「……というわけなんですよ」
情報を探ろうにも全くアテがないので、結局昨日別れたばかりの商会に戻ってきてしまった。格好悪いとか言っている場合ではない。
「何というか、本当に苦労が絶えませんね……」
商会長は嫌な顔一つせず、手ずからお茶を淹れて話を聞いてくれた。夏でも温かいお茶が出てくることにもすっかり慣れた。
「ヒドゥンリザードの肉を珍味として取り扱ってる店とか、ご存じないですか?」
シフォンはたぶん、できれば生け捕りが良いのだろうが、最悪干物でもないよりはマシだろう。まずは仕入れられないかを確認する。
「魔獣肉の専門店はいくつか知っていますが、さすがにヒドゥンリザードは聞いたことがないですね……」
「ですよね……」
魔獣肉専門店があるというのも驚きだが、ヒドゥンリザードは小型なので、可食部が少ないはずだ。その上で探すことすら難しいとなると、もはや商売として成り立たない。
「まあ、情報くらいは持っているかもしれません。聞いてみましょう」
「ありがとうございます」
もちろん自分の足でも情報を探さなければならない。人里の近くに巣を作ることはわかっていても、姿を現さないのでその生態は謎が多い。
「廃墟とか、魔除けを埋め込むのが義務化される前からあるような、古い家の蔵によくいるって話だっけ……?」
確かヒドゥンリザードは、暗くてほど良く湿気がある、気温の低い場所に生息しているということだった。
それなら山奥の洞窟の方がいいのではないかと思うが、そういう場所は他の魔獣も好むので、弱い魔獣はよほど上手くやらなければそんな良い環境には住めない。
しかし人里のそばなら他の魔獣が近寄らず、何なら人間が撃退してくれるので好都合というわけだ。
「って言っても、壁の内側は魔物避けがあるから入ってこられないよな」
湿気の多い場所ということは、水辺だろうか。
人口の多い町の多くがそうであるように、首都のすぐ側にも南大陸有数の大きな川が流れている。首都税を払わないために壁の外で暮らしている人々がいるという話だから、その住居の近くなら、ヒドゥンリザードも暮らしやすいのでは。
とは思ったものの、
「……範囲が広すぎる」
今回ばかりは、光の速さで解決とはいかなそうだ。
長期戦を覚悟して、宿のランクを落とすかと考えながら商会を後にしようとしたところで、ネネから「サリちゃんづてでいいから定期的に連絡して」と言われていたことを思い出した。
渋々、商会の通信機を借りてサリに連絡を入れる。
『へー、また面白いことやらされてんね』
いろいろありながらもなんとか無事にザラモールを横断していることを伝え、ついでに愚痴をこぼすと、サリは興味なさげにフーンと言いやがった。
「他人事だと思って」
『他人事だし』
また何か食べている音がする。業務時間内じゃないのか。
『そればっかりは、さすがの私様でも力になれないな。トカゲってどんな味すんだろ。酒のつまみになるかな?』
「知るか」
蛇は魚に似ていると何かで読んだ気がするが、トカゲも似たようなものだろうか。
『それよりグロリアス教団のことなんだけど。きみがアイス食ってる写真に、教祖のグロリアって奴が映ってたじゃない』
「ああ、小さくだけど」
ネネが「お兄ちゃんが嫌なこと思い出さないように」と写真の交換を希望したので、俺の手元にあるのはグロリアが写っていない方だ。結果的に、サリの元にグロリアの写真が渡ったのでファインプレーだったと言える。腑抜けた俺の顔を見られたこと以外は。
『この前言ってたディーターって男の背格好と、似てる気がするんだよねえ』
「本当か?」
『ホントに小さく映ってるだけだし、正面でもないから確証は持てないけど』
しかしサリはこういう時、八割方確実だという情報しか口にしない。ほぼ間違いないのだろう。
「でも、ディーターはグラニスであの事件があった時には、もう出国してたんじゃないのか?」
『転移魔術が使えるんでしょ? 何かあった時に疑われないように、一旦出国したことにして、転移魔術で戻ってきたとか』
「……なるほど。あり得なくはない」
あれだけ派手な事件を起こしておきながら、ファルシェンでの教団の実態はまだ掴めていないらしい。
警察内部にも信者がいるくらいだ。あちこちに入り込んで根回しをしている可能性が高かった。ディーターの出国もその小賢しい工作の一つだとしたら。
『あと、どうやらそっちの方がグロリアス教団の力は強いみたいよ。こっちはソリオン教が幅利かせてっからね』
ザラモールやその周辺地域は土着信仰が多いと聞いたことがある。様々な宗教が入り乱れているため一つ一つの宗派が小さく、聞いたことがない宗教でも紛れやすい。
「……わかった。気をつけておく」
グロリアはあの時、俺のことを知っていてわざとちょっかいをかけてきたようだった。ザラモールの方が勢力が大きいとすると、俺の動きも知られていると見た方が良さそうだ。
信徒を増やそうとしている新興宗教が、首都なんていう人の多い場所で活動していないわけがないので、きっと出会う羽目になるのだろう。諦めにも似た確信があった。
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ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
おかげさまで、書籍版が本日3月25日発売です!
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今後ともよろしくお願いいたします。
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