死なない現代ダンジョンとか、転生者にはヌルゲーすぎる   作:あゔぁゔぁゔぁ

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1 転生者は死んでも蘇る

 異世界に転生したとして、そこが仮に現代で俺にチートみたいな才能がなかったとしたら。

 果たしてその転生に何のアドバンテージがあるだろう。

 はっきり言って、特にアドバンテージはないはずだ。

 多少勉強ができたり、周囲より落ち着きを持てるかもしれないけど。

 それで周囲から変なやつと思われたら意味がない。

 

 代わりに、現代への転生――特に前世と変わらぬ現代日本への転生には安定が伴う。

 衣食住が保証され、明日への不安が何も無い。

 それだけでも、もしかしたら異世界に転生するよりチートかもしれないな。

 だから俺は、そんな安定した生活を第一に考えていたんだ。

 前世では、結局仕事と虚無い休日を言ったり来たりする、つまらない社畜人生になってしまったからな。

 しかも、最後は事故死。

 あんな経験したら、安定して充実した生活を送りたくもなる。

 

 ――が、それが両親の死によって立ち行かなくなって。

 この世界で稼ぐ方法を模索しなくてはいけなくなった時。

 俺は初めて、ダンジョンと呼ばれる前世との一番の違いに目を向けた。

 前世では、現代ダンジョンなんて呼ばれていた創作における舞台の一つ。

 それを前にした時、そこで今後の生活の糧を稼がなくてはいけなくなった時。

 俺はチートを持たない現代転生者の、たった一つのアドバンテージに気がついた。

 それは――

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()ことだった。

 

 

 ◯

 

 

 無機質な岩壁に囲まれたダンジョンで、俺はがむしゃらに逃走していた。

 背後から迫る濃密な死の気配、殺意と呼ばれる強烈な暴威の発露。

 それを、ただただ足を動かして遠ざけようと試みる。

 ――無駄だと解っていながら。

 唐突に、何かが振るわれる音。

 それがどのように振るわれたのか、確認する余裕もなく俺は前に飛ぶ。

 

「う、っお!」

 

 幸か不幸か、その一撃で俺の生命が奪われることはなかった。

 頭上を通り抜けていく、全長数メートルはあろうかという棍棒をちらりと見やる。

 これを回避できたのは本当にたまたまで、しかし回避できたところで数秒の延命が可能となったに過ぎない。

 転がりながら起き上がり、一瞬だけ後方を視る。

 そこには、人間の数倍はある巨体の”鬼”が立っていた。

 オーガ、と呼ばれる創作で見られるようなモンスター。

 それが、俺を射殺さんばかりに殺意を込めた視線を向けていた。

 恐怖を覚え、足がすくんでしまいそうな状況だが、構わず俺は駆ける。

 ――幸運だった。

 熱心な魔物なら、あのまま追撃して起き上がる前に死んでいる。

 あの一振りで勝利を確信したのに、殺せなかったことで向こうの手が緩んだのだろう。

 結果として俺は()()()()()()()()()()()()()()できたのだ。

 そのまましばらく走って、俺はようやく”その場所”にたどり着く。

 

「はぁ、はぁ……この体にびりっと来る感覚は慣れないな」

 

 そこは一見、これまで俺が走ってきていた「如何にも」って感じのダンジョン内部と内装はそう変わらない。

 しかしどこか、体にびりびりとした感覚が伝わってくる場所だ。

 オーガがそこに、肌の感覚を気にした様子もなく入ってくる。

 ここは一つの大きな部屋だ。

 入口は俺達が入ってきた場所以外になく、逃げ場はない。

 故に、オーガはどこか勝ち誇ったような顔をしている。

 対する俺は、意識を集中させて剣を構えた。

 それはあまりにも無骨な、「初期装備」という言葉が残る量産品の剣。

 実際、このアバターに最初からついてくる武器で、俺が握る唯一の得物でもある。

 

『グォオオオオッ!』

 

 オーガが咆哮とともに突っ込んでくる。

 速度は軽く車並だが、逆に言えば車程度の速度でしかない。

 正面からしっかりと相手を見て、躱すつもりで動けば回避は可能だ。

 何よりこの体は、実際の肉体より軽快に動くからな。

 振り下ろされる棍棒を避けて、俺は懐に潜り込むと剣を振りかぶり――

 

 

 ガンッ、と鈍い音を立ててオーガの足に叩きつけられた剣が折れた。

 

 

「あちゃー」

 

 まぁ、わかりきっていたことではある。

 そして俺は現在剣を思い切り振るっており、隙だらけだ。

 そこにオーガの足が振り上げられ――

 

 一瞬で、俺は踏み潰される。

 

 痛みはない、痛みに対する感覚はセーブされているからだ。

 それでも”死”が目の前に迫る感覚と、一瞬意識がブラックアウトする感覚はリアルである。

 しかしそれを、俺は何の気なしに受け入れた。

 直後、意識が覚醒する。

 そして眼の前にホログラフのパネルが出現した。

 

『リスポーンしますか?』

 

 と書かれたそのパネルの『イエス』を即座にタップすると、意識は再び先程までいたダンジョンに戻る。

 眼の前には俺を倒して、この場を立ち去ろうとしているオーガの姿があった。

 突如として”俺”が再び出現したことに、オーガは一瞬驚いたような素振りを見せてから――苛立たしげに棍棒を振り上げた。

 

 そこからは蹂躙だ。

 何度も、何度も、俺はオーガにすり潰される。

 棍棒に、足に。

 初期アバターである今の俺に、オーガを倒す手段はないのだ。

 最終的に、十回ほどオーガに”殺された”後。

 変化が起きた。

 

『グ、ォ?』

 

 オーガの体が、ふいに傾ぐ。

 やがて足をついて地面に倒れると――動かなくなってしまった。

 

「……この部屋には、スリップダメージを与えるギミックがある。オーガはそのギミックの影響を()()受けない。痛みは感じないし、ダメージを受けていることにも気が付かないほどだ」

 

 誰に説明するでもなく、俺はオーガの顔まで歩み寄る。

 剣を構えて、言葉を続けた。

 

「対して俺は、スリップダメージを当然ながら受けるものの、一度死んでリスポーンすれば体力は全快だ。結果として、俺はこの部屋でオーガに殺され続ける()()で――」

 

 そして、最後。

 もはや虫の息といった様子のオーガに剣を突き立てる。

 場所は、唯一今の俺がオーガにダメージを与えられる部位――瞳だ。

 殺意に満ちた瞳が。

 

 

「オーガを、討伐できる」

 

 

 まるで作業のように、すり潰された。

 

 

 ◯

 

 

「――聞いたかよ、またゴーストが出たらしいぜ?」

「ああ、聞いた。今度はオーガを単独で討伐したらしいな」

 

 ダンジョンの中で、二人の探索者が話しながら歩いている。

 その姿はどちらも派手というほどではないが着飾られていて、見るものなら一発で彼らが”手練れ”の探索者であると解るほど()()()()されている。

 何より、目鼻立ちが日本人のそれではなく、物語からそのまま飛び出してきたかのようだ。

 ベースは、ここ最近のトレンドである”異世界人”風のカスタム()()()()だろう。

 

 ――ダンジョンを探索する際に、アバターと呼ばれる”仮想の自分”が使われるようになって、十五年。

 探索者がダンジョンに生命を賭ける時代は、もう終わった。

 今では誰もがダンジョンに潜り、命の危険なくその恩恵に預かっている。

 しかしそれでも――

 

「ぞっとするよな。いくら死んでも初期アバターなら金を払えば無限リスポーン可能ったってさ。そもそもアバターですら死にたくねぇし」

「聞いた話によれば、アバターの死はまるで本当に死んでるみたいだそうだからな。()()()()()()()()()()()()()()けどさ」

 

 アバターを通してすら、”死”を経験することは異常なことであると人々は認識していた。

 当然だ、いくら本物の死とは違うとは言え、この世界の人間にとって、アレは紛れもなく”死”そのものなのだから。

 何より、彼らが死にたくない理由はもう一つある。

 

「そもそも、初期アバター以外のアバターは死んだらアバターも装備してるアイテムも全ロストなんだぜ? めちゃくちゃ金かけたこのアバターが消えたら、俺なら一生立ち直れないね」

「言えてる」

 

 カスタムアバターは高価なのだ。

 それこそ、有名なダンジョン配信者や最強クラスの探索者のアバターは、それ一つで国が買えるほどだという。

 だからこそ、彼らは思わない。

 

 彼らがゴーストと呼ぶ「無限リスポーンで強大な魔物を討伐する異常者」が。

 そもそも、カスタムしたアバターなんて持っておらず。

 レンタル費用が安価な初期アバターのみを使用し、何度も死にながら魔物を討伐していることなど。

 思っても見ないだろう。

 

 謎めいた異常な冒険者”ゴースト”。

 その正体は、鳴音タツミ。

 この世界でただ一人、本物の死を経験したことのある転生者。

 アバターの死を()()と切って捨てる異常者。

 そして――今はまだ、一部で噂されるだけの存在を世界に広く認知されていない探索者。

 いずれ、この世界に大きな楔を打ち込むこととなる、一人の青年だ。




死なないダンジョンとそれと相性が異常に良い転生者の現代ダンジョンモノです。
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