働きすぎた瞬光魔術師の美味しい休暇旅行   作:毒島リコリス

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第39話 瞬光魔術師と通話再び

 段取りが決まると、トルテは慌てて美容室に出かけていった。

 

「じっとしてないのはお兄ちゃんと一緒だね」

「うるさい」

 

 俺の方がまだ落ち着いていると思う。

 

 

 

 そして翌朝のまだ風が涼しいうちに、トルテによるオリビアさんへのプロポーズが改めて行われた。

 

「いい天気!」

「昨日の予報では曇りのち雨って言ってたけど、良かったな」

「うん!」

 

 もしや、昨晩ネネが『晴れますように!』と祈っていたのが効いたのだろうか。

 

 場所は古城から少し離れた丘の上の展望台だ。グラニスが一望でき、遠くには水平線がきらきらと光っている。あの手前の辺りがコンテルスカなのだろう。

 

 グラニスのカップルは古城の塔の上でプロポーズするのが定番らしいのだが、今は警察による捜査が行われているため立ち入り禁止だ。

 

 そもそも、このイベントの主役が巻き込まれた事件の現場になった場所なんて縁起が悪すぎる。

 ということで、ネネがガイドブックの中から真剣に吟味し、景色のいいこの場所に決まった。

 

「本当に、何から何までお世話をかけます」

 

 髪を切って髭を剃り、きちんと身なりを整えたトルテは、爽やかな好青年へと変貌していた。

 

「ばっちり決めてくださいね!」

「あまりプレッシャーをかけないでくださいよ」

「ふふっ」

 

 中身はいつもどおりのトルテを見て、白いワンピース姿のオリビアさんが小さく笑った。

 

「さあ、いつでもいいですよ!」

 

 ネネが写真機を構える。

 

「はいっ」

 

 いつになく緊張した面持ちのトルテが、猫背を伸ばしてオリビアさんと向き合った。

 

「……オリビア。私と結婚してください」

 

 片膝をつき、小箱に入った指輪を見せる。

 

「はい。喜んで……!」

 

 ネネはきゃあきゃあ言いながらその瞬間を撮り、左手を取って薬指に指輪をはめる瞬間もまた撮った。俺はすることがないので、隣で小さく拍手するだけだ。

 

「どうぞ! これからもお幸せに!」

 

 上手く撮れていることを確認して、ネネは写真を二人に渡す。

 

「ありがとうございます。神の加護を受けた方にそう言われると、安泰という気がしますな」

 

 もし加護を受けた者との縁で周囲の人間も加護が得られるのであれば、聖職者に多いというのも頷ける。

 

「でしょう? そういえば、私を守ってくれてる神様って何ていう名前ですか?」

「ソリオン神ですな。太陽の化身と呼ばれていて、人前にも姿を現すことが多く親しみやすい神ですぞ」

「あ、聞いたことある! 首都にも教会がありますよね」

 

 確かによく聞く名前だ。十人いれば二、三人は教徒だという者がいる、メジャーな宗教だった。

 

「太陽の神様ってことは、やっぱり私が晴れてほしいってお願いしたの、聞いてくれたのかな?」

「ありえますな! コンテルスカにも教会があるはずですから、一度行ってみては?」

「そうします!」

 

 ソリオン神はずいぶん朗らかな神のようだ。エンブラ神とやらももう少し手心を加えてくれないだろうか。

 

***

 

「っていう感じで。いろいろ大変だった……」

 

 そのまま町でデートをするという二人と別れ、ホテルからまたサリに連絡を取った。

 

「事件の情報はこっちにも来たけど、そんなゆか……難儀なことになってたとは」

「今愉快って言おうとしただろ」

 

 ことのあらましを話したら、今度は笑い飛ばすのを通り越して呆れていた。

 

「【英雄体質】ねえ。そう聞いたら、今まできみがやらかしてきたことにも納得がいくよ。さすが学者、しっくり来るネーミングをつけたもんだ」

「呪いの方がまだマシだった」

 

 もし人間がかけた呪いだったなら、相手を突き止めれば解呪できたのに。

 

「ま、せいぜい頑張んなよ。それで、こっちでわかったこと聞いとく? 『休暇中の』リントヴルム警視」

「……一応聞いとく」

 

 面白がりやがって。しかし明確な敵が現れた以上、情報はできるだけ多く知っておきたかった。

 

「高度な古代魔術を使うってことだから、学者と魔術師に絞ってみたんだけどさ。研究をしていた記録が残っている人物のうち、現在行方がわからないのは三人」

「……うち一人は、先生だろ」

「うん」

 

 俺に解体(ディソルティオ)を教えてくれた、ルーカス教授だ。警察官になってから個人的に行方を追っていたが、未だにその足取りは掴めていない。

 

「でもそのグロリアって奴は、私たちと同年代に見える男なんでしょ? てことは教授じゃないよね。そもそも、教授だったらきみがわからないわけないし」

「そうだな。他の二人は?」

「二人とも男だよ。一人は、今年三十歳になるゲイルって人。私たちが入学した歳に大学を卒業してて、勤め先を退職してからの行方がわかってない」

 

 聞きながら、最後に所在が確認できた場所をメモする。失踪する前は、公務員として首都の魔除け結界を管理する業務に従事していたそうだ。

 

「もう一人は、去年大学を卒業したばかりのディーター。先進魔術の研究者として大学に残るはずだったのに、突然姿を消したらしいよ」

「どっちも怪しいな……」

「うん。非公式に研究してる人間だっているだろうし、国外の人間かもしれないし。疑い始めたらキリないね」

 

 さすがに特定は不可能か。

 

「グロリアス教団の方は?」

「こっちも噂程度かな。ここ数年で信徒を増やしつつある新興宗教みたい。どうも、困窮している人間とか、現状に不満を持っている人間に声をかけてるっぽい」

 

 信じることで一発逆転の機会が与えられるといった口説き方をする、よくある手口だ。

 

「ただ、おかしな話があってね。……信者になると、誰でも魔術が使えるようになるっていうんだよ」

「え?」

 

 それはおかしい。魔術師の素質があるかどうかは生まれつきのもので、後天的に魔術を使えるようになることはほとんどないと言われている。

 それが宗教に入信しただけで誰でも使えるようになるなんて、まず考えられないことだ。

 

 しかし。

 

「……確かに、今まで見た教団の連中は全員魔術が使えた」

 

 グロリアの口ぶりから、魔術師の素質がある人間を集めて騎士団のようなものを作っているのかと思っていたが、全員、元は魔術師じゃなかったとしたら。

 

「さっきのきみの話を聞いてるとさ。そのグロリアって奴が本当に神の類いで、寵愛? 加護? みたいなのを受けると魔術が使えるようになるんだったりして」

 

 サリも俺と同じ考えに至っていた。ムーが神の権能を打ち消せるとしたら、光を浴びた信徒が急に魔術を使えなくなったことにも説明がつく。

 

「いや、まだ断定はできない。……それと、もしかしたらだけど、警察内部にも信者がいる可能性がある」

「ほう、詳しく」

「グロリアが、妙に俺について詳しかった気がするんだ。休職してからのことまで知ってるような雰囲気だった」

 

 目立っている以上調べるのは簡単かもしれないが、なんとなく、それ以上の正確な情報源がありそうな気がした。ただの勘だ。

 

「なるほど。まあ、いてもおかしくはないか……。引き続き調べてみるよ」

 

 と言った後、受話器の向こうからガサガサ、パリッという音が聞こえた。

 

「ポテトチップスか?」

「最近のマイブームはのりしお。ビールに合うんだこれが」

 

 そういえば、旅に出てからそういうジャンクなものを食べていない。少しだけ首都が恋しくなった。

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