働きすぎた瞬光魔術師の美味しい休暇旅行   作:毒島リコリス

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第61話 瞬光魔術師にしかできない仕事

「お待たせ」

 

 差出人が筆まめなのか、読み手が旧友に対して丁寧なのかはさておき、シフォンはたっぷりと時間を掛けて手紙を読み込んだ後、改めて俺に向き直った。

 

「なるほどね。きみ、精霊と契約したのか」

「一応、そうなっているそうです。ムー、おいで」

「ムー?」

 

 俺が必死になって階段を上っている時に、無情にもフードの中で寝こけていた毛玉は、呼ばれてそろりと顔を出した。その瞬間、シフォンの顔がぱあっと明るくなる。

 

「すごい、本当にオーリオールだ。初めて見た!」

「ムー!?」

 

 いつかのトルテほどではないものの、目を輝かせて身を乗り出してきたシフォンに驚いて、ムーはもう一度フードに隠れる。やっぱり学者というのは、いくら紳士的でも自分の好きな分野になると我を忘れるものらしい。

 

「ムー、大丈夫だ。トルテさんと同じだよ」

「ムー……」

 

 渋々といった様子でもう一度顔を出し、俺の肩に恐る恐る乗った。

 

「いやあ、すまない。手紙にも書いてあったのに、自分で改めて確認したらつい興奮してしまった」

 

 シフォンは苦笑した後、自分を落ち着かせるようにお茶を一気に呷った。

 さすがはトルテよりも幅広い範囲の生物を研究する学者だ。トルテと同じく、鑑定の魔術を瞬時に発動できるらしい。

 

「何度見ても、その魔術はすごいですね。どう見えてるんですか?」

 

 鑑定の魔術は、見たことがないものでも一瞬でその正体を把握できるらしい。普段俺が使っている魔術とは完全に別系統なため、在学中には習得できなかった。

 

「見えるというか、聞こえるというか。直接頭の中に知らせてくるというか。うーん、感覚が説明しづらいな」

 

 シフォンはもっと良い言葉があるような、と腕を組んで首を傾げた。

 

「少なくとも文字情報じゃない。ただ『わかる』のさ。その白い毛玉が人間からはオーリオールと呼ばれている光の精霊で、ファルシェン北部の山間部にある草地で発生して、今はタキ・リントヴルムと契約していて、光の精霊としての権能の他に雷の魔術を覚えていて、野菜と果物を好んで食べるってね」

 

 と、シフォンに教えていない情報に加えて、俺すらも知らなかった情報まで交えてすらすらと述べた。

 

「ボクとしては、鑑定と言うよりも検索だと思うんだよな。鍵となる言葉や視覚情報を元に、別の誰かの知識を覗き見てるような気がするんだよ」

「誰かの……」

 

 その『誰か』は、果たして人間だろうか。俺がそう思ったのと同時に、シフォンはにやりと笑った。

 

「さあ、オーリオールを見せてくれた分のお代はこれくらいでいいかな?」

「え」

「研究職ってのは何かと物入りなんだよ。中には『好きなことをやってるんだからタダでいいだろ』なんて言ってくる奴もいる。だからボクの知識や技術を求めて来る相手には、必ず対価を要求してるんだ。もちろんトルテが来たって要求する」

 

 例外なく必ずそうすることで、妙な相手が来ても諦めさせられるということだった。理屈はわかるが、そうなると少し困ったことになる。

 

「対価って、おいくらくらいですか? 今は持ち合わせが少ないんですが……」

 

 旅費を除くと、商会の護衛として働いた分の給与くらいしかまとまった金はない。しかしこれは東に向かう際に起きるかもしれない不測の事態に備えて残しておきたかった。

 

「いや、せっかく神の寵愛持ちなんていう珍しい人材が来たのに、金銭のやり取りで済ますのは面白くない。ちょっと仕事を頼まれてくれよ」

 

 そう言うと、シフォンはのんびりと立ち上がって隣の部屋に行った。

 

「仕事?」

 

 思わず身構える。

 

「魔物を一匹、捕まえてきてほしいだけさ。こいつなんだけど」

 

 戻ってきたシフォンは、分厚い図鑑を手にしていた。これ、と指で示された部分を覗き込む。そして思わず肩を落とした。

 

「ヒドゥンリザードじゃないですか……」

「お? 知ってるのか、話が早い」

 

 名前くらいは知っている。人里の近くに住み着く小型のトカゲ型魔獣だが、非常に臆病で驚いたり恐怖を覚えたりすると魔術によって巧妙に隠れるため、探そうと思ってもまず見つけられないと言われている。

 

「……本当に、教えてくれる気はありますか?」

「もちろん。大丈夫、きみは珍しい出来事を引き寄せることにかけてはまさに伝説級の、エンブラ神の寵愛持ちだぞ? それにオーリオールもいるんだ、なんとかなる! というか、きみたちに見つけられなかったらボクも食うのを諦めるしかない!」

「……食う?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえて、思わず復唱してしまった。するとシフォンは大きく頷く。

 

「ザラモールの旅人の手記に、焼いて食べたら美味かったっていう記録があったんだ。一度でいいから食べてみたくてねえ……」

 

 話しているうちに、妙にきらきらとした目で虚空を見つめはじめた。そこで俺は勘付いた。

 

「……もしかして、トルテさんにスクラヴォットの毒抜き方法を教えましたか?」

「ん? なんで知ってるんだい?」

 

 彼が『悪食のシフォン』と呼ばれているのを知るのは、ずっと後のことだ。

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