からあげも良かったが、炭火の焼き串も香ばしくて美味しかった。ロック鳥は鳥の割に脂が濃厚なので、たれよりも塩の方が好みだ。
支配人に勧められるままに地元産の野菜もしっかり食べた。この辺りは農業が盛んで、首都にもキャベツや根菜類を出荷しているらしい。
確かにこのホテルに来るまでの道にも畑が広がっていた。
首都生まれ首都育ちで、例によって土いじりなど許されなかったので、野菜がどのように育つのかはまったく知らない。自分で育ててみるのも面白そうだ。
ピーマンに甘みがあるのも新鮮だからなのかと思っていたら、加熱すると苦みが薄れると調理しているシェフが教えてくれた。
でもやっぱり、甘みが際立つのはこの地域で取れたものが美味いからなんだろう。
バーベキューを心ゆくまで楽しんで、服や髪に付いた煙の臭いをシャワーで落とした後、昼頃にようやくホテルを発つことにした。
「本当にありがとうございました。リントヴルム様は当ホテルの恩人です」
「こちらこそ、ごちそうさまでした。ビュッフェもバーベキューも、とても美味しかったです」
「食事のみでのご利用も可能ですから、またぜひいらしてください! 割引しますから!」
「ありがとうございます」
しっかりと握手を交わした。少し遠いが、人目を気にせず好きなだけ食べられるビュッフェは魅力的だ。
しかも季節によってもメニューが変わるそうなので、今度は秋頃を狙いたい。
という食い意地はおくびにも出さず、今後に必要なことを訊ねることにする。
「ここから南方向に向かうバス停にはどう行けばいいでしょうか」
「それなら、停留所の近くまで定時にシャトルバスを運行していますよ」
「次は何時ですか?」
「ええと……。十三時になりますね」
時計を見ると、十二時を回ったばかりだった。
さほど遠くないのなら腹ごなしに歩いてもいいが、と考えていたら、いつものくせで表情を取り繕ってしまったのが、深刻そうに見えたらしい。
「お急ぎでしたら、車を出しますが」
「いえ、さすがにそこまでは」
愛想笑いで断ろうとした時だった。
「あのー……。僕も南に向かうので、車でお送りしましょうか」
そろりと後ろから声をかけてきたのは、俺とそう変わらない歳に見えるスーツ姿の男性だった。
愛嬌のある顔立ちで、中肉中背、やや猫背。
柔らかい茶髪を小綺麗に整え、清潔感を第一に考えたシャツにセンスの良いネクタイ、チャコールグレーのジャケット、きちんと磨かれた靴。腕時計とネクタイピンまで含めて、それなりの高級品だ。
「不動産の営業はお断りしますが」
「え!? どうして僕が不動産業だってわかったんですか?」
「いえ、なんとなく……」
投資物件の紹介をするために、実家に定期的に来ていた営業の男性――に付いてくる、新入りの営業と雰囲気が似ていたからとは言えない。
「確かに僕は不動産会社に勤めていますが、物件を売りたいわけではないんです。その、先ほどの会話が少し聞こえてしまって……。リントヴルムさんと仰るんですよね?」
「はい……」
厄介事の匂いがした。青年は人目を憚らず、ガバッと頭を下げた。
「首都警察の【瞬光魔術師】さんとお見受けします。どうか、僕を助けていただけないでしょうか……!」
エントランスでそんなことをされたら、無駄に目立ってしまう。よりによって、バーベキューから戻る客がぞろぞろと通り過ぎている時に。
「話くらいは聞きますから、顔を上げてください……」
「ありがとうございます!」
すぐに顔を上げた。なるほど、できる営業になりそうだ。
「ご無理を言って申し訳ございません。改めて、僕はセルジオと言います」
セルジオの運転する魔導車の中で、詳しい事情を聞く。客を案内する時にも使う営業用車両というだけあって、バスよりも座り心地がいい。
「主にあのホテルがある辺りから、エルダリス周辺までの土地や建物を扱っています」
エルダリスは、これから俺が向かう予定の地域だ。逃げられそうにない。
「よく、俺のことをご存知でしたね。エルダリスにもポスターが貼ってあるんでしょうか」
「去年まで首都の商社に勤めていたもので。お顔とお名前をよく拝見していました」
「そうですか……」
どこまで行けば、俺のことを誰も知らない土地に辿り着けるのだろうか。
「それで、どんな用件ですか? 休暇中なので、警察官としての仕事はあまりしたくないのですが」
我ながら信用を落とす発言だと思ったものの、いずれ辞めるのだから構わないなと思い直した。
「ええと……。とある物件の調査に同行をお願いしたいのです」
「物件の調査?」
そんなことを言って、体よく売りつける魂胆じゃないだろうなと訝しむ。
しかし運転に集中するために前方を見たままのセルジオは、至って真剣な面持ちだった。
「エルダリスの外れに、廃墟同然の屋敷がありまして。整備して売りに出さなくてはならないのですが、実はその物件、幽霊が出るという噂があって……」
「……事故物件なんですか?」
幽霊、お化け、ゴースト。言い方はいろいろとあるが、指すものは大体同じだ。
魔力が強い人間が亡くなった時に心残りがあったりすると、思い入れがある場所や恨みのある場所に残留思念が留まり、魔術的な現象を引き起こす。
通常ならそのうち薄れるのだが、怨念が強かったり、魔物と融合したりすることで悪霊になることもある。
「いえ、少なくとも前の持ち主からはそういった話は聞いていません。ですが、若者の間で肝試しスポットとして噂になってしまって」
セルジオは眉間に皺を寄せ、はあ、と大きくため息をついた。
「先日とうとう、勝手に侵入した上に怪我人が出たという報告が上がったんです」
そのため、実際にその幽霊とやらがいるのかを確認し、対策を講じて噂を揉み消さねばならなくなってしまったそうだ。
「でも、本当に幽霊とか魔物が棲み着いてるとしたら、僕だけでは太刀打ちできないじゃないですか。それで、腕の立つ魔術師を探していたところだったんです」
ホテルの支配人とは知り合いで、ちょうどそういう人材がいないか訊ねにきたところだったという。
「いやあ、まさか【瞬光魔術師】さんにお会いできるなんて。タイミングが良かったなあ」
俺からすれば最悪のタイミングだ。
「……エルダリスにだって、魔術師くらいいるでしょう。それこそ警察にでも頼れば良かったんじゃありませんか?」
「もちろん地元の魔術師にも、警察にも調査してもらったんですが、その時には何も出なかったんです」
「……じゃあ、何もいないのでは」
「いや、何かいるんですよ。その、怪我をした若者たちも白い何かを見たと言ってるんです」
上司からは絶対に正体を突き止めて屋敷を売れる状態にしろと詰められており、もはや八方塞がりらしい。
「もちろん謝礼はお支払いしますし、エルダリスでの滞在費と食事代は僕が持ちますから、お願いします……」
なんだか、行く先々で事件解決のかわりに食事代が浮く話ばかりに出会っている気がする。
それでも自分が人よりよく食べることに気付いてしまった以上、食費が浮くのは魅力的だ。
「……わかりました。正体を突き止めるという保証はできませんが、調査に付き合うだけなら」
「ありがとうございます!」
やっぱり呪われて――いや、認めたくない。