シグレ諦観剣~異世界不老少女交刃譚~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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28.曲げられない想いで区切って東と西へ

 

「急に呼び出して悪かったな」

「いいえ。構わないわ」

 

 騒動の後始末も含めてだいたい終わり、クロス・コーサーの町が落ち着きを取り戻した頃。

 

 シグレはシュウに呼び出されて、アルトラン遺跡へとやってきていた。

 

 当たり前ながらここの片付けはまったくされておらず、ミラリバスとの戦いであちこちが砕けたままだ。

 

「この感じ、相当激しくやりあったんだな」

「髪の毛捕まれてハンマー投げのハンマーみたいに振り回されたりしたわね」

 

 周囲を見回しながら、シュウは肩を竦める。

 

「そりゃひどい」

 

 それから、シュウはシグレの方へと向き直った。

 

「春木から送信されたクラスメイト宛の一斉メールを見た」

「そう」

 

 SAI――この世界におけるケータイを保有しているクラスメイトの面々は当たり前ながら、アドレスの交換はしている。

 

 特にセイカは、情報交換のまとめ役の一人である為、シグレも彼女に頼んでクラスメイトたちへの連絡したのだ。

 

 その内容は、自分たちの存在について。

 

 自分たちは、ミラリバスによって作り出された、地球にいる自分たちの記憶を含めて完全再現されたクローンのようなものであり、本人ではないという事実だ。

 

 地球には今も、この世界ウェザール・シソナリアに関して微塵も知ることもなくふつうに生活している自分たちがいるのだということを、みんなに連絡したのだ。

 

 また天命神ウェザロッソによって希薄だった存在の強固化をお願いしたことは伏せた。

 この情報はあってもなくても、みんなの意識に影響はないだろうという理由だ。

 

「あのクソ道化師は、死んだ後もなおオレを苦しめるようだ」

「剣ヶ淵くん……」

刀禰咲(とねざき)

「う、うん」

 

 シュウは真面目な顔を真っ直ぐにシグレに向ける。

 つい先日、十五年前の淡い感情をはっきりと思い出してしまったせいか、その真剣な眼差しに妙にドギマギしてしまう。

 

 けれど――

 

「どうやらオレは、地球を諦められないようだ」

 

 ――その真剣な顔から語られた内容は、淡いものなど微塵もなく。

 

「お前は――どうなんだ?」

「…………そうね…………」

 

 答えに僅かに悩む。

 けれど、ここで彼の好むような答えを出すのは少し違う気がする。

 

 語るべきは自分の本心。

 自分も彼も、(あざむ)くことなく嘘偽りなき言葉を口にするべきだろう。

 

「ミラリバスとの決戦の前に、地球に関しては諦める覚悟をしていたわ。だから戦いの中で語られた事実にも、特に動揺しなかった」

「……そうか」

 

 シュウの顔に、影が帯びる。

 

 ふと、シグレはその顔に、ドラゴンとの戦いの時に見た、赤い空と黒い雲のオーラを思い出した。

 あの時はとても頼もしく見えたオーラだが、今はそれを思い出すと妙に不安になってくる。

 

「お前がまだ地球を諦めないというのなら、一緒に行きたかったんだがな」

「ごめんなさい。その誘いには応えられないわ」

「分かってるよ」

 

 小さく嘆息する。

 シュウはナンパに失敗してふて腐れたような顔をする。

 

 だけど、それも一瞬。

 

「お前もずっと悩んでたみたいだしな。悩み抜いた結果が、今のお前なんだろう?」

 

 うなずく。

 

「踊り場にいる自分。階段を昇った先にあるリンゴと、階段を降りた先にあるイチゴ。どちらしか食べれないなら、片方を食べた時点で、片方に未練を感じる。それは当たり前のコトではあるけれど」

「ああ」

「私はずっと……それこそ十五年もの間、踊り場の片隅で膝を抱えて震えていただけだと気づけたから。どちらも選ばないのではなく、どちらも選べず、選びたくないと泣いてたのよ」

「そうか。そして選んだ道が、この世界に腰を落ち着ける覚悟か」

「ええ」

「……そうか」

 

 しみじみとした様子で、シュウは小さく息を吐く。

 

「オレも似たようなモノだった。そして気づいた時、オレは絶対に地球へ行くのだと覚悟を決めた。この世界では絶対に腰を落ち着けないという覚悟と共に」

「……剣ヶ淵くん……」

「ミラリバスの語る事実を知った上でなお、曲げられないんだと改めて自覚した」

 

 それは、きっと決別の言葉だろう。

 この呼び出しは、淡くて甘くて優しい、決別の挨拶だったのだ。

 

志紅(しぐれ)。あの時、(しゅう)くんと呼んでくれたの、めちゃくちゃ嬉しかった」

「……わたしもよ。今、志紅(しぐれ)と呼んでくれたコトがとても嬉しい」

 

 どちらかが言い出したワケでもないのに、そこでお互いに笑い合い、そして示し合わせるように背を向け合った。

 

志紅(しぐれ)。次合う時は、敵同士かも知れないな」

(しゅう)くんがそう言うのなら、そうかもね。

 そうならないコトを祈るけど――でも、例えあなたであったとしても、わたしの大切なモノを傷つけるというのなら容赦はしないわ」

「そうしてくれ。やるからには本気で、それがオレのスタンスだしな」

「ええ。でも――わたしとあなたがどんな関係になろうとも、あなたがわたしの大切な友人で、クラスメイトであるコトは変わらないわ。それだけは覚えておいて」

「他ならぬお前にそう言って貰えたコト、誇りにさえ思うよ」

 

 そうして、互いにゆっくり歩き出す。

 

 お互いの顔を見ず――あるいはお互いの顔を見ないように気遣うように。

 

「元気でな、刀禰咲(とねざき)! またな――とは言わないよ」

「剣ヶ淵くんもね! わたしも、またね――とは言わないわ」

 

 背を向けたまま交わす最後の言葉。

 あとは無言で、東と西へ。

 

 ここから先は、交わる事なき平行な旅路となる。

 

 でも……もし、この平行な旅路に交差点があるとしたら――

 

「その時は……その時ね」

「その時は……その時だよな」

 

 ――お互いの姿が見えなくなったあと、奇しくも同じようなタイミングで、同じような言葉を風に溶かした。

 

 シュウは無表情な笑顔の仮面を貼り付けて、街道に吹く追い風をうけながら地球へと帰る手段を探す旅を再開する。

 

 シグレは僅かな未練と、十五年目の失恋を僅かな涙で流しながら、向かい風に髪をたなびかせて、親友や仲間が待つ町へと帰るのだった。

 




キリの良いところまで書き上がりましたので、本作はここで一度「完結」とさせて頂きます。
ここまで、お付き合い頂きありがとうございました٩( 'ω' )و
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