シグレ諦観剣~異世界不老少女交刃譚~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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7.流旅行者互助協会 - ローディアンズギルド -

 

 久々に気持ちよくシャワーを浴びれたシグレだったが、気が付くと一時間近く満喫していたらしい。

 

 部屋に戻ってみると、レインが些か辟易した様子だった。

 出る時にはいなかったリーラもいる。

 

 二人をだいぶ待たせてしまったことに、シグレは軽く謝罪した。

 

「楽しめたんだったら何よりだけどさ……。

 いっそあたしくらい短くしてみたらどうだ?」

「一度やったコトがあるけど、すぐ伸びるのよ。一晩くらいで。

 原理は分からないけど、是が非でもこの肉体の状況を保とうとするみたいで」

「それ、【不老】以外の天候才(ギフト)も何か混ざってません?」

「そう思うんだけど、もうどうでも良くて」

 

 髪と同様に肉体の状況が維持されるという効果の影響か、毒や麻痺のような症状に対しても、すぐに回復するのだと口にすれば、それに関してはうらやましいと言われてしまった。

 

 実際、それで助かったこともあるので、曖昧に笑うのを答えとしておく。

 

 宿屋から借りている簡易室内靴を、愛用しているスネなどの要所に鉄板の仕込まれた編み上げブーツへと履き替える。

 左手の甲には雑に包帯を巻き付けて誤魔化した。

 

「左手、怪我でもしてんの?」

「これ? 呪いの一種みたいなものよ。見てくれが悪いから、こうやって誤魔化してるだけ」

 

 とはいえ、やはり興味を引いてしまうのか、レインが訊ねてきた。

 あまりに見ないでという仕草をすれば、申し訳なさそうに肩をすくめる。

 

 それでも、リーラはどうしても興味があるのか、おずおずと訊ねてくる。

 

「変な刻印とかアザとかあるんですか?」

「そんなところ。そのままだと目立つし、何より異形感のある見た目だから」

「す、すみません。好奇心で聞いて良いコトじゃなかったですね……」

 

 ペコペコと頭を下げるリーラに気にしないでと告げて、準備を終えた。

 

「食事のあとは、部屋に戻ってくるのよね?」

「ああ。四日分の支払いはしてあるから、不要な荷物は置いていって平気だよ」

 

 戻ってくるなら、武器や手甲はいらないだろう。

 

「わたしの分の代金は払うわ。お世話になった貸しとは別にね」

「いらないって言っても無駄か――分かった。貰っとくよ」

「二人ともほんと律儀と言いますか、真面目といいますか……」

「リーラはその辺り、もうちょっとしっかりしような?」

「あら? 結構しっかり者に見えてたのに、そうなの?」

「色んな知識を持ってるし、根は真面目っちゃ真面目なんだけどな。

 でも、興味がある分野以外に対する感覚が雑なんだよ、リーラは」

「ちょっとレインッ!? なんかサラっと私に失礼なコト言ってませんかッ!?」

「いるわよね、そういう人」

「シグレちゃんも真顔でうなずかないでくださいッ!?」

 

 そんな賑やかなやりとりをしながら、三人は宿屋の一階に併設されている食堂へと向かっていく。

 

(賑やかな談笑……いつ以来だろ……)

 

 笑い合う中で、シグレはそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 安価ながらに美味しい朝食を終えたシグレたちは、部屋へと戻りある程度の準備をしてから、流旅行者互助協会(ローディアンズギルド)へと向かう。

 

 日本の知識を使って身も蓋もない言い方をしてしまえば、冒険者ギルドというモノのイメージが一番近いだろう。

 

 実際、過去には冒険者と呼ばれ、世界中の未知なる土地を切り開いていた存在らしい。

 だが世界地図がある程度完成し、国同士や大陸同士の移動が比較的容易になってきた時点で、冒険する者ではなく流れ者、旅する者といったニュアンスの者が増えてきた。

 そこで、冒険者を含む流れ行く者たちを総称して流旅行者(ローディア)となったそうだ。

 

 冒険者時代から彼らは無法者だった。

 だが世界を開拓するのに重要であり、彼らを御しつつ、彼らへの支援をするべく立ち上げられたのが今のギルドの始まりであり、当時の冒険者ギルドと呼ばれる組織である。

 

 そうして今は流旅行者互助協会(ローディアンズギルド)に名前を変えて、何でも屋としての仕事の仲介と斡旋をやっている。

 ほかにも指名手配犯や、指名手配された魔獣などの、手配書の発行などもギルドの仕事だ。

 

 おかげで、今では流旅行者(ローディア)の名は、すっかり流れの何でも屋とでも呼ぶようなニュアンスになってしまってはいるのだが。

 

 その流旅行者互助協会(ローディアンズギルド)なのだが――様々な最先端技術や、あるいはロストテクノロジーを利用した運営をしている組織である。だが、その建物の見た目は、一貫して非常に古めかしかったりする。

 

 例えるならば、西部劇に出てくる酒場のような面構えをしていることが多いのだ。

 しかも、入り口は地球においてウェスタンドアとも呼ばれるあのスイングドアだ。

 

「いつも思うのだけど、いつになったらちゃんとしたドアになるのかしら?」

「もはや伝統みたいですよ、これ。それこそ冒険者ギルド時代からの。新しい支部が建つときも入り口はこれだって話です」

「夏は暑いし、冬は寒いんだよなぁ……。

 空調を利かせてあっても、密閉されてないからさぁ……」

 

 三人で文句を言いながら、ドアを開いて中に踏み込んでいく。

 

 ギルドの中は、奥に受付カウンターがあり、そこで依頼や相談を行う。

 

 受付カウンターから離れたところにもう一つカウンターがあり、こちらでは、お茶やサンドイッチなどの軽食を取り扱っている。

 

 カウンター前の広いロビーには机やイスが置いてある。ここは仲間との打ち合わせだったり、待ち合わせであったりをするのに利用されていた。

 この構造は、街ごと建物ごとで多少の差異はあれど、大きくは変わらない。

 

 いつどこのギルドに入っても見慣れた光景だ。

 

 そして、女である自分たちは、ギルドの建物に入るなり、一斉に注目されるのもいつものことである。

 彼らはこちらを確認すると、すぐに自分たちがしていたことを再開する者と、注目しながらヒソヒソと話し出す者に分かれる。

 

 女性流旅行者(ローディア)は全体の数字で見れば少くない。

 だが流旅行者(ローディア)という仕事自体が、男性社会的空気が強い為、女性が注目されやすいのだ。

 

 もっとも、シグレも、レインも、リーラもそんな視線にはすっかり馴れてしまっている。いやリーラはまだ少し怪しいようだが。

 

「女三人?」「全員イイじゃねぇか」「やめとけやめとけ。絶対冷嬢(ぜったいれいじょう)だぞ?」「引鉄の歌姫(トリガーシンガー)も一緒だし、マジでやめとけ」「|冷姫(れいき)が誰かと一緒なんて珍しいな」「蹴り姫に踏まれたい」「あっちの白い子はどうだ?」「やめとけって。彼女も強いんだって」「引鉄の歌姫(トリガーシンガー)に罵られたい」「見た目で侮るバカはあいつらのカモだって気付け」「所詮女とガキだちょいと脅せばヤれんじゃね?」「下心なしにビジネスライクが一番良いつきあい方だよ、あいつらとは」「お前らあんな女どもにビビってるのか」「白姫(しらひめ)ちゃんに蔑まれたい」「いいよなぁ相手の能力を判断できないお気楽は」

 

 ヒソヒソと聞こえる声に、シグレは思わず嘆息した。

 馴れたとはいえ、聞こえてくるヒソヒソ声にはうんざりする。

 基本的に友好的なのが多いが、中には完全に下卑たものもあったりするのだ。

 

「抑えてくれている人が増えたのは良いコトかもしれないけど」

「でも抑えの効かないのはいるんだよな」

「見た目が怖いってだけで苦手なんですよねぇ……」

 

 何やらリーラは情けないことを口にしているが、気持ちは分かるので、シグレは小さく苦笑した。

 

 そのまま素直に依頼が張り出されている場所まで行ければ良いのだが――

 

「なぁなぁ姉ちゃんたちよ」

 

 そうもいかないのが流旅行者互助協会(ローディアンズギルド)という場所である。

 

 流れ者であり、何でも屋であり、資格を得るのに労はない。

 登録した場合、最低限の従事協力は必要ではあるが、それも大した面倒もないので、とりあえず登録するだけのゴロツキも少なくないのだ。

 

 一方で、まともな流旅行者(ローディア)というのは、出会いを大切にする。

 

 魔獣や盗賊などの退治も請け負うのだ。あるいは、危険な山や森の中を調査することもある。

 そういう危険な仕事の時、顔を見知っているという理由で助けて貰えることも多々あることを知っているのだ。

 

 同じような狩り場で遭遇した時、顔見知りであれば譲り合いなどをスムーズ行うこともできるだろう。

 

 そういう理由から一期一会であろうとも、ある程度の顔見知りになっておくのは悪いことではない。

 実際、シグレも人付き合いこそ悪く、馴れ合いを嫌うという体をとっていても、だからといって顔を覚え合うことを無碍にはしないようにしているくらいだ。

 

 つまり――

 

「バカを相手にするつもりはないの、失せなさい」

 

 ――こういう場で、下心見え見えの友好風な態度で接してくるバカというのは、本物のバカであることが多いのである。

 

 なので、シグレにしてもレインにしても、冷たい言葉と眼光を浴びせることで実力差を分からせるようにしていた。

 

 リーラだけは苦手と公言する通り、堂々としたシグレたちと比べると一歩腰が引けているようだが。

 

 余談だがリーラのように怯えてしまうタイプの人に対しては、ギャラリーが手を貸すことも多い。

 その実力がどうあれ、同業に貸しを作っておくのも悪いことではない。ツテを作るチャンスとされるのだ。

 

 荒事が苦手でも、調薬などのスキルや、考古学などの知識が豊富な流旅行者というのもいる。そういう非戦闘系の流旅行者とのツテもまた大事なツテだ。

 

 そう考えると、この手の馬鹿なチンピラが淘汰されずに放置されているのは、そういう出会いのチャンスを残す為なのかもしれない。

 

 ともあれ、シグレたちに声を掛けてきた男は、睨まれても、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべるだけで気にした様子はなかった。

 

「おお! 怖ぇ怖ぇ! おれ、ビビっちまうぜ」

 

 言葉とは裏腹に、微塵もそんな様子を見せてこない。

 その時点で、相手にする気が完全に失せたシグレは、大きく嘆息する。

 

 これ見よがしな嘆息を気にも止めず、男は下品な笑みを浮かべたまま手を伸ばしてくるが、それをシグレは振り払った。

 

「おいおい痛ぇな。乱暴なコトならおれだって好きなんだぜ!」

 

 丸太のような腕を見せつけるように笑う男。

 それに対し、ギャラリーたちは、男の未来に合掌する。

 

「乱暴な対応(コト)が好きなのね。ならそうしてあげる」

 

 シグレは端的に告げ――瞬間、男の鳩尾(みぞおち)へと鋭く膝をねじ込んだ。

 同時にギルド内を見回す。すると、一人見覚えのある男の顔があったので、あれでいいやと狙いを定めた。

 

 直後、身体をくの字に曲げる男のこめかみを、矢の如き回し蹴りで射貫くと、顔見知りの男の前へと転がした。

 

「ちょっとッ!? 蹴り姫ちゃんッ!?」

 

 明らかに自分へ向けて蹴り飛ばしたのだと気づいたのだろう。

 

 水色の髪を長く伸ばした、軽薄が服を着て歩いているようなその男が、藍色の瞳のやはり軽薄そうなタレ目を大きく見開く。

 

「悪いんだけど、ヴァイス。後処理よろしく」

「しかたねぇなぁ……貸しひとつだぞ」

「以前にアンタのやらかしを処理した貸しがいくつかあったでしょ。一つ分、相殺しときなさい」

「うぐっ……しゃぁねぇなぁ、もう……」

 

 不満をうめきながらも、言い返せないと悟ったらしいヴァイスは、伸びた男の襟首を掴んだ。

 

 それを確認してから、シグレは前へと垂れてきた後ろ髪をさっと振り払い、レインとリーラの方へと向き直った。

 

「シグレちゃん、カッコいい~」

 

 すると、なぜかリーラが目を輝かせながらこちらを見ている。

 

「チンピラを颯爽と片づけ、軽薄ナンパ男で有名なヴァイスをクールに言い負かし、何事もなかったように髪を払う――絵になるじゃん。

 同性だって思わず見惚れるカッコ良さってな」

 

 茶化すように言ってくるレイン。

 それに対し、シグレは反撃がてらにからかうような眼差しを向けて告げた。

 

「あら? 同性だって思わず見惚れるっていう言葉は貴女の為のモノじゃないかしら、レイン?

 同性のご同業から熱の籠もったラブレター貰ったって噂を聞いたコトあるけど?」

「よし、やめよう。この話は不毛だ」

「レインもカッコいいですからね~」

「ほんとやめろリーラ。お前らだってあの熱量がいきすぎてラブレターだった何かに変じてる手紙を貰ってみろって!」

「……そうね、やめておきましょう。私も呪いを受ける前、同性であるコト以上に問題のある手紙やプレゼントを貰ったコトを思い出したわ」

「おおシグレ! 同志よ!」

「レイン嬉しそうですね……」

「リーラも愛が溢れすぎて情熱が執着へと変じた果てに呪いの手紙じみた内容の書き殴りメモが毎日三通は机やロッカーに入ってるとか味わってみればいいと思うわ。

 エスカレートして体毛入りとか血液入りのプレゼントとか送られてきたあたりから本気で身の危険を感じたから……」

「さすがにそれは……行きすぎた愛は呪いってか」

「さすがにそれは……ちょっと遠慮したいです」

 

 瞳を澱ませながら語るシグレに、レインとリーラがドン引きしたところでこの話はお流れとなった。

 なので、三人は大人しく手頃な依頼を探しはじめるのだった。

 

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