働きすぎた瞬光魔術師の美味しい休暇旅行   作:毒島リコリス

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第24話 瞬光魔術師の呪い

 麓に戻ったハンターたちは、ひとまず処理が終わるまで山に入らないよう、村人への注意喚起を行うそうだ。

 と言ってもこの時間は誰も在宅していないため、手分けして周知して回らなければならないらしい。

 

 村民に顔が知られていない俺が連絡を手伝っても逆に怪しまれるので、任せることにした。

 その間に俺は、顔色が優れないリリーを家まで送る。はじめは彼女も大人たちを手伝うと主張したが、いいから帰れと断られていた。

 そしてグレンはというと、こちらも手伝いを断られた後、一人で家に帰ってしまった。後で様子を見にいこう。

 

 

 

 グレンの家とそう変わらない作りの素朴な民家には、誰もいなかった。

 

「生きてる動物が相手だから、毎日餌やりも乳搾りも必要だし、休みって特にないんです」

 

 チーズが美味しいと言った時に嬉しそうにしていたとおり、リリーの家は酪農家だそうだ。

 

「大変な仕事だな……」

 

 内容がまったく違うので比べることではないが、替わりの人材がいて、一応休日が設定されている公務員という身分は、まだ良い方なのかもしれないと思ってしまった。ほとんど思いどおりにはいかなかったが。

 

「上がってください。タキさんも歩き通しで疲れてるでしょう?」

「じゃあ、少しだけ」

 

 水をもらい、ダイニングで少し休むことにする。対面に座ったリリーは、小さくため息をついた。

 

「大丈夫?」

「はい……」

 

 口では頷いても、やはり元気がない。

 他の大人たちと協力して、二人にはできる限り現場を見せないようにはしたものの、人体が弾け飛ぶ瞬間は見てしまったようだ。

 

「ムー」

 

 俺の肩からテーブルに飛び降りたムーが、俯くリリーの前にスススッと寄っていく。

 

「ムーちゃん、慰めてくれるの?」

「ムー」

 

 添えた手に擦り寄った。おかげでリリーの表情が少し緩んだ。

 

「……こういうケースはほとんどないけど、魔術師になるなら、今後全くないとは言えないよ」

 

 俺がここまでそうだったように、魔術師は魔物が出た場合の保険として同行を求められることが多い。

 しかし一見魔物の仕業に見えることにも人間が関わっていることが多く、法の外にいる者に出くわすパターンはそれなりにある。

 そうでなくても、ゴースト現象の発生地に行ったら死体があったなんて話は、魔術師なら一度は経験すると言われるくらいだ。

 

「周りに言われたからって、絶対に魔術師にならなくちゃいけないわけじゃない。魔術の勉強自体は他のことにも役立つし……」

 

 ただのお節介だ。でも彼女の様子を見ているとどうしても、それがお前の役割だと押しつけられてきた自分の人生を重ねてしまう。

 

「他にあたしができることなんて」

 

 今までずっと明るかったリリーが、泣きそうに見えた。

 

「……小さい頃、魔物に襲われたことがあるんです。勝手に山に入って」

 

 突然、ぽつりぽつりと話しはじめた。ペンションの女将さんが言っていた事件か。

 

「よく無事だったな。大人が来てくれたの?」

「いいえ。それまで使ったこともなかったのに、勝手に魔術が発動したんです」

 

 子どもが強い感情やショックにさらされた拍子に魔術を暴走させてしまうのは、時々聞く話だ。

 

「でもその前に、グレンがあたしを庇って大怪我して」

 

 今でも背中と足に大きな傷が残っているという。

 

「あたしが悪いんです。グレンには止められたのに。その時の怪我のせいで、グレンはスポーツ選手になるっていう夢を諦めなくちゃいけなくて」

 

 とうとう、リリーの目からぼろぼろと涙が零れはじめた。

 

「だから、あたしだけやりたいことをするなんてできません。せめて村の役に立たなきゃ……」

「……そんなこと考えてたのか」

 

 急に背後から声がした。少し眉をひそめたグレンが立っていた。

 

「グレン! 聞いてたの?」

「……ごめん。様子を見にきたらちょうど聞こえた。……俺は別に、リリーのこと恨んでない」

 

 ずっと、静かに見守っているだけだった男が、珍しく自発的に話しはじめた。

 

「足は、リハビリすればスポーツしても問題ないくらいになるって言われてたんだ。それをしなかったのは、俺が選んだことだから」

 

 その時に、危うい幼馴染のそばにいて守ると決めたのかもしれない。

 

「今は家の手伝いも嫌いじゃないし、兼業のハンターになるのもいいと思ってる」

 

 普段は別の仕事をしていて、大がかりな狩りの時や、今回のように人手が必要な時にだけ稼働する兼業ハンターというのは、意外と多いらしい。

 確かに自然が相手だから収穫がない日もあるだろうし、狩りの収入だけで暮らすのは大変そうだ。

 

「……それよりも、俺のせいでリリーが何かを諦めたり、苦しんだりする方が嫌だ」

「グレン……」

 

 ずっと一緒にいたくせに、ここに来てようやくきちんと話ができたようだ。

 俺はテーブルに頬杖をついて、にやにやと笑いながら試しに聞いてみた。

 

「リリー、本当はパティシエになりたいんじゃない?」

「え!? なんでわかったんですか?」

「わかるよ、あれだけ楽しそうにお菓子の話されたら。知り合ったばかりの俺にわかるくらいなんだから、グレンもとっくに気付いてる。たぶん村の人たちも」

 

 リリーはまだ涙の跡が乾ききらない顔でぽかんと口を開けて、グレンを見た。グレンはスッと目を逸らした。

 

 

 

 心の傷は残るものの、今まですれ違い続けていた様々な誤解が解け、リリーは少し元気を取り戻したようだった。

 

「なんだか、タキさんには本当にいろいろお世話になっちゃった」

 

 涙を拭いて鼻をすすり、今更恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「そうだ、何か食べたいお菓子ないですか? お礼に作ります」

「いいの? うーん、食べたいものか……」

 

 遠慮できる雰囲気ではない。しばらく考えて、ふと思いついた。

 

***

 

 リクエストしたら、時間がかかるからまた後で来てくれと追い出された。グレンは手伝えと言われて引き留められていた。リリーの尻に敷かれる未来が見えた。

 

 これはもう一泊コースだなと諦めて、ペンションに続く坂をもう一度登る。

 中に入ると、既に女将さんのところにも連絡が回っていた。となると。

 

「村のことを手伝ってくださったせいで、出発が遅れたんでしょう? 宿泊費のことは気にせず、好きなだけゆっくりなさってください」

 

 女将さんはあわあわと手を振って、今朝まで泊まっていた部屋の鍵を押しつけるように手に握らせてきた。

 

 ――やっぱり呪いかもしれない。滞在費と引き換えに事件に巻き込まれる呪い。

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