シグレ諦観剣~異世界不老少女交刃譚~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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24.悪趣味なネタバレショー

 

 

「まさかこの身体を斬られるだなんてネ」

 

 尻餅をついた姿勢で驚いた様子を見せながらも、ミラリバスは余裕たっぷりだ。

 クイっと指を動かせば、地面に転がるその足は糸にでも引っ張られるように、彼の手元に戻っていく。

 

 そうすれば、これまでと同じようにピッタリとくっつけられて治っていく。

 

「ビックリはするけド、それだけだよネ」

「そうでもないわ」

 

 心剣も斬鉄も通る。

 

 ならばその二つを――いや、この世界で得たモノ全てを混ぜ合わせれば、斬った上でダメージだって出るはずだ。

 

「いつまで余裕ぶってるんだヨ!」

 

 ミラリバスが叫びながら、石畳ごと地面を蹴り上げる。

 それは、先ほどシグレが使った紫電裂光脚(シデンレッコウキャク)に似た動き。

 

 地面を蹴り上げ、衝撃波を巻き上げる。

 

「……!?」

 

 それをムキムキモードのミラリバスが繰り出したのだ。

 その規模も威力も、シグレのものとは段違いのモノとなる。

 

 砕けた石畳の破片と、巻き上がった土砂が、縦にも横にも壁のようになって、ゆっくりと追い詰めるようにシグレへと迫ってくる。

 

 その場から離れようとシグレは動くが――

 

「遅いんだヨ!!」

 

 ――土砂の中を突っ切って、ミラリバスが目の前に現れた。

 

「こいつ……!」

 

 ミラリバスが飛び退くシグレの長い後ろ髪を摑んだ。

 

「長くて綺麗な髪がアダになったネ! ほぅラッ、行って来イッ!!」

 

 そして、ハンマー投げのようにぐるぐるとシグレを回す。

 ミラリバスはシグレを使って周囲の石壁や柱、瓦礫などをわざと砕き散らしてから、迫り来る土砂の壁へと向けて投げた。

 

 勢いよく舞う土砂と石片で、泥まみれにされながら全身を切り裂かれていく。

 なんとか脱出しようとシグレがもがく中、ミラリバスが土砂の嵐の中へと飛び込んできてシグレの顔を鷲掴みにした。

 

(ミラリバス……ッ! 無自覚っぽいけど、なりふり構わなくなってる……?!)

 

 シグレの顔を摑みながらそこから飛び出し――

 

「潰れロォッ!!」

 

 ――そのままシグレの頭を地面に叩き付ける。

 

「……ァッ!?」

 

 後頭部への激しい衝撃と痛み。同時に目の前に星が飛ぶような錯覚。

 そのせいで、身体強化と身体防御の為に練り上げていた候力(シーズ)が霧散する。

 

「いつまでも調子に乗ってんじゃないヨ!!」

 

 無防備になった腹部への強烈なストンピング。

 

「ごぼ……ッ!」

 

 吐き気を感じるよりも先に、喉の奥から血がせり上がってきて、勝手に口――いや喉から吐き出される。

 

「ぁが、あ……ごぷ……ぅぅ」

「チカラの差ってヤツをさァ!! もっと感じてよネ!!」

 

 もう一度、踏みつけられる。

 衝撃はシグレの腹部を突き抜け、その下にある石畳にヒビを入れる。

 

「ぐ、ぷ……ぅ」

 

 喉から勝手に漏れ出し溜まった血が、鼻からあるいは口の端から垂れていく。

 頭へのダメージと、腹部への激痛、そして吐き出される血によって、思考が纏まらない。

 

「もう一発いっとク?」

 

 追加のストンピング。

 シグレの下でヒビが入っていた石畳が砕け、その下の土に小さなクレーターを作る。

 

「あ、が……!?」

 

 意識こそ繋ぎとめられたものの、シグレの視界はぼやけ、指先や足先などが小刻みに震えたまま、うまく動かせない。

 

「ようやく良い姿になったネ」

 

 言い返したい言葉は色々あるのだが、上手く言葉が発せない。

 

「がふ、はぁ……あぁ……うぷ……」

 

 とにかくミラリバスを振り払って、一度呼吸を整えたいのだが、今の状態ではそれも叶わない。

 

「せっかくだシ、まだ生きているキミの最後を楽しませてもらうヨ」

 

 シグレに足を乗せたまま嘲るように、娯楽であるかのように、ミラリバスが語り出す。

 

「もうとっくに気づいていると思うけド、キミには『不老』だけでなク、『不変』と『死中活成』とでも呼ぶべき天候才も一緒にくっつけてあったんダ」

 

 ネタばらしを始めたミラリバスは楽しそうだ。

 

「『不変』は――まぁ説明する必要ないでショ。元の状態に戻ろうとするチカラだネ。切った髪の毛がすぐに生えたリ、毒や病気があっという間に回復したりするアレだヨ。実際は回復するんじゃなくテ、現状復帰させてル――が近いんだけどネ。

 そしてもう一つ『死中活成(しちゅうかっせい)』――これはデッドリバースエクスペリエンスとかルビを振るべきかナ?

 これはキミだけじゃなくてサ、ツルギガブチ・シュウにも付けてあったヤツなんだけド」

 

 シュウの名前が突然出てきて、シグレは視線をミラリバスに向ける。

 身体を動かそうとすると、激痛と吐き気に襲われてしまい、顔を(しか)める。そうして顔を顰めようと連動するように身体が動いてしまい、激痛と吐き気がくる。最悪のループだ。

 

 その状態で苦しむシグレを見るのが楽しいのだろう。

 ミラリバスの舌は滑らかになっていく。

 

「キミたちの世界にあるゲームってヤツで例えるならネ『瀕死時ステータスアップ』と『瀕死時経験値増量』、そして『瀕死時急成長』を一緒くたにしたような天候才(ギフト)なんだヨ」

 

 心当たりはあるでショ――と、せせら笑いながら、ミラリバスは続ける。

 

「まさに今のキミのような状態になれバ、能力値が底上げされル。結構な上昇率ではあるけどネ、今のキミはそれを活かせる状態じゃないだロ?

 残りHP1って感じだよネ? まさに瀕死。ボクのギリギリの手加減でギリギリを生きている気分はどウ?」

 

 ミラリバスの言う通り、まさに瀕死だという実感はある。

 

「ついでニ、今の状態でいると自動的に経験値が増えていくんダ。今まさにガンガンとレベルアップしてるとも言えるネ?

 まぁレベルアップしてもゲームと違って傷や体力は回復しないかラ、今のキミには何もできないだろうけどネ。

 それニ、言うまでもないけド、レベルアップって言いうのはモノの例えデ、この世界にレベルの概念はないヨ」

 

 確かに心当たりはある。

 だが、それを認めるのはシャクで、シグレは特にリアクションをせずミラリバスを見上げている。

 

「キミもツルギガブチ・シュウもサ、わりと死に場所を探してたじゃなイ?

 でも死にそうになるたびにパワーアップしテ、実は全然死ねなくなってたんだヨ? 滑稽だネ」

 

 ようするに、自分やシュウがドラゴンバスターと呼ばれるところまで成長し(強くなっ)てしまった原因は、こいつということなのだろう。

 

 死に場所を求め、運良く瀕死になっても『死中活成』によってギリギリ生かされ、それが逆に成長へと繋がってしまっていたのだ。

 

 今でこそ感謝くらいしてやっても良い――と感じはするものの、当時は生き延びてしまう自分に嫌気がさしていたのは事実である。

 

「苦しめば苦しむほど強くなる自分に戸惑うキミたちの姿は悪くなかっタ」

 

 結局、この十五年の苦悩も辛さも痛さも、ほとんどの原因がこの道化師だったということなのだろう。

 

 だけど、これまで歩んできた道のりそのものは、ミラリバスが用意したものではない。例えそれが間違った道であったとしても、自分で選んで進んできた道だ。

 

 それは間違いなく言える。

 だからだろう――こちらの反応の悪さに、ミラリバスは顔を顰めた。

 

「うーん……しかシ、天候才(ギフト)の話はリアクションが薄いネ?」

 

 とはいえ、そこは道化の神を自称する存在だ。

 人を嘲笑(ちょうしょう)し、煽り、悶え苦しむ姿を滑稽で楽しい娯楽として消費する魔神だ。

 

「よシ。特別サービスにもう一つの事実をお教えしようかナ。こっちの話ハ、キミではなくツルギガブチ・シュウがボクの前に立ちはだかったラ、するつもりだったんだけド」

 

 まだ――なにかあるのか。

 シグレの心の中に苛立ちが募る。

 

 その苛立ちを見透かしているのだろう。効果があると踏んだのか、楽しそうに語り始める。

 

「十五年前。一番最初に言ったんだけどサ。ボクは君たちを呼び出したけド、召喚はしてないんだよネ」

「ど、どうぃぅ……」

 

 僅かに出せた声で、疑問を口にする。

 言っている意味が分からないのだ。

 

「うんうん。気になるよネ? 興味湧くよネ? 神の代行者たる偉大なる鏡の魔神ミラリバス様ことボクが語って聞かせてあげるヨ!」

 

 うるせぇ、とっとと言え――と口にしたいが、現状ロクに喋れないシグレは憮然(ぶぜん)とした気持ちのまま先を待つ。

 

「キミたちは本当のキミたちじゃあないんだヨ」

「……?」

 

 この男は、何を言っているのだろうか。

 

「キミたちを本当に召喚してしまってハ、口うるさい地球の管理神に目をつけられテ、この世界の創造神にバレちゃうからネ」

 

 召喚されたのでないとしたら――自分たちは何なのだろうか。

 

「だから魂を複製したというのが一番わかりやすいかナ? 魂の道行きを分岐させたともいうかもしれないけド」

 

 ミラリバスは自分でもどう表現すればいいのか悩んでいるのだろう。少しばかりあやふやな言い回しをしてくる。

 

「ボクは鏡の神でもあるからネ。魂を鏡に映しテ、映った鏡像の方を利用するくらいは朝飯前ってやつなのサ」

 

 そうだ――と何か閃いたように、ミラリバスは手を打った。

 

「ボクに関する物語。鏡の姉妹って知ってるかナ?

 鏡に映ったお姉ちゃんを外へと引っ張り出すアレ。似たようなコトをネ、キミたちでしたワケなんだ」

 

 以前にレインとリーラから聞いた話を思い返しながら、ミラリバスの話に耳を傾ける。

 

「地球で何事もなく過ごしているキミたちを鏡に映しテ、この世界に召喚された場合の可能性としてのキミたちを鏡像から抽出シ、呼び出したんダ。

 そのままだと形の無い魂みたいなモノだからネ。この世界で生きるのに必要な肉体モ、元の身体をコピーして作たりもしたネ」

「…………」

「言うなれバ――キミたちは自分たちを本物の本人だと思い込んでいる人形サ。

 可能な限り人間と同等になるように造り込んだかラ、神でもなければ見分けはつかないくらい精巧さだヨ」

 

 人形。

 自分たちが?

 

「キミやツルギガブチ・シュウはサ、必死に帰る方法探してたけド……実は無駄骨なのサ。

 だって帰るもなにモ――帰る場所なんてハナっから無いノ。

 キミたちは本物の魂から抽出されたコピーな上ニ、肉体もボクが造った仮初めのモノだからネ。それなのに必死に帰る方法を求めてサ、最高に滑稽で面白いショーだったヨ」

 

 帰りたいという切実な思いさえも、こいつの手の平の上だったというのだろうか――

 

 そのことは、それなりにショックだ。

 だけど、思ったよりもダメージがない。

 

 というか、今現状の肉体へのダメージが強すぎて、意識が飛びそうな方が重要だ。

 同時に、肉体が復元されている感覚もゼロではないので、ここで意識を繋ぎ止められれば、状況を脱する手も打てる可能性がある。

 

 なんであれ、そうやってシグレが意識を繋ぎ止めるのに必死になっている様子が、ミラリバスには事実に絶望したようにでも見えたのだろうか。

 

 妙に上機嫌に、ミラリバスが情報を追加してくる。

 

「あア、そうそウ。

 そういう理由だからサ。よしんば地球に行く手段があったとしてモ、そっちには『地球で何事もなく過ごす本物のトネザキ・シグレ』がいるんだヨ。だかラ、結局地球に行けても居場所なんてモノはキミたち存在しないんダ。残念だったネ」

 

 つまり、そもそも帰る必要なんてなかったということらしい。

 

 最悪の事実だ。

 けれど、事実を知れて良かったとも思う。

 

「…………」

 

 少し前の自分なら、本当に絶望してヤケを起こして――それこそミラリバスの楽しいオモチャに成り下がってしまったことだろう。

 

 だけど、すでに帰ることを諦めた自分からすれば、よりこの世界への執着が強固になる事実だったのは好都合とも言える。

 

 何より、僅かに体力と傷が回復してきた感覚がある。

 死中活成によるレベルアップがかなり大きな効果を発揮しているようだ。

 

「お前ってわりと常に迂闊(うかつ)よね」

 

 喉元に溜まる血のせいで、くぐもった声になったものの、ハッキリとした意識でシグレは告げる。

 

「この状態でまだ強気になれるキミも相当迂闊だと思うけド」

「正しく相手を殺すビジョンが見えてないのに勝ち誇りすぎなのよ」

 

 お喋りの間に身体が休まった。

 追撃で踏み潰されたり、肩や肘、膝などが踏み砕かれていたら危なかった。

 

 けれど、それがなかったのだ。

 

 お腹は痛い。気持ちは悪い。頭はグラグラする。

 それでも生きているし、まだ身体は動く。

 

 身体が動かせる程度には回復できた。

 嫌がらせとして与えられていた死中活成が、これまでの戦いの通り、死中から自分を拾い上げ活を与え成長していく感覚。それを明確に認識する。

 

「悪いけど、わたしはまだ――諦めてないのよ」

 

 これまでにないくらい完璧で淀みなく内候力(オフシーズ)が練り上がる。

 瀕死時ゆえ大きくパワーアップしているのも間違いないようだ。

 

閃光掌(センコウショウ)眩揺(ゲンヨウ)

 

 本来は拳に(まばゆ)いオーラを纏わせ、目眩ましと鉄拳を同時に繰り出す技。

 それを、今回は目眩ましに特化させるように発動させる。

 

 右手をミラリバスに向けて、強烈な閃光を放たれた。

 

「うお!?」

 

 突然の光にミラリバスが怯む。

 

 その隙に、シグレは自分の腹部に乗っている足を払い、横に転がって素早く立ち上がると、間合いを取った。

 

 口の中の血を吐き出して、()せながら口を拭う。

 血が顔に伸びたり、袖が真っ赤になったりするけど、今は気にしない。

 

「ふぅ」

 

 小さく息を吐いて、シグレは居合いを構える。

 

 さぁ、ここからが正真正銘――最後のひとふんばりだ。

 

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