働きすぎた瞬光魔術師の美味しい休暇旅行   作:毒島リコリス

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第27話 瞬光魔術師の情報収集

 気が進まない。

 大変気が進まないが、早くトルテを見つけるためには警察が今どこまで掴んでいるのか、最新の情報が欲しい。

 

 というわけで、オリビアさんに本部の場所を聞き、仕方なくグラニス警察を訊ねることにした。

 

「例の誘拐殺人事件の担当者ですか?」

 

 受付で応対してくれた制服の警官は、案の定怪訝な顔をしていた。

 

「はい、少しお話を伺いたくて」

 

 できれば大事にしたくないので、ほとんど諦めながらもまずは身分を明かさずに聞いてみる。

 

「そうは言われましても……。今は全員、捜査のために出払っておりまして」

 

 死者まで出ているのだから、当たり前か。

 上は警察の威信に関わる事態にやきもきし、下をせっついているところだろう。地域が変わっても組織の姿は変わらない。

 

「ですよね……」

 

 ホテルに帰りたくなった気持ちを押し留め、地域性が感じられる材質の天井を見上げたら、不信感を隠さないジトッとした目つきで睨み付けられた。

 

「雑誌の取材でしたらお断りしておりますが」

 

 おそらく、既にゴシップ誌から面白おかしく書き立てられているのだろう。悪あがきはやめた。

 

「すみません、申し遅れました。私はこういう者です」

 

 身分証を見せると、階級と家名を見てぎょっとした後、眉をひそめて写真と俺の顔を交互に見る。

 

「……本人ですか?」

 

 身分証の偽造を疑われているようだ。そういえばリリーとグレンからも、ポスターと雰囲気が違うと言われたのだった。

 

「髪型が違うとわかりづらいですか?」

 

 整髪料を付けていないのでまったく同じにはならないが、写真に近付くよう髪を掻き上げてみせる。

 

「へあ……!?」

 

 途端に警官は変な声を出し、眉間の皺が薄れて目と口が開いた。

 

「失礼しました! こちらにどうぞ!」

 

 椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった警官に、カウンターの奥に招き入れられる。

 他の警官たちが何事かと見る視線が痛かった。

 

 

 

「いやあ、事前にご連絡くださればお迎えに上がりましたのに!」

 

 揉み手をしている中年男性は、グラニスの署長だそうだ。

 

「お忙しいでしょうから、お手を煩わせたくなかったんです」

「ご配慮痛み入ります!」

 

 署長室の応接スペースに通され、お茶と一緒にそこそこ高級そうなチョコレートが出てきた。

 ここで食べなければ、オリビアさんのように包んで持たせてくれるということはなさそうだ。残すという選択肢はないのでタイミングを見計らいたい。

 

「リントヴルム警視のご活躍は、グラニスにもしっかり届いておりますよ。若くして急襲部隊を率い、立派にお父上の跡を継いでいらっしゃると」

 

 思ったとおり、地方警察では俺自身の名前よりも、警察総監の息子という身分の方が効いていた。

 久々に嫌な敬意の払われ方を味わって鳩尾の辺りがギュッとなったが、情報を手に入れるために我慢だ。

 

「そう畏まらないでください。見てのとおり、私的な事情なんです」

 

 カジュアルな格好をわざと見せびらかす。ムーにはフードの奥に隠れるよう言っておいたので、多少不自然な膨らみはあっても外側からは見えないはずだ。

 

「知り合いに頼まれて、休暇を使って個人的に動いているだけですから――」

「お休みにもかかわらず事件の解決に協力してくださるとは! ありがとうございます!」

 

 どうしよう、話が通じない。

 

「……とにかく、公私混同にはなるのですが、事件の資料を拝見できないでしょうか」

「もちろんです! 何でしたら、本日の捜査会議にご出席されますか!?」

「いや、そこまでは」

「まあまあ、ご遠慮なさらず!」

 

 スムーズに情報が仕入れられそうで助かるものの、部外者をこんなにホイホイ招き入れて大丈夫か、グラニス警察。

 

 

 

 会議に参加するかはさておき、とりあえず捜査本部が立っている会議室に入れてもらい、事件の資料を確認することにした。

 

 ちなみにチョコレートは、話が一段落した瞬間にさりげなく食べることに成功した。

 予想どおり香りとカカオの風味が強い高級品で、しっかりとした味わいだった。小さくても満足感が高いのが、チョコレートの良いところだ。

 

「すみません、お忙しい時にわがままを言って」

「いえいえ、構いません」

 

 見知らぬ若者が偉そうにしているものだから、時折出入りする捜査員たちが胡乱げな視線を向けてくる。

 別の捜査員からひそひそと事情を耳打ちされては、二度見して遠巻きに眺めるまでがワンセットの仕草だった。

 

「遺体が発見されたのは昨日の夕方です。被害者は一週間前から行方がわからなくなっており、家族から捜索依頼が出ていました」

 

 凄惨な写真だった。若い女性が仰向けで草むらに倒れており、胸元が大きく血に染まっている。

 

「……傷口が、抉られているように見えますが」

「……はい、心臓がなくなっていました」

 

 思わず眉をひそめた。何のためにそんな猟奇的なことを。

 

「関連があると思われる行方不明者は、他にもいるんですよね?」

「念のため、届けが出されている行方不明者は全員リストアップしております」

 

 年齢順、届け出順に並べられたリストをざっくりと眺める。確かに、最近になって二十代以下の行方不明者が急激に増えていた。

 

「殺人事件の被害者と、ここ一ヶ月の行方不明者のプロフィールと届け出の内容、彼らに関する調査報告書を見せてください」

 

 すると、捜査員たちが顔を見合わせてざわつく。

 

「何か?」

「……ひと月分の情報を、今から全て確認するおつもりですか」

 

 代表して、署長がそう訊ねた。

 

「はい」

 

 今回の俺の第一目的はトルテ探しだ。

 被害者、行方不明者との些細な共通点がないか、あるいは攫われた場所から監禁場所やアジトが特定できないか。手がかりに繋がりそうな情報には全て目を通すべきだ。

 

「結構な量になりますが」

「リストを見た限りの量なら今日中には把握できます。お邪魔にならないようにしますから、会議室の後ろの、隅の方を貸していただけませんか」

「は、はあ」

 

 そして、借りた資料を片っ端からめくっていった。

 

「あれが【瞬光】か……」

「都会の刑事って、みんなあんな風なのか……?」

「よそから来た若いもんに負けてたまるか。先越されるなよ、気合い入れろ」

 

 かわるがわる様子を見にくる捜査員が好き勝手に言っている声を聞き流しながら、外見の特徴、年齢性別職業、生活習慣、行方不明になった日の天気やイベントまで、あらゆる情報を頭に叩き込む。

 

 夕方の捜査会議の内容にも耳を傾けつつ、全て目を通し終わった頃には外が真っ暗になっていた。

 

「あ。この辺で遅くまでやってる美味しい店がないか、署長にでも聞けばよかった……」

 

 ものすごく覚えのある疲労感と空腹で、いつの間にか仕事中の感覚になっていたことに気付いた。長年やってきたことは簡単に抜けないものだと、自嘲しながら窓の外を見る。

 

「ムー」

「ごめん、お前もお腹空いたよな」

 

 ぽつぽつと飲食店と思しき灯りがついていた。元は城下町だったというだけあって、それなりに栄えているようだ。

 

「酒……はやめとくか。でも、しっかり食べたいな」

 

 明日は、今日調べた内容に基づいて歩き回ることになるだろう。スタミナがつきそうな料理を探そう。

 

 

 

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