プププランドの大臣、パームの家の玄関ドアが勢いよく開いた。威勢のいい声とともに、パーム家の長男、ブンが入ってくる。カービィも一緒だ。
「ただいまーっ! あれ? 姉ちゃんなにやってんの?」
ブンの視線の先には、彼の姉、フームがいた。椅子に座り、机の上のコンピュータを操作している。画面には、いくつかのアイコンと、それぞれの投稿が表示されている。
「あら、これ? SNSよ」
「えすえぬえす?」
「ぽよ?」
フームは椅子をずらし、弟たちに画面を見せた。不思議そうに覗き込む彼らを前に、フームは得意げだ。
「SNSは、ソーシャルネットワークサービスと言って、世界中の人、違う星の人とネット上で交流できるのよ。これ、私のアカウントね」
「へえー。プププランドのみんなもやってんの?」
「デデデがホーリー・ナイトメア社との連絡のためにお城のネット回線を開いてくれてるからここでも通信できるけど、お城の外は電波が通じてないのよ」
「なーんだ、つまんねーの」
頭の後ろで手を組んで、ブンはそっぽを向いた。カービィは首を傾げたまま、フームの話を聞いている。
「いろんな人からいろんな情報を手に入れたり、おしゃべりしたりできるの。もちろん、その情報の正確さにはちゃんと注意しないといけないけどね」
その時、ひとりでにリビングのテレビがついた。お決まりの、「チャンネルDDD」のアイキャッチの後、画面いっぱいに青い顔と黄色い嘴が映る。プププランドの大王、デデデだ。
「我が忠実なる愚民どもよ! 今日は諸君らにすばらしい贈り物があるゾイ。今朝諸君の家に届いた包みを開けてみるがいいゾイ」
「何よ、どうせロクな物じゃないでしょ」
「今朝届いた荷物って、これか?」
ブンは言われるままに荷物を開ける。
「ちょっとブン、デデデの言うことに従うの?」
「いいじゃん、結局テレビだって便利だったんだし」
荷物の中身は、四台の板状の機械だった。サイズは掌より少し大きい程度。
「それこそワシが諸君に与えるデデデフォンゾイ!」
テレビには今度はデデデの秘書、エスカルゴンが出てきた。
「さーあ皆さん! デデデフォンを手に取って横のボタンを押してくださいでゲス!」
「こうか?」
「ブン!」
「お、なんか光ったぞ」
表示された画面には、デデッターの文字があった。エスカルゴンはテレビに映るよう、自分のデデデフォンを操作する。
「こいつをちょいちょいちょいと」
「愚民どもよく見るゾイ! ワシのデデデフォンでエスカルゴンの投稿が見られるゾイ!」
今度はデデデがデデデフォンを見せつける。エスカルゴンのアカウントの投稿が見える。
「デデッターを使えば、フォローしている相手の投稿を見ることができるゾイ!」
「こうしていつ、どこにいても、友達や不特定多数の人と連絡が取れるすんばらしいサービスでゲスなあ!」
「ええ〜〜っ!?」
フームが驚いてデデデフォンをまじまじと見つめる。
「どうしたの姉ちゃん」
「ネット環境を作るのって大変なのよ。電波塔とか、プロバイダとか……」
「じゃあこれ、姉ちゃんが言ってたSNSってやつ!?」
ブンは目を輝かせているが、フームは渋い顔だ。
「どうかしら……あのデデデのことだから、何かの悪巧みに違いないわ」
「……ぽよ?」
カービィは一人、首を傾げていた。
──────────────────
「大炎上! デデデサイバーサービス!」
──────────────────
「ぽーよ! ぽーよー!」
フームとブンがカービィの家に遊びに行くと、カービィはデデデフォンを手に大喜びで飛び跳ねていた。彼の家にもデデデフォンが届いたのだ。
「トッコリ! カービィにあのデデデフォンを与えたの!?」
「オイラの知ったことじゃねえだろ? だいたい、あんなちっちゃな機械で何がしたいっていうんだ」
「でもカービィは……」
「じゃ、デデッターを見てみろよ。あのバカの書いた文章に意味なんてあるか?」
ブンは言われるままに、自分のデデデフォンを操作する。カービィのアカウントを見つけ出すと、ブンは大笑いした。
「ははは! こりゃ、カービィには自由帳の方が嬉しかったかもな!」
文章どころか、キーボードをでたらめに叩いただけの文字の羅列だ。ブンにその画面を見せられて、思わずフームも微笑んだ。
「ま、ちょっとくらいはいいかもね」
数日後、ププビレッジの道端には、カワサキ、ガング、タゴが集まっていた。
「すごい便利だねえ、このデデッター!」
仕入れた商品を抱えながら、カワサキはご満悦だ。ガングも笑顔で頷く。
「俺も店の宣伝に使ってるよ。新商品が入荷したとかさ」
「うちの店は大繁盛だよ、フォロワー限定で合言葉を教えて、合言葉を言った人は料金割引! このやり方が大当たりでね!」
「あっはっはっは!」
「でもさ、最近変な投稿も見るよな」
タゴが少し声を潜めた。カワサキはとぼけた顔で聞き返す。
「変なの?」
「うん。それがさ……」
「これはこれは陛下、ご機嫌いかがで」
モニターに映るサングラスの男は慇懃無礼に笑った。デデデは彼の言葉にはまるで頓着せず、彼に手に持ったデデデフォンの画面を見せつける。
「期限も締め切りもないゾイ!これを見てみるゾイ!」
「『デデデはデブのバカ』『陛下の横暴は時折目に余る』……なるほど、誹謗中傷ですか」
「ワシの心の平穏を侵害する奴は片っ端から個人情報を開示して名誉毀損で訴えてやるゾイ!」
「ええ!? 陛下そんなことのためにホーリー・ナイトメア社に頼るんでゲスか?」
「特にこの……『あのデブオヤジはさっさと引退して優秀な参謀に実権を譲り渡すべきでゲス』という書き込みはひどいものですね」
「ゲゲっ!」
「どうしたエスカルゴン。まさかお前が書き込んだのかゾイ?」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!そんなわけないでゲス! それより陛下、いったい何を注文するつもりだったんでゲス?」
「おお、そうゾイ。ワシを侮辱する書き込みをした人間を片っ端からとっ捕まえてくれる魔獣を寄越せゾイ!」
デデデの要求に、エスカルゴンが青い顔で横槍を入れた。なにしろ、先ほどカスタマーサービスが読み上げた書き込みの中には、彼のものも交じっている。
「ま、まあまあ陛下? それよりもでゲスね、ネットを絶って自分への批判を見ないようにするというのも……」
「ほほう。つまりお前はワシを侮辱する連中を許すどころかワシに不自由を強いるつもりかゾイ?」
「い、いやそれは……」
「犯罪者を裁くのは為政者の義務ゾイ!」
「じゃ、じゃあ私がデデッターの管理者として侮辱する書き込みをした国民をリストアップして……」
「デブオヤジと罵った貴様を信用できるか!」
そう言ってデデデはエスカルゴンの頭を殴りつけた。
「あいたっ! わ、わかってたんでゲスか……?」
「ワシは国民に誹謗中傷の罪の重さを伝え正しいネットリテラシーをもたらすゾイ!」
「それではネットに強い魔獣をお送りいたします」
カスタマーサービスがそう言うと、デデデの部屋の中央の転送装置が光り始める。光が収まった時、そこには一匹の魔獣が立っていた。白いマスクをつけた、可愛らしい青い鳥の魔獣だ。
「IT魔獣ベツニイーロンでございます」
「なんだか頼りない名前ゾイ」
「命令なさい陛下。ベツニイーロンはSNS運営のプロです」
「ほほう。それならまずはワシを批判した連中を片っ端から懲らしめてやるゾイ!」
ベツニイーロンはすぐさまデデデフォンをいじり始めると、今度は部屋を飛び出した。
「な、何するんでゲスかね」
「まあ見ているゾイ」
ププビレッジの道路をベツニイーロンは駆け回る。彼の標的は、イロー、ハニー、ホッヘの三人だ。
「わ、なんだあれ!」
「魔獣じゃないの? また陛下がふざけて買って……」
「あっ、こっちにくる!」
ベツニイーロンは目にも止まらぬスピードで、ホッヘの顔に一枚の紙を叩きつけた。
「うわ!」
走り去っていくベツニイーロン。顔に叩きつけられた紙を、ホッヘは手に取った。
「えーとなになに……。デデデ陛下への名誉毀損の慰謝料および賠償金として、金三十万デデンを要求する……。ええっ! そんなのありかよ!」
ベツニイーロンはあっという間に国中を回り、次々に請求書を叩きつけて行った。
デデデとエスカルゴンは笑い転げていた。デデッターのデデデへの批判ツイートはほとんどが止み、それどころか、賠償金で懐も潤うのだ。
「調子に乗ったバカどもも、ネットが夢の国でないと思い知れば大人しくなるゾイ」
「しょせんはネット弁慶でゲスな」
ふとデデデは、自分たちを見つめる視線に気づいた。
「む? どうしたベツニイーロン。なにか言いたいことでもあるのかゾイ?」
ベツニイーロンは、デデデフォンを見せてにやりと微笑んだ。
「『デデデ陛下は最高だ、彼の治世で生活できることを誇りに思う』、『カービィは実はピンクの悪魔』……なによこれ!」
フームはデデデフォンを自室の床に叩きつけた。
「あら、どうしたのフーム。そんなに怒って」
彼の母、メームが心配そうに彼女の部屋を覗き込む。
「見てよママ! これ!」
「なにかしら」
「ほら、フォローもしてないアカウントのツイートが流れてきてるの。しかも、デデデに都合のいい内容ばかり!」
「あら……」
「それに見て、デデデのアカウント!」
「えーっと……『さっきカービィが畑のスイカをつまみ食いしていたゾイ、悪いやつだゾイ』……おかしいわね、今日はカービィ、ずっとうちにいたはずよ」
「そう、捏造よ! あいつ、自分への批判はお金を要求して辞めさせるくせに、嘘をついてカービィのことをいじめてるのよ!」
フームは歯軋りすると、今度はデデデフォンを拾い上げた。一心不乱に、彼女は文字を打ち込んでいく。
みなさん、デデッターは危険です!管理しているデデデはみなさんの書き込みを好きなように書き換えることができます。デデデは自分が知られたくない情報を隠して、みなさんの目を欺こうとしているんです!
「リツイートもいいねも一件もつかない……。やっぱりデデデが何かしているのね!」
憤慨して、フームは立ち上がった。
「こんな時に頼れるのはパパかメタナイト卿だけよ」
フームはそう呟いて、怒りを堪えきれない指捌きでデデッター内の検索エンジンに文字を打ち込んで、目当てのメタナイトのアカウントを発見した。アイコンは宝剣ギャラクシアだ。
メタナイト【公式】
元銀河戦士団/プププランド 座右の銘:おもしろきこともなき世をおもしろく 応援よろしくお願いします。
みなさんおはようございます。今日は昼ごろから雨が降るのでお出かけする方、洗濯物を干す方はお気をつけください。
今日の昼食は久々にレストランカワサキにやってきた。以前よりも腕が上がっており、特にカツサンドは絶品。ププビレッジの方もそうでない方もぜひ。
郵便配達をしている友人は腰も曲がった老人だが、決して仕事をサボることはない。常に精力的な彼の後ろ姿には私も元気付けられている。
「そんな……メタナイト卿までデデデに踊らされてるっていうの?」
フームは焦りながらも、メタナイトへのDMを打ち込む。頼みの綱はメタナイトしかいない。
突然のダイレクトメッセージを許してください。このデデッターはサービスの提供者であるデデデによって不当に事実を捻じ曲げられています。このままではプププランドの人たちはみんなデデデの操り人形になってしまうかもしれません。
そこで、メタナイト卿のお力を貸してください。あなたのフォロワー数なら、私よりも効率的にデデッターの危険性を伝えることができるはずです。
「送信っと……」
しかし、フームの期待はあっさりと打ち砕かれた。その直後に、メタナイトはフームからのダイレクトメッセージのスクリーンショットと共に、以下の投稿を行った。
フームから謎のダイレクトメッセージ。子供のくせに高慢な態度には心底うんざりする。デデッターは彼女のアカウントを一刻も早く凍結するべきだ。
「そんな……。は、反論しないと!」
さまざまなアカウントからの抗議のリプライやDMが届く。フームも必死になって反論するが、面白半分の嫌がらせ攻撃には、生真面目な彼女の性根は相性が悪かった。
「ううん、こんなことでめげちゃダメよ! デデッターが信用できないってみんなに伝えなきゃ!」
フームは夜遅くまでデデッターに張り付いていた。彼女の熱中は、翌朝まで続いた。
翌日の夜、目の下に濃いクマを浮かべて、フームは無気力な目で夕食のテーブルについていた。反論を続けていた彼女はついに、丸一日の間論戦を広げていたのだ。
「なあフーム。見たよ、お前のアカウント」
やや遠慮がちではあるが、彼女の父、パームがそう口火を切った。フームは彼の顔を見つめた。目のクマと目つきの悪さが相まって、睨んでいるような形相だ。
「パパ。パパまで私が間違ってるっていうの?」
「間違っているとまでは言わないが……陛下がデデッターを悪用しているという証拠でもあったのかね?」
穏やかな父の言葉に、フームは辿々しく答える。尊敬する父だからこそ、その言葉は重い。
「それは……でも私の書き込みに、誰も反応しなかったのよ。書き込みを監視して都合の悪いものは表示されないようにしてるに違いないわ」
「ねーちゃんが嫌われてただけかもな」
「ブン!」
「あなた、なんてこと言うのよ!」
パームとメームが彼を叱る。思った以上のその反応に、ブンは言い訳するようにデデデフォンを取り出した。
「で、でもさあ。デデッターじゃあみんな姉ちゃんの悪口言ってるぜ」
そう言って彼が見せるデデッターの投稿を、パームがどんぐりまなこで読み上げた。
「『俺の店にフームが来店。せっかくデデッターでお客さんも増えたのにこれじゃたまらないよ』……」
「リツイートもリプライもたくさん付いてる。姉ちゃんの悪口ばっかりだ」
フームは反論できなかった。少なくとも、彼女をよく思わない人間が多いことは確かだった。
「俺はさ、姉ちゃんがみんなに嫌われちゃうのがつらいんだよ」
「フーム。ブンの言う通りだ。このままでは、お前はププビレッジのみんなから爪弾きものにされてしまう」
心配そうな家族の目。フームはそれが耐えられなかった。
「……ボルン署長に相談してみる」
「フーム……」
彼女はそう言い残して、ふらりと部屋を出ていった。
「うーむ……それで、何か事件はあったのかね」
「デデデがあんな便利なものを人々にただ与えるなんて怪しいと思わないんですか?」
「またそれだ。みんなが楽しんでいるんだから、君もわきまえたまえ」
あっさりとフームは追い返されてしまった。予想はついていたが、ボルン署長も信じてはくれなかった。
「どうして……どうして誰もわかってくれないの!? デデデがやってるんだから、どうせろくなことじゃないわ!」
彼女は結局、ジュース入りのコップを手に管を巻いていた。バーカウンターの向こうから、ヒゲを生やしたキャピィ族がのんびりした調子で声をかけた。
「珍しいね、俺の店に来るなんて」
「カワサキのところからは追い出されたわ。私がいるとお客さんが寄ってこないって」
彼女は自嘲する。酒は飲んでいないはずだが、酔いどれと言っていいあり様だ。
「俺のバーも人が減っちゃってるんだよ。ここで話すよりSNSの方が楽しいのかね」
バーの中に、サモがグラスを拭く音だけが響いた。
「サモ、あなたは私を追い出さないの?」
「お金があれば誰でもくつろげるのが俺の店さ」
気取った言い方だった。その時、店のドアが開いた。
「ここにいたか、フーム」
低く落ち着いた声。顔、というより体を仮面で隠し、その仮面を半分マントで覆った星の戦士だ。
フームは思わず彼の名を呼ぶ。
「メタナイト卿! どうしてここに……」
「こんな夜更けに散歩というはずもあるまい」
どこか小馬鹿にするような言い方に、フームははっきりと腹を立てていた。
「……あなたも、デデッターの利用者でしょ? フォロワーもリツイートもたくさんあるんだから、そりゃあやめられっこないでしょうね!」
皮肉というには感情的なその言葉にも、メタナイトは小さく頷いた。
「やはりな……あのアカウントはお前か」
「やはりって……私のアカウントに決まってるでしょ!?」
「フーム。デデデフォンを出せ」
「な……なに?」
飲み込めないながらも、フームはデデデフォンをメタナイトに差し出した。彼ははその画面を操作し、メタナイト自身のアカウントを表示させる。
「これが私のアカウントだな」
「そうよ」
「だが見ての通り、私はデデデフォンを持っていない」
メタナイトは両手を広げて見せた。
「どういうこと?」
「このアカウントは私の名を借りただけ……なりすましアカウントだ!」
「SNSはまさしくバカ発見器。目立ちたがるバカは疑う心を知りませんからな」
「言論統制こそが平和なメディアの第一歩!」
「思い通りに動くSNSは新時代国家のライフラインゾイ」
ゴマをするカスタマーサービスに、デデデとエスカルゴンはご機嫌だ。
「承認欲求に逆らえないのは愚民の特徴ですからな」
「おっと、おい見ろエスカルゴン。ワシのフォロワーがまた増えたゾイ。お前よりずっと多いゾイ!」
「フォロワー数でマウント取るんだからこのオヤジは……」
「ワシこそがデデッターの支配者ゾイ!」
大声で笑うデデデ。エスカルゴンも悪巧みの的中に、顎ひげを撫でていた。
「妙に信頼されているメタナイトの名前を借りてなりすましアカウントを運用してるおかげで、デデデ陛下のことも国中が信頼してるでゲスからな」
「それにくわえて大量のアカウントを用意して陛下のフォロワー数を水増しいたしましたから、国民たちの忠誠は鰻登りでしょう」
「ええ!? 陛下はそんなことまであんたに頼んでたんでゲスかぁ!?」
カスタマーサービスの言葉で、エスカルゴンは大王の浪費を初めて知った。いつもながら、この暴君は自重というものを知らない。
「だってワシの本来のカリスマに見合うフォロワーが欲しいゾイ!」
「そういえば陛下、そのことでご相談がございます」
「いやーな予感……」
エスカルゴンのぼやきをよそに電卓を叩いたカスタマーサービスは、その文字盤を見せつけた。
「フォロワー百人あたり千デデンのお支払いですから……早急に二十万デデンお支払いください」
「二十万デデン? お前のことだからもっと非常識な額を要求してくると思ったでゲス」
「ほっほっほ。商売ではお客様が、SNSは運営が神様なのです。水増しアカウントを作る程度のことは造作もありません」
「見ろフーム。私のなりすましアカウントがやたらとリツイートしているデデデ陛下のアカウントだ。このアカウントのフォロワーを見てみろ」
「デデデのフォロワー? 普通じゃない」
「もっと下の方までスクロールしてみろ」
言われるままにスクロールしてみると、そこにはずらりとワドルディの顔のアイコンが並んでいた。
ワドルディ
わにゃわにゃ
ワドルディ
わにゃわにゃ
ワドルディ
わにゃわにゃ
ワドルディ
わにゃわにゃ
「な……何よこれ! デデデの他には誰のこともフォローしてないしツイートもないし……。こんなのアカウントとは呼べないわ!」
「ワドルディにアカウントを作るほどの脳ミソはない……。おそらくホーリー・ナイトメア社がアカウントを大量に作り、陛下のために使っているのだろう」
フームは拳を手のひらに打ち付ける。悪巧みの内容が、ようやく見えてきたのだ。
「デデデのフォロワーが多いのは業者の用意した大量の水増しフォロワーのおかげだったのね!」
「そして私のなりすましアカウントが宣伝することでプププランドの人々をフォロワーにしたというわけだ」
「メタナイト卿のなりすましもフォロワーの水増しも、落ち着いて調べていればすぐに気づけたはずなのに……」
「SNSの中だけで物事を考えてしまうからそうなるのだ」
曇っていた自分の表情を、フームは頬を叩いて吹き飛ばす。
「あなたのいう通りね、メタナイト卿。この情報を使って、まだ戦ってみせるわ!」
「どうぞ。どうぞー。ありがとうございます!」
フームが選んだ方法はビラ配りだった。マスメディアをデデデに掌握されているならば、それ以外の方法で人々に訴えるしかない。
「どうぞ」
「あ、メタナイト卿だー!」
「うむ、受け取ってくれ」
メタナイトからビラを受け取った住民たちは、そのビラを眺めて口々に呟く。
「デデデ陛下のフォロワーは偽物?」
「メタナイト卿のアカウントはなりすましだったのか……」
「でなきゃ陛下を誉めるはずないですからな」
人々は、存外に好意的だった。
「順調だな、フーム」
「メタナイト卿が手伝ってくれたおかげよ。みんながあなたを尊敬しているもの」
「その通りだ。愚かな民衆は声の大きいものに踊らされる者だからな」
「どうぞー!」
フームは笑顔でビラを配り続ける。彼女の戦いはまだ始まったばかりだ。
「やいカスタマー! ワシのアカウントにヘンテコなリプライが来とるゾイ!」
デデデの怒声に、カスタマーサービスはサングラスの位置を直しながら、突きつけられた画面を見る。
「おやおや。『自分のフォロワーを捨てアカで増やすのはやめろ』『メタナイト卿のなりすましも陛下のせいですか?』ふーむ、なるほど」
「メタナイトはともかく、陛下のフォロワーが水増しされてるんだから陛下が疑われるのも当然でゲス! あんたの水増しアカウントが雑だからこんなことに……」
「どうにかしろゾイ!」
「ほほう……このくらいならどうにでもなりますな」
「本当かゾイ!?」
「煙に気づかれてしまったら、火のないところに火をつけるのが正解でございます。ベツニイーロンにご命令を」
翌日、デデッターには新しいアカウントが作られていた。笑顔のフームをアイコンにしたアカウントだ。
フーム@キャピィ族脱出
真実に目覚めました。ププビレッジは最悪!!
今日はお城の壁に落書きしてやったわ!
ワドルディを虐待すると気分が晴れやかね!
プププランドの住民はバカばかり。王様は文字すら読めない
ププビレッジはどうしようもないど田舎だけど住民たちが無学無才だから成立している最低の村
いつもいつもデデデの悪巧みに踊らされて恥ずかしくないのかしら
カワサキの料理はまずい! 0点!
「な、なによこのアカウント!」
フームはデデデフォンを両手で掴み、そう叫ぶ。パーム一家の夕食後の団欒は遠い。
「姉ちゃんが好き勝手アカウントを作りまくるからデデデも規制できないんだって言ってるぜ。それにデデデの水増しフォロワーも、姉ちゃんがデデデを陥れるために作ったって……」
「私のなりすましアカウントね……。でも負けないわ。しょせんデデッターの中のことよ」
まるで気にしていないフームに、ブンは少し心配そうだ。
「でもみんな姉ちゃんのこと悪いやつだって……」
ブンが持っているデデデフォンを、フームはひったくった。
「あっ……」
「いい、ブン! SNSはとても便利な物だけど、それに頼りすぎてはいけないの。どの情報を信じるべきか、ちゃんと考えて使わないとニセ情報に踊らされてしまうのよ!」
遠巻きに彼らを見ていたパームが付け加える。
「それから、インターネットで顔がわからないからと言って、人の悪口を書き込むのもダメだ。わかるな、ブン?」
「……わかったよ。実際ねえちゃんが困ってたんだから、そんなことしちゃダメだよな」
ブンは消沈した様子だ。知らず知らずのうちに、フームを迫害する側にまわってしまっていたのだ。
「どれ、明日はパパもお前のビラ配りを手伝おうかな」
「あっ! それじゃあ俺もやる!」
「ええい、フームのせいでワシのフォロワーが減っていく一方ゾイ!」
「じゃあどうするんでゲスか? デデッターを廃止にするとか……」
「やい、ベツニイーロン! こうなったらワシにネットリンチを仕掛ける不届きものを直接成敗するゾイ!」
命令は下された。ベツニイーロンはまた、村へ向かって駆け出した。
「SNSの情報を鵜呑みにしてはいけません。ニュースソースを確認して、正しい情報かどうか確認を……」
ビラ配りを続けるフーム。受け取る人は多くはないが、手応えは確かだった。
「大変だ、姉ちゃん!」
「あれは!」
飛来したベツニイーロンは、低くおどろおどろしい声で叫んだ。
「エーーックス!!」
ついにベツニイーロンはマスクを脱ぎ捨てて真の姿を現す。青い鳥の姿から、めきめきと音を立てて変身していく。フームの三倍はある巨体。黒と白の鋭角なボディ。これがIT魔獣ベツニイーロンの真の姿だった。
「魔獣ね!」
「どうしよう、姉ちゃんを狙ってるみたいだけど、カービィは今どこにいるかわからない!」
「エーピーアーイ!」
「きゃあっ!」
拳を振るうベツニイーロン。逃げ回る姉を見て、ブンは頭を抱えた。
「どうしよう……どうやってみんなに伝えれば……! そうだ!」
「何をする気なの、ブン!」
ブンは質問に答えるより早く、自分のデデデフォンの画面をフームに見せた。
「そう、そうよね……なら!」
大きく息を吸い込んで、フームは叫ぶ。
「来て、ワープスター!」
ププビレッジの数少ないコンビニには、いつも誰かが屯しているものだ。
おまけ付きのお菓子を三人で開封しているのは、イロー、ハニー、ホッヘの三人組だった。
「あちゃ〜、またハズレだ」
「はい、カービィ」
ハズレのお菓子をカービィに与えると、そのピンクの丸い生き物は大喜びで口を開けた。
「うん? なんか妙なのがバズってるよ」
一息ついたイローがデデデフォンを開き、そう口にする。
「どれどれ?」
「ほらこれ。この、ブンの投稿」
「あっ! デデデの魔獣だぁ!」
「……『デデデの魔獣がやってきて街を襲ってて大変です。カービィのところにワープスターが飛んできているはずなので、彼にここまでくるように教えてください』……おい、カービィ!」
「ぽよ?」
輝く目で彼らを見上げる星の戦士。まだお菓子が食べ足りないようだ。
「ほら、これ見て!」
「フームが襲われてるんだ」
「場所もわかる?」
カービィは突きつけられた画面を見つめ、力強く頷く。口をきりりと引き締めて、鋭い目つきで空を見上げた。
飛来したワープスターに飛び乗ると、彼は空高く飛んで行った。
「でゅわはははははは!」
デデデとエスカルゴンは、いつもの大王専用車の上で笑い転げていた。彼らの視線の先には、ベツニイーロンに追い立てられるフームの姿がある。
「グフフ、いい気味でゲスなあ、フームのやつ!」
「親の庇護の元甘やかされたガキが、インターネットで調子に乗るからこうなるゾイ!」
「ん、ありゃなんでゲしょうね」
昼間にもかかわらず、空の彼方に見える小さな星。それはぐんぐんとこちらに近づいているようだった。エスカルゴンは双眼鏡を取り出して、その星を見た。
「陛下! マズイでゲスマズイでゲス!」
「なんゾイ!」
双眼鏡をエスカルゴンからひったくり、デデデも彼の指す方へ覗き込む。
「か、カービィゾイ!」
星の上、強く正面を見据えるピンク玉。星の戦士カービィだ。
「エックス!」
ようやく、ベツニイーロンの手がフームを捉える。もう一方の手を振りかぶったその時、ワープスターがベツニイーロンに激突した。
悲鳴をあげてつんのめるベツニイーロン。その周りを旋回するワープスターの上で、カービィはベツニイーロンを睨みつけていた。
「エーピーアイ!」
ベツニイーロンは両手を振り回してカービィを襲う。次々に繰り出される攻撃に、カービィは防戦一方だ。攻撃をかわしたものの、攻めあぐねたカービィは距離をとった。
「何かをコピーさせないと……」
今のままではカービィは勝てない。周囲を見回すフームに、屋根の上から声がかけられた。
「フーム、これを使うぞ!」
「メタナイト卿!」
屋根の上のメタナイトの手には、火がついた松明が握られている。彼はそれを、カービィめがけて投げつける。
「カービィ、吸い込みよ!」
フームの指示に応えて、カービィは短い助走をつけてから大きく息を吸い込んだ。風に煽られ、松明がカービィの口の中に入った。
頭には輝く宝石をつけた冠。その上からは、天へと炎が燃え盛っている。
「おお! あれはファイアカービィ!
「いっけーカービィ!」
メタナイトとブンが興奮した様子で叫んだ。カービィはワープスターを加速させた。
「イー! ロン!」
構え直したベツニイーロンにも怯むことなく、カービィは炎を吹きかけた。
「ベツニィ〜〜!」
炎に焼かれ、ベツニイーロンは身悶えする。耐えかねた彼はカービィに背中を向けて逃げ出した。
「見ろ、ベツニイーロンが炎上している!」
「もっと燃やしちゃえ、カービィ!」
「へ、陛下! ベツニイーロンがこっちに来るでゲスよ!」
「なに!? おわ〜〜!!」
デデデたちもろとも、カービィは炎を浴びせていく。
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」
「ひー! ひーひー!」
文字通り尻に火が着いたデデデとエスカルゴンは、悲鳴を上げながら駆け回る。ベツニイーロンは炎に包まれた全身を震わせた。
「エーー! ピーー! アーーーーイ!」
断末魔の叫びと共に、ベツニイーロンは爆発した。あとに残ったのは、文字通り尻に火がついて転げ回るデデデとエスカルゴン、そして彼らの車の残骸だけだ。
「あちあちあち〜〜!」
「陛下お尻が燃えてるでゲス!」
「お前のお尻もあつあつゾイ〜〜!」
命拾いしたフームは、隣の弟に目をやった。今回の功労者は、デデッターを通じてカービィに情報を伝えるアイデアを考えたブンだ。
「SNSって非常時にも役に立つのね」
「信じすぎもよくないけどな」
ブンは照れくさそうに頭を掻いた。
遠巻きに見ていた住民たちが、おずおずと顔を出した。火に追われて駆け回るデデデたちを見て、彼らは笑顔でデデデフォンを向けた。
シャッター音が何度も響く。
「デデッターにあげましょう!」
「こんな面白い写真シェアしないと勿体ないわ」
「これで私もインフルエンサーですな」
それを遠巻きに眺めながら、フームは小さく笑う。
「今度はデデデが炎上する番ね」
「こんな使い方、利用規約違反でゲス〜!」
「どいつもこいつもアカBANゾ〜イ!」
二人がうめく。市民たちがますます大きな声で笑うなか、カービィだけが首を傾げていた。