恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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実は酒吞童子に拾われるルートもあった気狂い。拾われるタイミング?ダイス神のみぞ知る。
「こいついらねぇんだよな? んじゃ、俺が連れていっても文句ねえだろ」的なこと言って自分の領域で鬼として育てるルートですね。原作知識ありの敵キャラとか最悪のエネミー。サイコロの出目のせいでそんなことはならなかった。ファンブルしてればそのルートだったんですけど100面ダイスでクリティカル出しやがって…


神様のお使い

 まだ朝日も昇っていない時間帯。ちょっとした賑わいを見せる市場に集まった馬鹿共三人。三人の前には今から戦いですと言わんばかりの空気を纏う、妙齢の美女がいた。

 

 紅白のおめでたいカラーリングの今時珍しい大正ロマンを感じさせる服装と、団子状に纏め上げられた黒髪。血色のよい艶やかな肌や唇、頭を垂れる稲穂の如き黄金色の瞳など────一目見るだけで忘れられなくなるような、絶世の美女である。

 

「おはようございます」

 

「「「おはようございます」」」

 

 美女が朝の挨拶をすれば、馬鹿共三人も挨拶を返す。挨拶には挨拶を返すという当たり前の教育が行き届いている証拠である。

 

「依頼内容はご意見箱に記載していますが、今一度確認をしましょう。今回は魚介がメインです。野菜もあるにはありますが」

 

 買い物リストを取り出した美女────豊受大神(とようけのおおかみ)が今回買い付ける品物を再度確認し始めると、馬鹿共三人はすぐさまメモ帳を取り出して自分の書き留めが間違っていないかを確認し始めた。

 

「今回の狙いは春が旬の魚介類。サザエ、アサリ、真鯛、桜エビ、サクラマス、メバル、ホタルイカなどが好ましいです。ミナミマグロも水揚げされているかと」

 

「豊受様、アオリイカは?」

 

「そちらは先日天照がご自分で釣りあげているので問題ありません」

 

(((天照釣り日誌……)))

 

 空の向こうで無表情ドヤ顔ダブルピースをかましている天照大御神の姿を幻視した馬鹿共三人を尻目に、豊受大神は続ける。ちなみに巡達の前世では討魔のスピンオフ作品として、天照釣り日誌というコミックが発売されていた。相も変わらず手広くやっている。

 

「野菜は私が買い付けますが、お三方には魚介類を購入してもらいます。時間は有限です。始めましょう」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 日が昇っていない時間帯だというのに、この市場は活気づいている。

 それもそのはず。この市場は日本の各地に存在している市場の中でも規模が大きい市場であり、一般人も利用できる市場の奥に、戦士が利用できる市場が用意されているのだ。プロの戦士や、彼らに装備や霊薬など、ダンジョン攻略や百鬼夜行に必要になる品がここに集まるため、多くの商人、多くの戦士が朝早くから集まっている。

 

 集まる人間の中にはもちろん、戦士を副業にして、メインの仕事を務めている戦士もいる。

 

「おお! 坊主じゃねぇか!」

 

「あ、重錨さん。おはようございます」

 

「元気そうじゃねえかよ、ええ!?」

 

「おかげさまで」

 

 水揚げされたばかりで、宝石のように輝く魚介類が立ち並ぶ市場の一角で、ガハハハッ! と笑って巡に声をかけてきたのは重錨景吾。漁師を務めながらもプロの戦士として百鬼夜行やダンジョンに潜ることもある屈強な漢である。

 

「そちらもお変わりありませんか?」

 

「おう、見ての通り。……っと、そっちの坊主と嬢ちゃんは初めましてだな? 重錨景吾だ。坊主にはよぉく世話になってる」

 

「陽之輪遥斗です。巡から聞いてます。海の漢だって」

 

「陽之輪麗良です。先輩から聞いてた通り、鯨も一本釣りできそうな筋肉ですね」

 

「ガハハハッ!! ミンククジラくれぇなら釣れるが、船が耐えられねぇな!」

 

 ミンククジラの一本釣りができるのか、と心の中で慄きつつ、握手を交わす遥斗と麗良。斧という名の鈍器こと船のストックレスアンカーをぶん回して戦う重錨の筋力は、今活躍しているプロの戦士の中でもトップクラスなのだ。避けて殴る、という繊細な戦いは性に合わず、かと言って盾を構えるのも面倒になった重錨は、船で鍛えた肉体と、戦士として解放されたステータスを生命、持久、筋力に全振りしている超脳筋。魔法? 白鰐の力でカバーすれば良し。飛んでる敵? 何か投げれば殺せるだろ。そんな感じの脳筋なので、ミンククジラの一本釣りくらいならやれないこともない。ただし敏捷は振っていないので、速度に劣る。ただし鍛えているのでアマチュアアスリート以上、プロアスリート未満の速度で走ることは可能。なんだこの脳筋。

 

「おぅい、坊主が顔見せに来たぞ!」

 

「ん? 巡って東京校じゃなかったか?」

 

「あ、一年間京都校に編入してます」

 

「へえ! じゃあ対抗戦なんかも京都校側になんのかい?」

 

「さぁ……そもそも今年やるんですかね、対抗戦」

 

 外道法師によって滅茶苦茶になった文化祭と対抗戦。あんなことがあった中で大きなイベント開くのはリスクなのではないか────巡がそう考える中、重錨は口を開く。

 

「だからこそやるんじゃねぇか? 暗い話題を吹っ飛ばすような祭りってのは、いつでも必要だからよ」

 

「慰霊祭を派手にやるところもあるらしいですしね。どこだっけ……ギリシャ?」

 

「ああ、トロイア祭り」

 

 思い出したように遥斗が呟く。

 この世界では現実世界には存在しないような祭りがたくさん存在している。例えば遥斗と麗良が少し前までいたギリシャではトロイア戦争で活躍し、そして死んでいった英雄達を偲び、そして称えるための盛大な祭りが開催される。イギリスではアーサー王を含めた騎士達を称える祭りなど……戦士の祭りが盛大に催されるのだ。

 

 そんな祭りが、日本であれば討魔学園の学園祭を含めて各地で行われる。通常の裸祭の他に、戦士が走る裸祭も存在する。まぁ、とにかく祭りで溢れ返っているのがこの世界である。日本には年がら年中何かのイベントが行われている神社もあるのだから誤差だろう。

 

「ま、先のことを考えても仕方ねえさ。坊主達は何か買いに来たんだろ? 目先のことから片付けて行こうや」

 

「あ、はい。ちょっとしたお使いで海産物をいくつか」

 

「へぇ? 見せてみな」

 

 重錨に促されて買い物リストを見せると、ふむふむと頷く漁師達。

 

「真鯛とメバルは水揚げしたな」

 

「インドマグロは……別船が釣ってたはず」

 

「サザエとアサリは貝専門の漁師が向こうで売ってたはずだ」

 

 あれはあっちで売っていた、これはこっちで売っている────メモ帳に売り場を記載していく漁師達。メモを追加すること数分、詳細な買い物リストへと変化したメモ帳に馬鹿共三人は「おお……」と感嘆の声を上げながら財布を取り出す。

 

「とりあえず真鯛とメバルお願いします」

 

「あ、クーラーボックスあります」

 

「可能であれば内臓だけ分けてお願いします」

 

「はい、毎度!」

 

(((捌くの速くない?)))

 

 後ろで魚を下ろしていた女衆の魚の捌く速度に若干驚きつつ、目標の品を二つ確保した馬鹿共三人は重錨達に頭を下げて次の目標へと突き進んでいく。

 

「じゃ、俺マグロ買ってくるわ」

 

「じゃあ俺は貝類」

 

「私がホタルイカですね。可能なら桜エビも買っておきます」

 

「「「じゃ、一時間以内にシャボンディ諸島で」」」

 

 役割分担によって、用意するべきものを効率よく集めんとする三人の動きに迷いはない。討魔における豊受大神のお使いクエストは制限時間があれど、報酬が確定でうま味だったために余程のことがなければRTAでも受注するクエスト。バグ、グリッジ有りのRTAではアイテムの大量購入や値段交渉などのいくつかの操作やギミックに着目、数フレームの間に特定の操作や行動を起こすことで『(無)』を取得してゲームクリアまで行くというとんでもないチャートを組んでいる人間もいた。

 

 ちなみにこのクエストで獲得できるのは無だけではない。豊受大神の料理によるクソデカバフをしばらくの間獲得できたり、アイテム及び装備の購入、売買の価格が変化するスキルを獲得可能である。戦闘に直接関係しないスキルではあるが、周回ゲームにおいて金欠など当たり前。細やかな節約が大切なのだ。

 

 そんな切実なスキルのことを思い出しつつ、弟分と妹分と別れた巡は比較的大きなマグロを数尾見つけ、どれを購入するべきかと考えていた。

 

「うーん……どれにすべきか……」

 

 鮮度は間違いなく良いものばかり。となればどのマグロが一番脂の乗りがいいのかという話になってくる。とはいえ、そういう目利きができるほど魚に詳しくないのもまた事実。戦士の嗅覚や視覚をもってしても、目利きというのは難しいものである。

 

「うーむ……うーむ……」

 

『昔はマグロよりカツオが人気だったな』

 

『む? 禍津日神よ、日ノ本の人間は何でも食べるという印象があるが……違ったのか?』

 

『いや、何でも食べるんだがよ? 昔はほら、保存がよ。魔法があるとはいえ、魔法だって一般的なもんじゃねぇ。塩漬けにするとマグロは味がな』

 

『ふむ。西洋ではマグロの塩漬けは比較的ポピュラーだったが……なるほど、文化も気候も違えばそうもなるか』

 

『それに、マグロはデカいがカツオはそこまでだ。生け簀に入れておける』

 

『なるほど。4メートルを超えることもあるマグロは確かに鮮度を保つのが難しいな。大きければ加工も一苦労だっただろう』

 

 巡が玉ねぎのような唸り声をあげて悩む中、荒神と怪魔兼神が雑談に興じる。手伝え、などと巡が言うことはない。禍津日も、ゲリュオンも、最悪なタイミングで喋るクリュサオルも、魚の目利きなどできないのだ。サンマが精々である。

 ゆえに助けを乞うても期待できないので、口にするだけ無駄であるし、神々もそれは理解しているので手伝いに名乗り出ることはない。

 

(しかしここで唸っていても解決しないのも事実……当てずっぽうでもいいから買っておくか)

 

「すいません、このマグロ一尾────」

 

「あ~、それよりこっちを買った方がいいよぉ~」

 

 巡がマグロを購入するべく口を開いた直後、空気が弛緩してしまうような緩い声が響く。

 

「……おん?」

 

「そっちはちょっと小ぶりで脂が少ないからさっぱり系なんだけど~、こっちは脂が乗っててちょっとこってり系なんだぁ~」

 

 ポヤポヤと気が抜けるような声の主は、気付かぬうちに巡の隣に立っていた。

 巡が横を見れば、いつの間にか立っていた美少年と呼んで差支えの無い、ほっそりとした美形。潮風を浴びたのかモサモサしている髪や、モコモコとしたダウンジャケット────のようにみえるライフジャケットを装備した、大海原を思わせる青い瞳の美少年はニコニコと笑いながら巡に問いかける。

 

「どっちがいいかは好みだけど~、天照ちゃんはこってり系をご所望かなぁ~」

 

「……あんた、どっかの神様で?」

 

「そうだよ~。まぁ~、今のところはただの釣りバカだけどね~」

 

 自分のことを釣りバカと言って笑う美少年は、ちらりと巡の後ろにいる神────禍津日に目を向けた。

 

「禍津日ちゃんも久しぶり~。相変わらず娯楽に生きてそうな顔してるねぇ~」

 

『褒めてるんだよな?』

 

「褒めてるよぉ~。同じ趣味神だしねぇ~。親近感~」

 

 わはぁ~、と緩く笑っている美少年こと神が何者かと思考を高速回転させた巡は、その口調でとんでもないことや遠慮のない言葉を口走る神に当たりをつけて呟く。

 

「………………釣りの成果を対価なしに乞うやつは?」

 

「それを餌に何匹釣れるかなぁ~」

 

「………………………………綿津見神様ですか?」

 

「そうだよぉ~。初めましてぇ~。あ、さいん貰ってもいい~? 豊玉(むすめ)が君のふぁん? なんだって~」

 

「神の推し活かぁ……」

 

「趣味は大事だよぉ~」

 

 緩くて気が抜けるような顔をしているが、そんな顔でとんでもないこと、えげつないことを口走ることで知られる海の神、綿津見神がなぜか市場にいた。豊受大神がいる時点で誤差? それはそう。




豊受大神
天照の食事担当。この世界では月読の料理も作っているし、たまにフラッと帰ってくる素戔嗚の飯も作っている。ちなみに天照、月読、素戔嗚の仲は良好。日本の神々の合言葉は「のっとタダ働き、のっと残業、のっとやりがい搾取。使い切れ有給」。豊受大神も例に漏れることなく有給をしっかり消化している。繰り返す、サビ残を抹殺せよ。繰り返す、サビ残を抹殺せよ。

綿津見神
釣りの成果泥棒を釣り針に刺して魚を釣る暴挙を平然とやるやべぇやつ。日本で密漁が起きない、起きたとしても密漁者が海の藻屑となるのはこの神様のせい。それと定期的に日本の海を巡回している三大怨霊の一人のせい。
素戔嗚尊が「そこそこで勘弁してやれよ……」と宥めることがあったとかなかったとか。
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