働きすぎた瞬光魔術師の美味しい休暇旅行   作:毒島リコリス

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第26話 瞬光魔術師と行方不明事件

 カルディナからグラニスに行くには、山道を魔導車で数時間走らなければならない。

 距離だけで言えばエルダリス間より近いのだが、道が悪いため速度が出せないことや、安全を考慮して休憩を多めに挟む必要があるそうだ。

 

「大変ですね、配達するのも」

 

 車両を傷つけない程度には整備されているものの、大きな木の根や岩、などの都合で、時々大きく蛇行する。

 しかも、大型の対向車が来たらすれ違う時に気を遣いそうな道幅しかない。

 

「ええ、山を掘ってトンネルを作る計画があるそうなんですが、いつになることやら」

 

 快く助手席に乗せてくれた運転手は苦笑した。彼は週に三回、往復で六回もこの険しい道を通っているということになる。

 

「てことは、グラニスの方が交流が盛んなんですか?」

 

 エルダリスとは町を跨いだ事業を行うのが難しいと聞いていたが、こちら側は話し合いが進んでいるということだ。

 

「大昔はグラニスの一部だったらしいので、エルダリスよりは交流があるかもしれませんね。文化も似てますし」

「なるほど」

 

 ということは、引き続き美味しい乳製品にはありつけそうだ。

 

「グラニスに、面白い観光地はありますか?」

「それなら、古いお城がありますよ。観覧料を払えば中を見学できたはずです」

「いいですね、行ってみます」

 

 魔法生物学者のトルテに会ってムーの正体がわかったら、ゆっくり観光しよう。今までの町は、あまりゆっくりできなかったから。

 

 

 

 ――と思ったのに。

 

「え? トルテさん、いないんですか」

 

 グラニスに着いて今日のホテルを取ると、すぐにサリから聞いた住所を尋ねた。するとトルテではなく若い女性が応対した。

 

「ええ、もう三日ほど帰っていなくて……」

「仕事か何かですか?」

「……いいえ、何も聞いていません」

 

 女性は目を伏せて暗い顔で首を振った。これはただの不在というわけではなさそうだ。

 

「良ければ、詳しく聞かせていただけませんか」

 

 そっと警察官の身分証を見せると、女性は口を押さえた。

 

「……中へどうぞ」

 

 目が潤んでいた。本当は誰かに相談したかったのだろう。

 

「失礼します」

 

 話が早くなって助かるが、身分証は念のため持ち歩いていただけだったのに、こんなに頻繁に人に見せる羽目になるなんて。

 

 

 

 元大学教授の住まいだという割に、住居はこぢんまりとしていた。今までの俺と同じで、仕事にかまけて住まいに頓着しないタイプと見た。

 

 もちろんというべきか、応接間のような部屋もないらしい。ダイニングに案内され、澄んだ緑色のお茶と茶菓子を出された。

 

「ところで、あなたは?」

 

 知り合った時、トルテは独身だったはずだ。目の前の女性は見たところ結婚指輪もつけていない。

 

「オリビアと申します。トルテさんの助手と、ハウスキーパーのようなことをしています」

 

 落ち着いた雰囲気だが、おそらくまだ二十歳前後だ。この数日ずっとトルテのことを心配していたらしく、少しやつれている。

 

「オリビアさん、トルテさんが家を空けるのはよくあることなんですか?」

「フィールドワークで出かけることはよくあります。でも、行き先を伝えずに何日も帰ってこないのは初めてです」

 

 つまり、何らかの事件か事故に巻き込まれている可能性が高い。しかし、大の大人が数日帰ってこないくらいでは、警察も事件性を判断できない。

 

「連絡もないんですね?」

「はい……」

 

 着いて早々に厄介事に出くわすなんて。観光どころではなくなってしまった。一瞬だけ天井を仰いだが、オリビアさんを不安にさせないようすぐに視線を戻す。

 

「彼が行きそうな場所に、心当たりはありませんか?」

「よく利用するホテルや、定期観察に行く地域のレストランにも確認してみたのですが、来ていないということでした」

 

 そこまでしているとは、あの風変わりな男の助手を務めているというだけあって優秀な人材だ。

 

「ただ、少し気になることはあります」

 

 と言って、オリビアはテーブルの端に置いてあった新聞を引き寄せた。

 

 一面の端に掲載された記事を指さす。

 

「……『誘拐殺人事件』?」

 

 縁を切りたい物騒な単語がずらずらと並んでいた。

 

 新聞によると、最近グラニスで行方不明事件が複数発生しているらしい。

 その中の一人が先日無残な姿で発見されたため、警察が本格的な調査に乗り出したという内容だった。

 

「トルテさんは確か今、二十八歳でしたか」

「はい」

 

 殺された被害者と、現在の行方不明者に共通点はほとんどない。強いて言えば若者や子どもが多いというくらいだ。

 

「ここに書いてある被害者や行方不明者よりは多少年齢が高いですが、行方不明事件が頻繁に起きているとなると、無関係と断定するのは早計ですね」

 

 むしろ町の中だけで行方不明者が複数出ている時点で、関係があるという線で捜査した方が良さそうだ。

 

「トルテを、探していただけるのですか?」

 

 オリビアさんは今にも涙が零れそうな目で、身を乗り出してきた。どうにも、彼女にはトルテに対して助手以上の感情がありそうだ。

 

「ええ、今は休暇中なので、できる範囲での調査にはなりますが」

「ありがとうございます!」

 

 とうとう泣き出してしまい、なだめるのに苦労した。

 

 

 

 確かトルテに以前会った時、珍しい魔物を調査するために、対象の状態を鑑定するような魔術を習得したと言っていた。

 見つけ出せたら、俺が本当に呪われているか確認してもらった方が良さそうだ。

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