働きすぎた瞬光魔術師の美味しい休暇旅行   作:毒島リコリス

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第22話 瞬光魔術師と山狩り

 村の大人たちはしばらく渋っていたが、熟練のハンターが先頭に立って、山小屋の様子を見に行くだけだ。山は広いので、出くわさない可能性の方が高い。

 

 俺も少し心配ではあったが、リリーは影蔓の一件で、自衛程度ならできることは確認済みだ。

 最終的には、これから魔術師になるのなら現場経験を積ませるのもいいだろうという結論になった。

 

「グレンは、大丈夫?」

「……はい。一応、訓練は受けてるので」

 

 以前襲われた経験から、ある程度自分の身を守れるようにハンターの技術を教わっているらしい。山の中では俺より頼りになるかもしれない。

 

 

 

 村のハンターをまとめる親方と駐在の警官を先頭に、ひと固まりになって獣道をぞろぞろと登る。

 足場の悪い上り坂を三十分も歩けば、いくら体力があっても息は上がるものだ。リリーとグレンを大人が囲むようにして黙々と足を動かし、俺は最後に続いた。

 

「小屋って、どの辺りにあるんですか?」

 

 景色が薄暗くなるにつれて不安になってきたのか、リリーが訊ねる。

 

「ここから、もう三十分くらい歩くかな」

 

 ということは、麓から一時間。途中に休憩を挟めばもっとかかるだろう。

 

「ひー、もっと体力付けなくちゃ……」

 

 目的地はまだ先だと言われて、額の汗を拭った。

 一方、相変わらず寡黙なグレンはまだ平気そうだ。首都に行ってからも、できる訓練を続けていたに違いない。

 

「身体強化はどれくらい使える?」

「ええと、学校で習った分なら、ひととおりは」

「使うと多少は楽になると思うよ。練習にもなるし」

 

 魔力の消費を抑えたい時には使わない方がいいが、今回はそれよりも列から遅れる方が良くない。

 

「使ってみます」

 

 リリーは素直に頷いて、むむむと真剣な顔になった。基礎の魔術でも、覚えたての頃は集中しないと上手くいかないものだ。

 だから反復練習が大切になる。何なら日常生活で常時使っていてもいいくらいだ。

 

 魔術が発動している時特有の気配を感じながら、異常があればすぐに対処できるよう最後尾からリリーを見守る。

 まだ発動し続けることに意識を割きすぎていて、足元の枝に躓きそうになった。グレンがさりげなくフォローした。

 

 

 

 一応は巡回ルートなので、山小屋まではうっすらと道があった。

 道中はずっと薄暗かったが、生い茂る木々の隙間から時折差し込む木漏れ日を見る限り、今日も快晴だ。本格的に気温が上がる前に下山したいところだった。

 

「着いたぞ。警戒を怠るなよ」

 

 遠くに山小屋の屋根が見えたところで、ハンターたちは各自の得物を構える。実弾のライフルが半分、もう半分が魔銃だった。

 

「……人の痕跡がありますね」

「……だな」

 

 近寄るほどに靴跡が増えていく。入り口の手前に広く開いたスペースには、たき火の跡も。

 親方は、予想が当たってほしくなかったと言いたげに小さくため息をついた。

 

「一人じゃないな……」

「ええ、予想はしていましたが」

 

 火を起こす時に周囲の落ち葉を使ったようだ。土の地面が剥き出しになっている場所が増えたおかげで、足跡がより明瞭になった。

 大きさや靴跡の種類から推測するに、おそらく四人。

 

 小屋の脇に、食べかすの骨や野菜くずも転がっていた。盗まれた家畜が短期間に一人で消費できる量ではなかったことから、複数犯の可能性は初めから考えていた。

 

「まずは、中を確認して――」

「待ってください。少し相談があります」

 

 小屋に乗り込みかけたハンターたちを制止する。全員を集めて、小声で打ち合わせを行った。

 

「そいつは本当か?」

「おそらく。……それに関しては俺がやります。皆さんはその後の処理をお願いします」

「でも、それじゃタキさんが危険なんじゃ……」

 

 単独行動を提案した俺を、リリーが心配する。

 

「大丈夫。いざとなったらムーもいるから」

「ムー」

 

 空気を読んでいるのか何か勘付いているのか、任せろと言いたげなムーの鳴き声も小さかった。

 

 

 

 そして打ち合わせどおりに、小屋を背にしてリリーとグレンを内側に庇うような形で半円の陣形を組む。

 俺はその前で地面に手をついて、呟いた。

 

「いきます。――【解体(ディソルティオ)】」

 

 パキンと澄んだ音がして、山小屋を中心に地面が光った。

 

「くそっ」

 

 途端、木の陰や枝の上など、今まで何もなかった場所にフードを被った人影が複数現れ、舌打ちをして逃げに転じた。

 

「本当にいた!」

 

 ハンターたちは、敵に魔術師が混ざっていることと、幻覚魔術の式を敷いて身を隠していることを伝えた時には半信半疑だった。実際に目の当たりにして驚いている。

 それでも陣形を崩さず、銃を構えて警戒態勢をとった。打ち合わせどおりだ。

 

 おそらく敵は姿を見られたら散り散りに逃げるだろうが、それを追ってこちらも散ると危険だ。

『敵が魔術師であることを前提に制圧するので、それまでは子ども二人を守って小屋の前から動かず、できる範囲で援護してほしい』と頼んでいた。

 

「逃がすか。【雷矢(トニト・サジッタ)】」

「ぐあっ!?」

 

 (アルクス)を手に、屋根から飛び降りて逆方向に逃げようとした人影のふくらはぎを射抜く。

 

「【封印(シグナトゥス)】」

 

 立て続けにもう一本打ち込む矢には、魔術を封じる式を組み込んだ。大学部でも希望しなければ学ばない魔術だが、急襲部隊の任務には欠かせない。

 

 流れ作業で、木の上を移動する別の人影も同じように射落とした。急に魔術が使えなくなり、地面に落下して呻き声を上げる細身の人物は女だった。

 

 その横を通り抜け、どたどたと逃げる恰幅のいい男を追う。

 

「近寄るな! 【火刃(イグナ)】!」

「【水刃(アクナ)】・【(ウェントゥス)】」

 

 火と水がぶつかったところから上がった水蒸気を、風で男の頭に纏わせた。熱風が顔にかかった上に視界を奪われて悲鳴を上げている隙に、縄で縛って封印をかけた。

 

 思ったとおり、ここまで三人とも魔術師だ。

 気配を見る限りあと一人、と該当の方向を振り返ったら、遠くを走っていた男が親方に肩を射抜かれた。バランスを崩して斜面を転がり、幹にぶつかって止まる。

 動かなくなったところを見ると、衝撃と痛みで気絶したようだ。

 

「いい腕だ」

「ムー!」

 

 今回は出番がなかったムーも、フードの中で感心している。

 念のため近寄って縄をかけ、封印を施す。もう大丈夫という合図で手を挙げると、ハンターたちはようやく陣形を崩して、四人の魔術師の回収を始めた。

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