気絶している男はさておき、他の三人からは話が聞けそうだった。
「お前たち、何者だ?」
目深に被っていたフードを剥がして全員の顔を確認し、中でも一番年長に見える中年の男に訊ねる。
「……」
三人は俺と、俺の後ろで銃を構えて威嚇しているハンターたちを睨み付けたまま、押し黙っていた。
仕方ないので別の切り口から推測することにする。
「親方さん、家畜や畑の被害はいつ頃からでしたっけ」
「二、三週間前からだな」
「つまり、人目に付かずにしばらく留まらなければならない理由があったってことですね」
何かを探していたか、あるいは待っていたか。
「揃いの服を着ているからには、全員に同じ目的がある団体なんだろう?」
今でこそ髪も髭も伸び放題でぼろぼろだが、元の身なりはそれなりに良さそうに見える。俺たちを殺さずに逃げることを優先したことからも、元から犯罪組織というわけではない。
「宗教か?」
すると、目を合わせないようにしている男たちの肩や瞼が微かに動いた。
「……まあ、ここにいる誰にも心当たりがないということは、名のある神ではないんだろうが」
「愚弄するな! グロリア様の崇高なお考えが凡人に理解できるわけがなかろう!」
わざと挑発すると、予想どおり女がキャンキャンと吠える。
「グロリア様?」
「そうだ! グロリア様は我々【魔法使い】に役目を与えてくださった! 貴様のようなまがい物とは違うのだ!」
魔術師ではなく、魔法使い。魔術が体系化される以前の古い言い方だった。
「黙れ、もう喋るな!」
リーダーと思しき男が慌ててぴしゃりと叱りつける。女はただの末端信者だが、男はある程度事情を理解している立場のようだ。
「ムー……!」
フードから顔を出して肩に移動してきたムーが、男の顔を見るなり低く唸り、毛を逆立てて威嚇した。
「ヒカリヌシ様……!」
その姿を見て、男が目を見開く。
「ムー、もしかしてお前を監禁してたの、こいつらか」
「ムー」
『ヒカリヌシ』というのはどうやらムーのことらしいが、毛玉に様付けとはどういうことだろう。
「馬鹿な、あの屋敷から外に出られるわけが……」
「やっぱりお前たち、エルダリスの廃墟にいたんだな。幽霊騒ぎのせいで居づらくなって、ほとぼりが冷めるまで山に潜伏することにしたんだな?」
「おい兄ちゃん、どういうことだ?」
親方が口を挟んだ。男たちに聞かれないように一度離れて、ムーと出会った経緯を簡単に説明する。
「……なるほど。エルダリスから逃げてきた連中ってことか」
カルディナは人口こそ少ないものの、エルダリスとグラニスの通り道だ。俺のように泊まりがけで観光する者はいなくても、補給や休憩程度に立ち寄る者はいる。
「思ったよりも潜伏が長期化して、資金が尽きたんでしょう」
持っていた金では四人分の食料を賄えなくなり、盗みを働く羽目になったのだろう。
フードを被っているとあからさまに怪しいが、揃いの白いローブを脱げば一般人だ。村人たちの記憶にもさほど残らなかったに違いない。
「まあ、最低限の聞きたいことは聞けました。エルダリスの事件と関係があるようですから、あちらの警察に身柄を引き渡すのがいいでしょう」
妙な話を一般人にあまり聞かせると、命を狙われる可能性がある。あとは然るべき場所と手段で情報を引き出すべきだ。
「そうだな。おい、こいつらを麓に下ろすぞ。お前ら、大人しく立って歩――」
親方が指示を出す最中、リーダー格の男の内側から強い魔力の流れを感じた。
「全員離れて!」
「グロリア様、万歳!」
急いで盾を分厚く展開した瞬間、男が叫び、山の中に爆発音が響き渡った。
「ひっ」
「二人とも、見るな!」
盾の向こうに飛び散る血しぶきができる限り見えないように、リリーとグレンの頭を抱く。
「自爆……?」
古代魔術を発動したと思しき男は、上半身が完全に吹き飛んでいた。
ハンターは魔物や動物の死骸には慣れていても、人間の死体に出くわすことはそうない。親方は眉をひそめた程度だったが、若い何人かは気分が悪そうにしている。
「魔術は使えなくしたんじゃなかったのか?」
「……迂闊でした。古代魔術使いが関わってるってわかってたのに」
「どう違うんだ」
現代魔術と古代魔術の仕組みは共通している部分も多いが、現代魔術の
そこを突いて何らかの魔術を使われる可能性は考えていても、まさかこのタイミングで自爆するとは思わなかった。
「あらかじめ体内に魔術を仕込んでいたようです。……自分で仕掛けたものじゃないと思います」
男自身が古代魔術使いなら、もっと早く、別の魔術を使って逃げ出しているはずだ。おそらく発動条件を教わっただけだろう。
――現代魔術と古代魔術の違いを熟知していて、捕まったら封印魔術を使われることがわかっている奴が背後にいる。また、サリに知らせておくべき案件が増えた。
「とにかく、一旦下山しましょう」
「ああ……」
まずはショックを受けているリリーとグレンを家に帰すべきだ。死体にはひとまず小屋の中に常備している雨よけのシートをかけて、速やかに山を降りることになった。
「……何なんだ、グロリア様って」
「ムー」
ムーに聞いてもわかるわけがない。監禁されていた時のことを思い出したのか、鳴き声に元気がなかった。
人の名前か、神の名前か。とりあえずろくでもないものであることは確かだが、今はまだ情報が少なすぎる。