる。
「エイン!」
「母さん!」
アリアはエインの前まで来ると、その顔を両手で挟んだ。頬から肩、腕へと手を移し、怪我がないか何度も確かめる。指先だけが、かすかに震えていた。
「怪我はない? どこか痛いところは?」
「ないって。母さんこそ、無事だった?」
「私は平気よ。あなたのほうが心配だったの」
服についた埃を払う手つきも、汚れを落とすというより、そこにいることを確かめているようだった。
「大袈裟だって。ほら、この通り、ちゃんと元気」
おどけて胸を張るエインを、アリアはしばらく黙って見つめていた。
やがて何も言わずに腕を伸ばし、その身体をぎゅっと抱きしめる。
「良かった……本当に、良かった」
その光景を、セレナは少し離れた場所から見ていた。
すぐそばには、イレーネに抱えられたままの母――セレスがいる。今も目を覚ます気配はなく、静かに眠り続けている。
誰かに抱きしめられ、無事を確かめてもらう。そんな当たり前のことが、自分にとってはどれほど遠かっただろう。羨ましいとまでは、言いたくない。それでも、胸の奥がひどく疼いた。
セレナは、しばらくその光景から目を離せなかった。
「いやはや、お見事でございましたな、エイン殿!」
妙に朗々とした声が、横から飛んできた。
一同が振り向く。
宰相だった。
生きている――のは間違いない。だが、その頭には髪の毛が一本も残っていなかった。つるりとした頭皮が、真昼の陽光を眩しく弾いている。
一瞬、全員の目がそこへ集まった。
本人はまるで気にする様子もない。それどころか、態度まで以前とは別人だった。あれほど尊大に振る舞っていた男が、今はエインへ深々と腰を折っている。
「以前より並々ならぬお方だとは確信しておりましたが、まさか国王陛下をここまで追い詰められるとは!」
「…………」
「それより、朗報がございます。城内の避難は、すべて完了いたしました」
「全員?」
「はい。先ほど、最後の者が王城より退避したことを確認しております。一人も残っておりません」
エインがフレッドを見ると、フレッドも小さく頷いた。
「じゃあ、これで――」
「もう一つございます」
宰相が懐から小型の通信魔道具を取り出す。
「国王陛下からエイン殿へお繋ぎするよう仰せでした」
上機嫌に魔道具を差し出してくる。
エインはそれを受け取った。
「もしもし?」
『王城を爆破するな!!』
いきなり怒鳴られ、エインは反射的に魔道具を耳から離した。
「うるさっ」
『聞いているのか! 王城を爆破するな!』
「いやなんで敵の言うことを聞かなきゃいけないんだよ」
わずかな間を置いて、国王が答える。
『……王城地下には、【啓導の光輪】の本体がある。城を潰せば、それも共に失われる』
「知ってる」
『王家が進めてきた計画そのものが、そこで終わるのだぞ』
「だから、それが目的だって。計画を止めて、俺とフレッドの手配も消すなら、爆破だけはやめてやるぞ」
通信の向こうが静かになる。
一秒、二秒。
『……断る』
「は? 何で?」
『この計画は、私が始めたものではない。先王より受け継いだ。その先も、そのまた先も――我が王家が代々受け継いできたものだ』
「…………」
『王とは、血を受け継ぎ、国を受け継ぎ、責務を受け継ぎ、そして次代へ渡す者だ』
『世界を正しく導くことは、我が王家の使命だ。私が望むかどうかではない。受け継いだ者には、それを果たす義務がある。私一人の判断で、放棄することなどできん』
エインは最後まで黙って聞いていた。
「くっだらねえ!」
『な――』
「何だよそれ! バカバカしい!」
『貴様……!』
「お前が始めた物語じゃないんだろ? 義務感でやってるだけならやめればいいだけじゃん!」
『これは王家の使命なのだ!』
「だから何だよ! 嫌なら捨てればいいだろ。自分がやりたいなら勝手にやればいいけどさ、そんなもんのために他人まで巻き込むなよ。セレナだってあんな目に遭ってんじゃん」
『王には責務というものが――』
「王様だってベイルがなりたがってたんだから、あいつにやらせればいいじゃん」
『それは――』
「大事にしたいなら、自分だけで大事にしてればいいじゃん。他人まで巻き込んで、それで使命だからしょうがないって、ただの自己満足じゃん」
『黙れ……』
「いい歳して、自分のワガママくらい自分で片付けろよ」
『黙れ!』
「嫌だね」
『黙れと言っている!!』
「エイン君!」
フレッドの切羽詰まった声に振り返る。
フレッドは両手で【次元窓】の術式を維持したまま、肩を大きく上下させていた。額から落ちる汗を拭う余裕もない。
「もう、本当に持たないよ!」
「おっけー! じゃあ、もう切るからね!」
『待て、エイン! やめろ! 王城を爆破するな!』
「じゃあ世界征服やめる?」
『それは――』
「じゃあ駄目」
『待て!』
エインは笑った。
「いいや!「限界」だッ! 爆破するねッ! 『今だッ』!」
『やめ――』
合図と同時に、仕込んでおいた術式が起動する。
王城の中心が白く染まり、音より先に光が膨れ上がった。次の瞬間、城壁が内側から持ち上がり、塔が砕け、無数の石材が空高く吹き飛ぶ。
一拍遅れて、腹の底まで揺さぶる爆音が轟いた。
地面が大きく震え、避難していた人々から悲鳴が上がる。さっきまで王城だった巨大な建物が、土煙を巻き上げながら崩れていった。
爆発は地下深くの【啓導の光輪】まで呑み込み、国王へ流れ続けていた膨大な魔力も唐突に途絶える。
やがて轟音が遠ざかるにつれ、今度は空から何かが降ってきた。
金貨。
宝石。
細かな金属片。
爆発に巻き込まれた宝物庫の中身が、光を反射しながら空いっぱいに舞っている。
崩れた王城の向こうから、色とりどりの輝きがゆっくりと降り注いでいた。
アリアがそれを見上げる。
「まあ……」
ぽつりと呟いた。
「きれいな花火ね」
◆
ひらひらと舞い落ちる金貨の向こうで、何かが陽光を遮った。
宝石でも、砕けた石材でもない。黒いものがひとつ、回転しながら真っ直ぐ地上へ落ちてくる。
そのまま地面へ叩きつけられ、土煙が上がった。遠巻きに見ていた人々から悲鳴が漏れる。
誰もが後ずさる中、土煙の奥で人影がゆっくりと身を起こした。
「お……のれ……」
国王だった。
衣服は焼け焦げ、全身が血と煤にまみれている。先ほどまでなら瞬く間に塞がっていたはずの傷から、今も赤い血が流れ続けていた。
震える腕で上体を起こした国王の目に映ったのは、瓦礫だけだった。
そこにあったはずの王城は、もうない。
何代にもわたって王家が受け継いできた城は、崩れた壁と無数の瓦礫を残すばかりになっている。
「……ふざけるな」
地の底から這い上がるような、低い声だった。
「ふざけるなァァァァ!!」
避難していた人々が一斉に身を竦ませる。
国王は彼らへ振り返った。
「何をしている! エインを捕らえろ!」
誰も動かなかった。
「殺せ! 今すぐだ!」
兵士たちは互いの顔を見合わせるばかりで、剣へ手を伸ばそうともしない。貴族たちも、その場に立ち尽くしている。
「聞こえないのか……?」
国王の顔が引きつる。
「王の命令だぞ!!」
それでも、誰も動かなかった。
その沈黙を破ったのは、低く抑えた声だった。
「いい加減にしろ」
人垣の向こうから、一人の青年が歩いてくる。
「ベイル……!」
「学校にいた者への支配は、先ほどすべて解けた」
ベイルは足を止め、瓦礫となった王城へ目を向けた。
「同時に、学校にあった【啓導の光輪】も消えた。レオナルド校長が確認している。それでこちらへ来た」
「ならばちょうどいい!」
国王がベイルを指さした。
「ベイル! こいつらを殺せ! まずエインだ! 王の命令だぞ!」
ベイルは動かなかった。
「何をしている!」
「……俺は、あなたのような王になりたかった」
国王が一瞬、言葉を失う。
「だが、今のあなたを、俺は王とは認めない」
「……何?」
「あなたの背負っている使命とやらもだ。何代前から受け継いできたものかは知らん。だが、俺がそれまで受け継ぐ理由はない」
「貴様……!」
「あなたには、もう王を任せられない。この国のことは、俺が引き受ける」
「ふざけるな! 誰が貴様などに――!」
その前へ兵士たちが立った。
「どけ! 私はまだ王だぞ!」
誰も従わない。
なおも喚く国王は、そのまま兵士たちに促され、人垣の向こうへ退かされていった。
その姿が遠ざかるにつれ、今度は周囲の目がベイルへ集まっていく。
ベイルは集まった者たちを見渡した。
「父上に代わり、これからは俺がこの国を治める。次の王には、俺がなる」
「あ、ちょっと待って」
ベイルが振り返った。
エインが片手を挙げている。
「もともとは俺が王になる予定だったんだけど」
ベイルが、素で固まる。
「……は?」
「いや、だから。俺が新しい王様になる予定」
「何を言っているんだ、お前は」
「だって俺とフレッド、指名手配されてるじゃん。このままだとずっと逃げ回らないといけないし。だったら俺が王様になって、自分で手配を消すつもりだったんだよ」
ベイルの眉間に深い皺が寄った。
「……お前、そんな理由でここまで国をひっくり返したのか?」
「いや、それだけじゃないけど。セレナも助けたかったし」
ベイルは深く息を吐いた。
「心配しなくていい。俺が王になれば、お前たちの罪くらい――」
「いえ。それでは困りますな」
割って入ったのは、宰相だった。
ベイルがそちらを向く。
「何?」
「ベイル殿下が次の王となられるだけでは、今回の一件は片付きません」
「どういう意味だ」
「【啓導の光輪】は、陛下一代で始まったものではございません。王家が代々受け継ぎ、その血とともに維持してきたものです。それが今回、国外の人間を支配するためにまで使われた」
「だが、もう【啓導の光輪】はない」
「問題は、なくなったかどうかではありません」
宰相が首を振る。
「昨日まで他国の要人を支配していた王家が、今日になって王を一人替えた。それで『もう問題はございません』と申しまして、諸外国が納得してくださいますかな」
「俺はあの計画に加担していない」
「承知しております」
「王位継承順位も、今は俺が最上位だ」
宰相の表情は変わらない。
ベイルはその顔を睨んだ。
「それでも俺では駄目だと言うのか」
「ええ」
「では、誰ならいい」
「決まっております」
宰相の目が横へ向く。
その先にいたエインが、自分を指さした。
「俺?」
「今回の一件を収めた英雄はエイン殿です。旧王家の血を引いておられず、旧体制と直接結びついてもおりません。むしろ――旧王家の支配を打ち破った側の御方です」
宰相の口元に、うっすらと笑みが浮かぶ。
「その御方が新たな王となれば、国内外へこれ以上ないほど分かりやすく、断絶をお示しできましょう」
当のエインは大仰な物言いに興味もなさそうに、生返事をするだけだった。
「英雄だと?」
ベイルがエインを指す。
「こいつはついこの前、鉱山を丸ごと消し飛ばしたばかりだぞ。動機はともあれ、王都では、次は自分たちが消されるのではないかと恐れられていたはずだ」
「あー……」
フレッドが気まずそうに口を開いた。
「……それなんですけど」
「何だ」
「このままだと、エイン君も僕もまともに生活できそうになかったので……僕たちのことを直接知らない人たちからは、鉱山を爆破したっていう記憶だけ、消させてもらいました」
「……何?」
ベイルが目を見開く。
宰相も一瞬だけ面食らったが、すぐに平然とした顔へ戻った。
「なるほど。それなら、なおさら問題ありませんな」
「何が問題ないんだ!」
「少なくとも、民衆から鉱山を吹き飛ばした危険人物として恐れられてはいないのでしょう?」
「だからといって――」
ベイルは再びエインを指した。
「そもそも、こいつに王が務まると思っているのか?」
「なんで?」
「お前、王が何をする仕事か分かっているのか」
「王様の仕事?」
エインが首を傾げる。
「毎日、各所から大量の報告と決裁が上がってくる。税、法律、軍、外交。重要な案件は最終的に王が判断する。貴族や役人との会議もある」
エインは黙って聞いていたが、話が進むにつれて露骨に顔をしかめていった。
「……毎日?」
「当然だ」
「休みは?」
「そんなものを気にする立場だと、本気で思っているのか」
「……やっぱ王様やめようかな」
あっさり前言を翻したエインへ、ベイルはさらに畳みかける。
「そもそもそれ以前の問題だ。政治経験もない平民を、いきなり王にすると言われて貴族どもが認めると思うか」
周囲の貴族たちから、すぐに同調する声が漏れ始めた。
「さすがに、それは……」
「王族でも貴族でもない者を王に、というのは……」
反対の声が重なったところで、宰相が口を開く。
「その点でしたら、ご心配には及びません」
宰相は少しも困った様子を見せなかった。
「確かに、エイン殿は政務には不慣れでいらっしゃる。ですが――」
周囲の貴族たちをゆっくりと見渡す。
「新たな王がお一人ですべてをなさる必要など、どこにもございません」
貴族たちのざわめきが止まった。
「経験の足りないところは、経験のある者が補えばよい。新たな陛下には、新たな陛下をお支えする臣下が必要となりましょう」
宰相の笑みがわずかに深くなる。
「さぁ! 私のほかにも、エイン殿をお支えくださる”親切な方”はおられませんかな?」
今度は別の意味で静かになった。
貴族たちは互いの顔を見合わせる。反対していた時とは、明らかに目つきが違っていた。
誰が最初に名乗るかを探る沈黙のあと、一人が口を開く。
「……もちろんですとも」
「私もお力になりましょう」
「我が家もぜひ」
「微力ながら、お支えできれば」
次々と上がる声に、ベイルが呆然と周囲を見回す。
「お前たち……」
つい先ほどまで難色を示していた者たちまで、今では我先にと名乗りを上げている。
「でもさ」
エインが口を挟んだ。
「王様って、さっき言ってた仕事全部やるんだろ?」
「何も陛下ご自身ですべてなさる必要はございません」
「え?」
「先ほども申し上げた通りです。細かな政務には、それぞれ専門の者がおります」
宰相はエインへ向き直った。
「陛下には王として堂々と構えていただき、我々から重要な報告をお聞きになって、必要な書類へご署名いただければよろしい」
「それだけ?」
「ええ」
「俺とフレッドの手配も消せる?」
「無論でございます」
「研究しててもいい?」
「お好きなだけ」
「それ以外も?」
「どうぞ自由にお過ごしください」
答えを聞くたび、エインの顔がみるみる明るくなっていく。
「めっちゃいいじゃん!」
「……話がうますぎると思わないのか」
ベイルの言葉にも、もう耳を貸していなかった。
エインは何度か満足そうに頷き、不意に顔を上げる。
「よし!」
そのまま、集まった人々へ向き直った。
「みんな、新しい王様が欲しいかー!」
「……お、おおー!」
突然の呼びかけに、最初は戸惑いの混じった声しか返らない。
だが、それを気にするエインではなかった。
「みんな、俺が王様になってもいいかー!」
一瞬の間を置いて、
「おおおおー!」
今度は宰相や、いち早く支持に回った貴族たちが率先して声を上げる。周囲の者たちも、それにつられるように応じ始めた。
エインは完全に調子に乗り、拳を高く突き上げる。
「みんな、ニューヨークに行きたいかー!」
「おおおおおおおお――!!」
意味も分からないまま、先ほど以上の大歓声が返ってきた。
跡形もなく吹き飛んだ王城跡で、最初は戸惑っていた者たちまで声を上げている。いつの間にか、この場にはエインを新たな王として迎える空気が出来上がっていた。
その光景を前に、誰かが呆然と呟いた。
「……嘘だろ?」
次回、最終回です。
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